第27話 アイナママの、とってもステキなビキニ♡

「ふ……ふふっ」

「ふふ?」

「ふしだらなママと笑いなさいっ」

「思ってないよっ そんなこと!?」


 アイナママはよっぽど恥ずかしいのか、泣きそうなお顔でそういったんだ。

 というか……なんでビキニ!?

 それにここっ 初心者冒険者でもなんとかなる魔物しか出ないよ!?


(はっ!? ここは──)


 そう……ぼくは思い出したんだ!

 街ではみんなビキニが普通、あたりまえだった。

 だから、誰もわざわざ指摘なんかしないんだ。


(でも、やらしい目で見てるおじさんとかはいたけど?)


 だから、だからっ

 きっと今回は……これが正解!


「あ、アイナママ? そのビキニ、とってもにあうね♪」

「く、クリス……」

「えへへ♪ アイナママがいつもきれいで……ぼく、うれしいな♪」


 と、とにかくほめる!

 さりげなく……着ててあたりまえっぽく!

 こ、これでどう!?


「クリス、ママはね……」

「うんうんっ」

「ま、ママみたいな年増は……こんなビキニなんて着ちゃいけないんですぅぅ」

(だ、ダメだったぁぁぁっ!?)


 アイナママはその場でしゃがみこんじゃって……

 しくしくと泣きはじめちゃった!?


「あ、アイナママは……まだぜんぜんわかいよっ!?」

「それにそのっ レニーさんと、たいしてちがわないし!」

「ぐすっ れ、レニーさんは……」

「うんうんっ」

「あの人は……細いから、まだいいいんですぅぅ」

「わたしみたいなぽっちゃりさんは……ダメなのよぉぉ!?」

「そんなことないよ!?」


 そ、そりゃあ確かに?

 ぼくが勇者だった、アイナママが10代のときに比べれば?

 ちょっと……ぽちゃ♡ っとしてるけど?


(アイナママは……おっぱいがおおきい)

(それはもうっ ぽちゃ♡ とか気にならないくらい!)

(だからそのおっぱいはもはや、大正義なんだよ!!)


 だけど……それをいってもどうにもならないのは、ぼくにもわかる。

 アイナママはふだんから、そのおっぱいの大きさで、肩こりに悩まされてる。

 だからいつも、ぼくが肩たたきしてあげるんだけど……

 なのでそのおっきいおっぱいの、真なる価値に気づいていないんだっ!?


「うぅ……年増でごめんなさい……ぽちゃでごめんなさいぃ」

「ちょ、アイナママ!?」

「うぅ……クリス、ママはもうダメです……」

「ママを置いて、あなたは先に──」

「ってここ、ぼくたちのおうちの前なんですけど!?」


 ダメだ、アイナママのダメージが深すぎる……

 というか……


「ね……アイナママ? じゃあなんで、ビキニを装備してきたの?」

「そ、それは……」

「そもそもここは、たいした魔物もでないし」

「それにアイナママは、レベル56の【英雄級】冒険者でしょう?」

「だったらビキニなんてなくても、じゅうぶん強いんじゃ──」

「クリス……」


 そんなぼくの言葉を、アイナママはさえぎった。

 そして……


「ママはね、かつて魔族との戦いのなかで……」

「とても大切な人を、失ったんです」

「あ──」


 それは……きっと勇者のこと。

 前世のぼくの、恋人だったアイナママの──


「10年以上たった今でも、その時のことを夢に見ます」

「そして、そのたびに思うんです」

「あの時に、ビキニアーマーがあれば……と」

「もしかしたら、あの人を失わずに済んだのかもしれないと」

「………………」


 ぼくも、アイナママたちを強制転移させたときのその顔を……

 今でもはっきりと思い出すことができる。

 そしてもう、あんなアイナママの顔は見たくない。


「そしてママは……クリス、あなたを失うのがなによりも怖いんです」

「ですから、ママのできる最善の装備で望みたいんです」

「アイナママ……」


 そしてそんな決意に満ちたアイナママのお顔を見ているうちに

 ぼくはふと思い出す。

 あのぼくが熱を出して寝込んだ夜も……

 こうしてビキニを装備して、回復魔法をかけ続けてくれれたことを。


「うん……そうだよね」

「ありがとう、アイナママ。ぼくを守ってくれて」

「え……」

「それで……もういちどいわせて?」

「アイナママのビキニ、とってもステキだよ♪」

「クリス……」

「それにビキニのおかげで、女性はとっても死ににくくなったんでしょう?」

「え、ええ」

「だったらぼくも、アイナママがビキニを装備してくれて……うれしい♪」

「ぼくだって、アイナママがケガしたり死んじゃったりするの、イヤだもん」

「そう……ですね」


 そんなアイナママに、ぼくは手をさしだした。

 そしてその手をとって、立ちあがるのをおてつだいする。


「あ、ありがとう……クリス」

「ふふ、あなたはほんとうに……優しい子ですね♡」

「えへへ、アイナママがそう教えてくれたから♪」

「まぁ、うふふ♪」


 そんなぼくたちは、その手をつないだまま……

 なかよく裏山に向かって、歩きだしたのでした♪


 ◇◆◆◇


「たぁっ!」

「ピギ──っ」


 あれから小一時間ほど歩いた山の中、

 ぼくはアイナママに見守られて、ジャッカローブの討伐中です。


「ふうっ……あ、【薬草】のドロップアイテムが出た♪」

(えへへ、とってもいいかんじ♪)


 ジャッカロープは角が生えたうさぎさん──みたいな魔物なんだ。

 見た目はとってもかわいいのに、じつはけっこう凶暴。

 油断してると、こっちがそのするどい角に突きさされちゃう。

 今回はアイナママが見てるから、最初から【気配遮断】のスキルを使ってる。

 それで魔物にそっと近づいて……一気にその首すじに、剣を突きこんだんだ♪


 ぱぁぁ……


 魔物はそれで息絶えたみたいで、

 ぱぁっと光って……ポトリと魔石を落とした。


「よし、これで3つめ♪」

(アイナママも、これなら安心してくれるでしょ♪)


 ちなみに、ぼくらの世界の剣は、それほど切れ味がよくない。

 だから、日本刀みたいにスパっと切るんじゃなくて、

 チカラでムリヤリ断ち切るイメージ?


(どっちにせよレベル1相当のステータスのぼくじゃ、それもムリだけどね~)


 だからぼくみたいなチカラのない剣士は、【突き】が基本なんだ。

 もちろん、【斬る】という【線】の状態から、

 【突く】という【点】になるわけだから、難易度がぐんと上がるんだけど、

 そこはレベル87のスキル、それはもう正確に、まっすぐに突いてくれるんだ♪


「えへへ、アイナママ? いまのどうだった?」

「そうですね……剣は素人で、正直よくわかりませんが……」

「それでも、とても綺麗な剣に見えましたよ♪」

「そ、そう? えへへ」

「ええ、剣の練習……だいぶ頑張っていたようですね」

「こうしてその成果が出て、ママも嬉しいわ♪ ちゅっ♡」

「やぁん♡」


 そういって、ほっぺにちゅ♡ ってしてくれるアイナママ♡

 こんなご褒美があるならぼく、いくらでもがんばれちゃう♪


(そ、それにしても……)


 アイナママの装備は、かつての勇者の従者だったときと同じで……

 けっこうゴツい金属製のガントレットに、同じ素材のすね当て。

 背丈ほどある長い杖は、神殿のシンボルマークを模したハンマーになってる。

 実はけっこう重くて、それで叩かれた魔物はひとたまりもありません。

 そしていつもと同じ、長いベールと神官服──


(やっぱり神官服っ おっぱいの上のところでバッサリなくなってるし!?)


 アマーリエさんみたいに、長くつ下を黒いレースのガーターベルトで吊ってて、

 足元はやっぱり黒いハイヒール。

 そしてビキニは黒一色に、白いレースのラインがおしゃれ♪

 だけど、レニーさんよりもサイズが小さい!?


(お、おっぱいはおおきいのに!?)


 ブラもそうだけど……とくにショーツのほうが!?

 そしてお尻のところなんかは、もう覆ってない!?


(こ、これは……【Tバック】というやつなのでは!?)

(どきどき)


 しかもアイナママのおしりは、ちょっと大きめ? だから……

 歩くたびにどんどんお尻にくいこんじゃって……あぁっ


(こ、これは……アマーリエさんの【OL風ビキニ】よりも)

(【フェチコスプレ度】が高いのでは!?)

(どきどき)


 と、とはいえぼくが、ヘンな目で見たりしたら……

 アイナママがまた恥ずかしがっちゃう!?

 だからぼくはなるべく意識しないように──


「クリスっ 危ないっ」

「えっ」


 ママはぼくを後ろにかばうと、

 その杖を両手で高くかかげた。

 そしてアイナママの身体から、膨大な魔力が溢れだして──


「来たれっ 神々の塞壁!【アスガルド】!」

「えっ えっ」


 アイナママの掲げた杖から、神聖魔法が放たれる。

 そしてその光の奔流は、きれいな幾何学模様を描きながら──

 ぼくたちの周囲をとり囲んだ!?


-------------------------------------

【アスガルド】

 種別:神聖魔法

 状況:常時

 対象:術者、対象者

 効果:神聖魔法の最上級防壁魔法。

    その光輝く防壁は、あらゆる物理攻撃はもちろん、

    炎熱や電撃、果ては光や空気まで遮断してしまう究極の防壁。

    魔力消費が膨大、かつ制御がかなり困難なため、

    複数(3~5人)での同時詠唱が望ましい。


-------------------------------------


「あ、アイナママ……」

「ふう、危ないところでした」

「え?」


 そんな厳しいアイナママの視線をたどると……


「あ……あれ?」


 そこには、目の周りが黒くて、しっぽが太い……動物、

 タヌキさんがいた。

 しかも15メートルくらいむこうに。


「え、ええと……アレのこと?」

「クリス……油断は禁物です!」

「さぁ! 今のうちに体勢を立て直して!」

「ええと……あっ」


 でもアイナママのその声で、タヌキさんはおどろいて、

 そのまま茂みのむこうにいなくなっちゃって……


「と、というか……アイナママ? あれ魔物じゃなくて、動物──」

「け、獣だって危ないじゃないですか!?」

「くく、クリスがもし噛まれたりしたら……」

「あぁっ このままじゃ クリスが死んじゃう~!?」


 ちなみに……

 【アスガルド】はアイナママの最強の魔法で、

 それはつまり、対魔王戦とかで使うべき魔法であって──


(あ、アイナママ……最善の装備で、っていってたけど)

(やっぱり過保護なだけ、なんじゃ……?)


 そしてその【アスガルド】の天高く立ちのぼる聖なる輝きは、

 遠く離れたケストレルの街からも、はっきりと見えたそうです……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る