第29話 私、ご両親との同居もオッケーですよ?

 担当を務めていたアマーリエ受付嬢チーフ(22)は、

 この時の様子をこう語っている。


「アイナ様のビキニですか?」

「ええ、覚えていますよ……何もかも」

「あんな衝撃を受けたのは、受付嬢をやってて初めてでしたからね」

「え? 大げさじゃないかって?」

「はぁ~ やっぱりあなた達は判っていない、アイナ様のすごさを』


「それは、あなた……私もいろんなビキニを見てきましたよ?」

「その中には明らかに【自分のレベル以上のビキニ】を装備してる方もいました」

「別に違反ではありませんし、とやかくいうつもりはないんですけどね……」

「彼女たちにしてみれば、ちょっと見栄を張りたかったんでしょうし」

「小さいビキニこそ、高レベル冒険者の証ですから」

「とはいえ……こちらはギルドの職員ですよ?」

「その方のレベルが、ビキニと合っていないことなんてお見通しです」

「言わせてもらえば……ただの露出狂みたいなものですよね」

「本来、その小さなビキニを装備する資格がないんですから」


「ですが……これはアイナ様のお話ですよね?」

「私もそのビキニを見て、一瞬なにが起きているのか……判りませんでしたよ」

「こう……ただただ広い真っ白な丸いキャンパスに、小さな黒い三角形がふたつ」

「理解に苦しみましたね、なんだろう……このアンバランスな対比は? と」

「そうしたら……アイナ様のおっぱいだったんですよ」

「受付嬢をやっている訳ですから、当然アイナ様のお姿は何度も拝見しています」

「しかしビキニと神官服では大違い、しかもレベル50台の【英雄級】ビキニ」

「なんというか……そのおっぱいの存在感も、ビキニが持つオーラも全てが本物」

「受付嬢の私が言うのも何ですが、ちょっと……いえ」

「すごく憧れちゃいますよね、女として♡」


 ◇◆◆◇


「たぁっ!」

「キュゥゥゥ……」

 ぱぁぁ……


 ぼくが魔物を斬ると、その身体はまっぷたつ、そして光になった。

 そして魔石を落とし、その数を減らしてゆく。


「ふう……やった! これで18個め♪」

「あぁ、クリス……がんばって!」


 ぼくの後ろではアイナママが、はらはらしながら見守ってくれてる。

 そしてぼくが相手をしてるのが……

 この前の【アイスゴースト】だったんだ。


「じゃあ、こんどはこっち!」


 さっきとは別のアイスゴーストに剣をふるうぼく。


「えいっ!」

「キュゥゥゥ……」

 ぱぁぁ……


 またもや成功♪ これで19個!

 しかも、だんだんコツがつかめてきた♪


(やっぱりこれも、スキルのおかげだよね♪)


 そしてなぜ、ぼくがまた、

 アイスゴーストの討伐をしてるかというと……?


 ◇◆◆◇


 しばらく前──冒険者ギルド


「アイスゴーストの討伐……ですか?」

「はい、この前ぼくがうでわを拾ったところの、アイスゴーストです」

「その、『なぜ?』と、お聞きしてもよろしいですか?」

「もちろんです」

「ええと……あの場所って、いつもアイスゴーストが出るんですよね?」

「はい、いわゆる【湧き】のポイントがあるらしく……」

「あの場所は、常にアイスゴーストが湧き続けていますね」

「ですからあの場所は、ほとんどの人が近づけなくなっちゃってますよね?」

「はい……」

「だから、あそこにアイスゴーストが湧かなくなれば……」

「いろんな人が助かるんじゃないかなー? って」

「さすがはクリスくんです。その、実は……」

「あっ、あるんですね?」

「はい……厳密には、依頼ではないのですが」

「ギルドが指定した【特定魔物発生地域】の対象地に設定されています」

「とくていまもの……」

「つまり……『ここはいつも魔物が出て、ぜんぜん開発とかできないなー』」

「『でも、だれも討伐依頼を出してくれないなー』」

「『じゃあ、ここを誰か討伐してくれたら、ギルドがお金あげちゃおうかなー』」

「……という感じですね」

「わかりやすい」

「ただしこの場合、【討伐】ではなく【根絶】が条件になります」

「こんぜつ」

「つまり、二度とそこから同じ魔物が湧かなくなること……ですね」

「なるほど」

「しかし……クリスくんはレベル4ですよね?」

「アイスゴーストは【単独】でしたら討伐推奨できるレベルなのですが……」

「今回のような大量に湧き出る場合は、その……」


 あ、今の【レベル4】は……

 ぼくが初めてギルドに来たとき【レベル1】に偽造したけど、

 それにぼくが討伐した魔物の経験値をぜんぶ足したら……

 今どれくらいのレベルになってる?

 って【万物真理ステータス】に聞いたら、【レベル4相当】っていわれたんだ♪


(ホントはレベル63のままで、ぜんぜんレベルアップしてないけどね……)


 とはいえ、ギルドやアイナママたちには、

 【順調にレベルアップしてる】って、見せないといけないし?

 ウソになっちゃうけど……これはしかたない。うん。


「あーでも、パーティーにアイナママがいたらどうですか?」

「うっ ……ずるいです、クリスくん」

「アイナさんを基準にしたら、ほとんどの魔物が討伐推奨になっちゃいます!」

「えへへ♪ でも、それだけ安全ってことですよね?」

「しかもアイナママなら……」

「うふふ♪ ママ、ゴースト系の浄化ならちょっと自信があるわ♪」

「うぅっ アイナさん、ゴースト系討伐の超エキスパートじゃないですか!?」

「しかも神官女性の最高位……【聖女】様ですし!」


 ◇◆◆◇


 と、いうわけで……

 アマーリエさんも折れてくれて、ぼくはこの前のアイスゴーストに再挑戦中!

 あ、いま着てるフカフカの毛皮のコートと帽子は、

 アマーリエさんが借してくれました♪

 だから女のコ用のなんだけど……なぜだかぴったり。

 せぬぅ。


「たぁっ!」

「キュゥゥゥ……」

 ぱぁぁ……


 アイスゴーストは、とにかく剣をよけまくるし……

 よけたらよけたで【氷結】の魔法を放ってくる。

 そしてヘタに斬りつけると、分裂しちゃうという超やっかいな魔物。

 なのに基本弱いから、魔石のお値段もすっごくお安いという【貧乏くじ】。

 だからアイスゴーストの討伐は、とにかく冒険者に人気がないんだ。


(けど剣の練習相手としては……最高かも──ねっ!)

「キュゥゥゥ……」

 ぱぁぁ……


 アイスゴーストの弱点は、炎系の魔法と浄化系の魔法。

 だからいざとなったら【ホーリーブレス】をアイナママにお願いしてるけど……

 今のところ、なんとかなってる感じ♪


「よっし! 30個いったぁぁ♪」


 剣で倒すコツは……とにかく速く、そしてコンパクトな振りで斬ること。

 そしてちょうど半分くらいのサイズに斬ること。

 逆に、大ぶりで斬りつけると避けられるし……

 中途半端なサイズに斬ると、分裂してどんどん増えちゃう。


(しかもアイスゴーストが【湧く】原因、わかっちゃったし♪)


 例によって【万物真理ステータス】に聞いたら、

 わりと大きめな魔石が、地面の中に埋まってるみたい。


(うん、うでわが探せたんだもん。それくらいできると思ったけど)

(ぼくの【万物真理ステータス】さん、ほんと有能すぎない?)


 とはいえ、これで安心して剣の練習にはげめる♪

 アイスゴーストも、ていねいに倒していけば、こわい魔物じゃない。

 ぼくはそんなおきらくな【練習モード】で、もくもくと討伐し続けるのでした♪


 ◇◆◆◇


(ふうぅ……やった! 100個まであと2体!)


 あれから……ちょっと【湧き】が悪くなってきたので、

 休憩をいれつつ、2時間くらい討伐をし続けたんだ。

 いまのところ、空振りしての魔法攻撃はゼロ。

 分裂は4~5回くらいさせちゃったけど……

 すぐに倒したからぼくへのダメージはやっぱりゼロ♪

 だけど……


「………………(´・ω・`) ショボーン」

(うわ、アイナママがとってもしょんぼりしてる!?)


 もしかして……ぼくがケガしないのは嬉しいけど……

 ぜんぜん出番がないのも……やっぱりさびしいのかな?


(うん……じゃあもう、練習はいいかなぁ)

(あと2体討伐したら──)

「せいっ! やっ!」

「キュゥゥゥ……」「キュゥゥゥ……」

 ぱぁぁ…… ぱぁぁ……


 そしたらぼくは……


「ていっ やぁ!?」

「あぁっ しまったー(棒)」


 わざと中途半端に切りつけて、アイスゴーストを一気に増やした。

 そしてアイナママを振り返って──


「あ、アイナママっ お願いっ たすけ──」

「【ホーリーブレス】♪」


 パァァァァァ…………


 アイナママが杖を掲げて神聖魔法を放つ。

 そのしぐさでおっぱいが【ぶるんっ】って揺れた。

 そしてレニーさんの【ホーリーブレス】とは段違いに明るい光が広がって……


「まぶし! って、倒した魔物がぜんぶ【聖水】をドロップしてる!?」

(もうゴースト系は、全部アイナママ一人でいいんじゃないかな)


 するとアイナママはぼくに駆け寄って……


「もう♪ クリスったら……♪」

「あれほど油断をしてはダメ♪ って、いったでしょう?(ニコっ)」

(アイナママ、とってもうれしそう……)

「ご、ごめんね? アイナママぁ」

「うふふ♪ でもクリスが無事で、ほんとうに良かったわ♪(ニコニコっ)」

(うぅ、アイナママの純粋な笑顔がまぶしいっ)

(って……じゃあいまのうちに!)


 ぼくは【万物真理ステータス】に教えてもらった魔石を掘り返して……


「アイナママ! 見てぇ!?」

「さっきから魔物が湧くところ掘り返したら……」

「とんでもないものを見つけちゃったぁ、どうしよう(棒)」

「まぁっ 大きな魔石……きっとそれが原因ね」


 アイナママはぼくにその魔石から離れるようにいうと……


「【リザレクト】!」


 キラキラキラ……


 アイナママの放つ神聖魔法が……その魔石にふりそそぐ。

 その聖なる光に包まれて、魔石が【浄化】されてゆく。


-------------------------------------

【リザレクト】

 種別:神聖魔法

 状況:常時

 対象:術者、対象者、魔物

 効果:神々の神聖なる慈悲の力で、戦闘不能の者を回復することができる魔法。

    (死者の復活ではなく、あくまで戦闘不能のみ)

    また死霊、もしくはアンデッドに対しては、強力な浄化作用がある。

-------------------------------------


「あ……見て!アイナママ!」


 すると魔石からは……ひとりの女性の姿が浮かびあがった。

 けれどその姿は半透明で……そして白い髪に褐色肌。

 そしてその頭には、ヤギさんみたいな角が生えていた。


「あれは……【魔族】!?」

「そう、ですね」


 けれどその魔族は穏やかな笑みを浮かべると……

 そのまますうっと消えてしまった。


「天に……召されたのかな?」

「魔族の魂が、人族と同じ天に召されるとは考えにくいですが……」

「それでも今の女性は……召されるべきところへ向かったのでしょう」

「……だよね」


 【魔族】は魔物と同じく、その身体に魔石を持つ……

 邪神の眷属ともいえる、人族の天敵だ。


(そしてかつての【魔王】も、魔族のひとり)

(だから魔族は勇者のカタキ……)

(アイナママ、きっとふくざつな気持ちかも)


 ともあれ、これでもうアイスゴーストが沸くこともない。

 ぼくはその魔石をしまって、ようやく依頼達成を実感した。


 ◇◆◆◇


 ゴトン!

「はい、アマーリエさん♪ これ原因の魔石です」

「……えっ」


 ジャラララ……

「それからこっちは、アイスゴーストの魔石です」

「……えっ えっ」


 ぼくとアイナママは、依頼達成の報告のために、またギルドにきてる。

 そして魔石をわたしたんだけど。


「あの……これをクリスくんが?」

「あ、ハイ」

「大きい魔石の浄化は、アイナママがしてくれました♪」

「こほん、探し出したのはクリスですよ?」

「えへへ♪ あと、アイスゴーストの魔石は、100個がぼくのです」

「残りはアイナママが魔法でサックリ倒してます♪」

「うふふ♪」

「で、では……アイスゴーストを……クリスくん単独で100体、ですか?」

「そうですけど?」

「あ……コート、ありがとうございます♪」

「いちども魔法をもらわなかったんで、汚れてないと思いますけど……」

「ま、魔法も受けなかったんですか!?」

「はい、ぜんぶ斬っちゃいましたから♪」

「し、しかもっ あの塩漬け中の塩漬け! な、あの面倒な依頼を……」

「たった1日で達成してしまうなんて!?」

「く、クリスくんっ すごすぎです!?」

「そ、そうですか? えへへ……てれちゃいます♪」


 アマーリエさんにほめられちゃった♪

 とってもうれしい。


「その、クリスくん? 歳上の女性に興味はありますか?」モジモジ♡

「………………え?」

「その……私、家事には少々自信がありまして♡」

「はぁ」

「そそ、それに私っ ご両親との同居もオッケーで──」

「コホンっ アマーリエさん?」

「は、はひっ アイナ様っ!?」

「クリスはまだ、そういったことを考えるには早すぎます」

「し、しかし!」

「それに、そういった話は……」

「まず母である、わたしを通していただかないと(ニコっ)」ゴゴゴゴゴ……

「ひぃぃぃぃぃっ!?」


 そんあアイナママの【笑顔の威圧ゴゴゴゴゴ】に、アマーリエさんはまた……


「ちょっ アマーリエさんっ 土下座とかホントにヤメてよぉ!?」

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