第30話 ぼくの村に、お祭りがやってくる♪
「ママぁ ヒイラギの枝、もらってきたわ~」
「あら、ご苦労さま♪ じゃあ、これを付けてちょうだい」
「はーい。クリス、いっしょにやるわよー」
「うんっ♪
【収穫祭】が近づいてきて、その準備で村はにぎわってる♪
お祭り……といっても、日本のそれとはずいぶんちがうけどね。
(でも、おいしいものがいっぱい食べられるのは同じだよね♪)
この世界の収穫祭は【秋の終わり】を意味していて……
そして農家のおうちの仕事納めでもある。
これからやってくる冬にそなえ……
(そしてこの年の豊作を、神さまに感謝するんだよね~)
その年に畑でとれた作物と、山でとれた獣を神さまに奉納して……
『今年も豊作でした、ありがとう』
『また来年もよろしくね?』
……って感じでお願いするんだ。
そしてその中心にいるのは、もちろん村の神官のアイナママ♪
「あ、広場のかがり火のやぐら、もう組み終わってたわよ?」
「ホント? 今年はどんなのだった?」
「んー、去年のよりはちっちゃいかしら?」
収穫祭のときには、村の広場にはきな【かがり火】が焚かれるんだ。
木やワラでやぐらを組んで、そこに火をつけて一晩じゅう燃やすんだけど、
この年に、25歳と42歳になった男の人が作る決まりだから、
毎年大きさやデザインがちがうんだよね~
「お清めの火なんだから、もっとハデなのにすればいいのに~」
「あんまり大きくしても、あぶないよぉ」
それというのも、その日は【秋の終わり】と【冬の始まり】の境目だから、
普段は閉じている【冥界への扉】が開くとされていて……
そこからご先祖さまのたましいが、おうちに帰ってくると言われてるんだ。
(だから、おもてなし♪ しないとね~)
ぼくがそう思いながら、お料理してるアイナママの後ろ姿をみていると……
それに気づいたレイナちゃんが、ぼくに聞いてきた。
「それよりクリス、今年のママのケーキはどんなのだって?」
「うんっ 干したイチジクとブドウ、それから木イチゴとクルミだって♪」
「やたっ! イチジク大好き♪」
そのおもてなしのために、それぞれのおうちでケーキを焼くんだ♪
この日だけはフンパツして、タマゴとハチミツをたっぷり♪
そして中には、ドライフルーツやナッツがいっぱい入ってる♪
それをご先祖様に捧げるんだけど……
「えへへ、ぼくも楽しみ♪」
「アイナママのがいちばんだけど、どこのおうちのもおいしいからね」
「んふふ♪ そーね、おナカをへらしておかなきゃ♪」
その日は村の子供と若い人がつれだって、ご近所のおうちをまわるんだ。
そして【ご先祖さまの代役】として、
それぞれのおうちからケーキをわけてもらう♪
(だからぼくたちは、このお祭りがずっと楽しみなんだ~♪)
けど? 【冥界への扉】が開くということは……
もしかしたら【悪霊】も来ちゃうかも?
と、いうわけで、お祭りの夜になると村の人たちは、
おうちのドアの横に魔除けをかざるんだ。
「ん、できた♪ どーよ? クリス!」
「おぉぉ、カッコイイ!」
「んふふ♪ でしょー♪ ま、ちょっとサカナくさいけどね」
それは赤い実の付いたヒイラギの枝を、輪になるように編んで……
さらに焼いた魚の頭を付けたものなんだ。
(なんだかクリスマスのリースみたい! 魚の頭がついてるけど)
「でもこのにおいで、悪霊を近づけないんでしょう?」
「それに、ヒイラギのトゲトゲが悪霊の目を刺すんだよね?」
「けど、ご先祖さまは刺されないのかなぁ?」
「んー、自分のおうちだから、平気なんじゃない?」
「なるほどー」
そしてその日はおうちのすべての火を消して……
広場で焚かれた大きなかがり火のところに集まるんだ。
そこではお祭りのために用意した、お酒やごちそうがいっぱいあって……
「それに、お肉も楽しみだよね~」
「そうね♪ 今年はブタさんを3頭買うって、村長さんがいってたわ!」
「おー」
この村ではブタさんを何頭か買って、お肉にする。
それも神さまにいったん奉納するけど……
(その後はぼくたちが食べちゃうけどね~)
(太陽神さま、豊穣神さま……ごちそうさまです♪)
そして最後に、かがり火の火を分けてもらって……
それぞれのおうちに持って帰る。
それは【清浄な火】で、悪霊や魔物を防ぐといわれてるんだ。
(なんというか……日本の【お盆】と【節分】を足したみたいだよね~)
(こういうのって、やっぱりドコも似ちゃうものなのかな~)
「そういえば……青年団の狩り、けっこうエモノが多いみたい♪」
「ホント? あぁ……ぼくも行きたかったなぁ」
「クリス、狩りなんてした事ないじゃない」
「んー」
そしてこのお祭りのときは、青年団の年少組の人たちも、狩りをがんばるんだ。
獲物を単独でしとめることで、ちゃんと一人前あつかいされるから。
ちなみにぼくは……この身長と体格のせいで、
村の青年団の人たちから『まだ早い』って、参加できなかったんだ……
(ホントは獣どころか、魔物も討伐してるんだけどなぁ)
だけど、魔物を狩ってるのはアイナママの判断でナイショにしてる。
やっぱり、村の人たちに心配をかけたくないから……ね。
(けど、魔物はぼくがほとんど狩り尽くしたし?)
(オオカミの群れとかも討伐しといたから、狩りがしやすいのかも)
そんなことを話していたら──
ドンドンドンっ
慌ただしくおうちのドアが叩かれて、村の人が駆け込んできた。
「た、大変です聖女さま! 村に獣が入り込んで──」
◇◆◆◇
「ブギッ フゴゴッ!」
その入り込んできた獣は……イノシシだった。
しかもかなり大型で、ケガをしているのか、とても怒ってるみたい。
今は村の広場にいすわって、じっとあたりを警戒してるけど……
「けが人をこちらに集めてください!」
「それから獣は刺激しないように! 遠くから囲むだけにしてくださいっ」
アイナママが村の人たちに指示を飛ばす。
なによりケガをした人の治癒を優先するみたい。
「く、クリスぅ……なんであんなおっきなイノシシが……」
「たぶん……山でしとめきれなくて、怒って追いかけてきたんだ」
「そ、そんなぁ」
大イノシシはさっきまで大暴れしていたみたいで、けが人がいっぱい出てる。
幸い、亡くなった人はいないみたいだけど、大けがした人はたくさんいる。
(アイナママの神聖魔法でなおる……よね、ぜったい)
そしてまわりを見れば、村の男の人たちが遠巻きに大イノシシを囲んでる。
いちおう、村の門の方はあけてあるみたいだけど……
大イノシシがそっちへ逃げてく気配はない。
(それに……武器は猟師さんの弓に、クワとかの農具かぁ)
(いざというときのために、村には剣や槍もあるけど……)
(それを使いこなす人は、ほとんどいない)
そう、ぼくを除いて……
だからぼくは──
「アイナママ、ぼくがやるよ」
「クリス……でもっ」
「だいじょうぶ、ちょっと大きいだけで、魔物よりは怖くないよ」
「で、ですが……」
「いまこの村で、剣のスキルが一番高いのは、ぼくなんだ」
「だから、ぼくがやる」
「クリス……わかりました。でも、くれぐれも気をつけて」
「はい、アイナママ!」
そんなアイナママの応援をもらって……
ぼくは物陰に隠れて、魔法を発動させる。
「【
そして左手の魔法陣から取り出した、細身の剣。
最近はその扱いにもすっかりなれて、手にもなじんできた。
「ちょ、クリス! まさか……」
「だいじょうぶ、レイナちゃん……ぼくを信じて?」
「く、クリスぅ」
瞳を見つめてそういうと、レイナちゃんは頷いてくれた。
「ぜ、ぜったいにケガなんてしないでねっ」
「わ、わたし……応援してるからっ」
「うん、ありがとうレイナちゃん」
ぼくは、ゆっくりと大イノシシに向かって歩いてゆく。
それを見て、村の人たちがざわめき始めるのがわかった。
けど、アイナママが黙って見てるのに気づくと、それも収まってゆく。
もちろん大イノシシもそれに気づいて、こっちに身体を向けた。
(大きい……3メートル以上あるんじゃないのかな?)
(高さだけでも、オトナの人くらいあるみたいだし)
もしかしたら、魔物化してるのかもしれない。
討伐したら魔石にかわるから、すぐわかるけど……
(とりあえず、それは倒してみないと……ね!)
これでも魔王とも戦った事のある、元勇者だ。
その巨体に緊張はあるけど、恐怖はない。
そしてぼくは大イノシシをにらみながら、魔法をとなえる。
「【ソニックブレード】!」
キュ──ン
(よし! こっちに向かって……)
「こいっ!」
ぼくは建物を背にして、大イノシシを挑発する。
その態度に大イノシシは怒ったのか……
ぼくに向かって突進してきた!
ドドッ ドドドッ!
(まだまだ……いまっ!)
【体術】のスキルが反応し、身体が勝手に動き出す。
ぼくはイノシシに背を向けて駆け出し……
【跳躍】のスキルで地面を蹴って建物の壁に、着地──
「やっ!」
さらにその壁を三角跳びでおもいきり蹴って──
ぼくの身体が、迫りくるイノシシめがけて射出される!
「たぁぁぁっ!」
そして突進してくるイノシシの脳天めがけ、
体重の乗ったソニックブレードを叩きこむ!
「ブギィィィっ!!」
その刃は、強固な頭蓋を難なく貫通し……
ぼくは剣から手を放し、その勢いのままイノシシの後ろに飛んで──着地した。
-------------------------------------
【ソニックブレード】
種別:精霊魔法
状況:常時
対象:術者、対象者
効果:精霊に命じ、術者の持つ剣の刀身に風をまとわせる魔法。
そしてその風は微細に振動し、その振動数は1秒間に4万回を超える。
刃身表面の振動により対象の接触部に生じる摩擦を低減させ、
容易な切断が可能となる。
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(ぼくの欠点は【筋力】と【攻撃力】がないこと……)
(だからそこを、魔法で工夫する)
(筋力がないなら、筋力がなくても斬れる武器があればいいんだ)
無手のまま振り返り、油断なくにらみつける。
そして大イノシシはゆっくりと倒れ……地響きをたてた。
「よし!」
その結果、思いついたのがこの【ソニックブレード】。
現代日本にも超音波を利用した工具は実用化されていて、
とても弱い力で対象物を切断できるのが特徴だ。
(【風精霊魔法】のスキルがあってよかった)
【精霊魔法】は、土・水・火・風の精霊たちに協力してもらって発動する魔法。
(だからそのぶん、いろいろと工夫ができる)
なので見た目にはなにも変わらないけど……
その刃は触れるだけでサックリと切断できるという、
すさまじい切れ味になってるんだ。
「やったぁ!」
思わずガッツポーズをとるぼく♪
そして、それを見た村の人たちは──
「うおぉぉぉおっ すげぇぇぇっ!?」
「ま、マジでやっちまったぁぁぁっ!!」
「クリスくんっ すごぉぉぉい♡」
その結果を見とどけて……大喜びしてくれた♪
そして──
どかっ!!
「ふごっ!?」
「クリスぅぅぅっ!?」
「れ、レイナちゃん!?」
レイナちゃんの激しいタックルのあと、そのままハグされるぼく。
「よ、よかったぁぁぁ、クリスがぶじでぇぇ!」
「それに……すっごくカッコよかったぁぁ!!」
「レイナちゃん……」
そんなふうにぼくに抱きついたまま、喜んでくれるレイナちゃん。
みんなで大喜びしてくれる村の人たち。
そしてそんなぼくを、誇らしげな笑みで見つめてくれるアイナママ。
(やっぱり……みんなの喜ぶお顔が、いちばん嬉しいや♪)
そのぼくに向けられるみんなの笑顔は……
勇者だった時のそれよりも、もっと嬉しかったんだ♪
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