第23話 アイナママの手料理♪

「ではクリスくん、こちらが今回の依頼の報酬になります」

「ありがとうございます♪」


 ぼくはアマーリエさんから報酬を受け取って、背負いぶくろに大事にしまった。

 ぼくが初めて、外ではたらいたおちんぎん♪

 とってもうれしい♡


(じつは前世でもぼく、アルバイトしたことなかったんだよね~)


 勇者をやる直前のぼくは、高校生だったんだけど……

 じつはコンビニで、アルバイトをするつもりだったんだ。

 でも、その勤務初日に──


(勇者召喚……されちゃったんだよねぇ)


 そして勇者のお仕事も、おちんぎんをもらう前に死んじゃったので……

 このお金はほんとうに初めての、おちんぎんだったりするんだ♪


「なにはともあれ……クリスくんもレニーさん姉弟も、無事で何よりでした♪」

「えへへ、ありがとうごさいます♪」

「なんというか~ ホントにレニーさんたちにお世話になりっぱなしで」

「そういえば、昨夜はレニーさんたちの定宿に、お泊まりになったんですよね?」

「あっ はい♪」

「ぼく、じつはお泊まりもはじめてだったから……すごくはしゃいじゃって~」

「まぁ、うふふ」

「それでレニーさん、あんまり寝られなかったみたいで」

「まためいわくかけちゃいました~」

「……ちょっと待ってください?」

「レニーさんが、寝られなかったんですか?」

「はい? そうですけど……」

「それは……いくらなんでも過保護すぎますね」

「そうですか?」

「ええ……クリスくんの部屋に、何度も様子を見に来たんでしょう?」

「え、いえ? いっしょに寝ましたけど?」

「なんですって?」

「で、ですからぼく、レニーさんのベッドにいっしょに寝かせてもらっ──」


 バキっ


「あ、アマーリエさん? その……ペン軸が、折れちゃいましたけど?」

「あらー、もうずいぶん使ってるから、痛んでたのかしらー(棒)」

「そ、そうですか」

「その、泊めてもらうのなら、同じ男性のユカイさんのお部屋……では?」

「あ、ぼくもそういったんですけど……レニーさんが」

「……あの女(ぼそ)」

「ひっ!? え、えと……ユカイさんはねぞうが悪いから寝られないだろうって」

「それに、ふたりでひとつの部屋のほうが、安くなるからって」

「そ、そうですか……」

「く、クリスくん? その……冒険者の秩序を守るギルドの者として」

「一応、い・ち・お・う・聞いておきますが……」

「は、はひっ」

「なにも……なかったんですよね?」

「あ、はい。ぼくもレニーさんも、すぐ寝ちゃいましたから」

「ほっ それならよか──」

「でもレニーさんに、寝ながらだきつかれちゃって~」

「なんですと?」

「え? あの、ぼくの身体、あったかいみたいで……」

「アイナママにもちいさいころ、『あったかくて抱きごこちがいい』って」

「よくいわれてたから、そうなのかなぁって」

「う、うらやま──いえっ はしたない!」

「そうなんですか?」

「あ、アイナ様はいいんですっ お母様ですし……(ぼそ)」

「クリスくん?」

「あっ、はいっ」

「わたしはですね? この街でひとり暮らししてるんですよ?」

「ひとりくらし」

「ええ、このギルドからもそう遠くないし……」

「次に泊まりでいらっしゃるときは……ぜひ、わたしのお部屋にどうぞ♪」

「え? いいんですか?」

「ええ、もちろんです♡」

「もちろん宿代など頂きませんし……」

「よければわたしが心を込めて、朝晩のごはんもお作りしますので♡」

「レニーさんのお部屋に行くのは……ぜひ! お断りしてくださいね♪」


 ◇◆◆◇


「──って……アマーリエさん、いってくれたんですよ~」

「えへへ、なんだか悪いなぁ♪」

「……あのアマ(ぼそ)」

「ひっ!? れ、レニーさん?」

「ああ、なんでもないよ……なんでもね」

「それより、もう買い物は済んだのかい?」

「あ、はい♪」

「アマーリエさんが、おすすめのお店をあんないしてくれましたから♪」

「案内? 紹介だけじゃなくてかい?」

「はい、いっしょにお店まで行ってくれましたし?」

「ち……油断も隙もない(ぼそ)」

「ひぃっ!? そ、それよりレニーさんっ」

「ん? なんだい」

「あのぉ……報酬のこと、ほんとうにいいんですか?」

「ああ、いいんだ。あれは全部、クリスのものだよ」

「で、でも……」


 そう……レニーさんたちは、今回の報酬をぜんぜん取ってくれなかったんだ。

 あれだけの数の魔物と戦ったのに……

 そしてぼくは、腕輪をさがしただけなのに。


「あたしたちはね、クリスの護衛と保護が今回の目的なんだ」

「だからあたしらはその依頼、受けた覚えはないんでね」

「レニーさん(キュン♡)」

「ま、魔石はあたしらが頂いたし、それでじゅうぶんさ」

「もっとも……2日目のは拾い忘れちまったけどねw」


 そういってぼくの肩をぽんと叩くと、

 『これでこの話はおしまい』という感じで、歩きはじめるレニーさん。

 これからぼくの村まで、送ってくれることになったんだ♪

 それで今夜は村に泊まってもらって……

 あしたの朝、はやくに街にもどるんだって。


「でもぼく……こんかいはとっても勉強になりました♪」

「そうかい? そりゃぁよかった」

「はいっ やっぱり村の外には、ぼくの知らないことがいっぱいあるんだって♪」

「ははっ そりゃそうさ」

「あたしだって、この歳でも知らないことで一杯さ」

「そうなんですか?」

「ああ、じっさい今回の依頼だって……」

「あの弱っちいはずのアイスゴーストに、あれだけ苦戦させられたからねぇ」

「あー」

「ま、ユカイもいい勉強になっただろうさ」

「あんなヒョイヒョイ避けられちまっただろ?」

「アイツ……実はけっこう悔しかったみたいでね?」

「そうなんですか?」

「昨日の晩は珍しく、素振りとかしてたよw」

「しらなかった……」


 アイスゴーストを剣士が討伐するコツは……

 とにかく大振りにしないことなんだって。

 サムライの【居合い】みたいに、すごく速く切るとよけられないみたい。


「だからアイツらに避けられちまうのは……」

「昔、身につけた正しい剣の【型】が、自己流になってる証拠なのさ」

「なるほどぉ」

「しかもアイツ、魔物がアイスゴーストだって知ってたクセに」

「なんの防寒対策もしなかっただろ?」

「ま、そのへんも楽な仕事のしすぎで、鈍ってる証拠さ」

「おー」

「あ、でも……それならレニーさんは?」

「ん? あたしかい?」

「そのビキニアーマーじゃ、上にコートとか着れないですよね?」

「ああ、そうか……クリスは知らないんだねぇ」

「え?」

「ビキニアーマーはね、結構あったかいんだよ」

「なんと」

「装備すると、魔法防壁が身体を覆うのは知ってるだろ?」

「それがどうやら、熱や寒さも遮断してくれるらしくてね」

「だから氷や炎の攻撃も、完全じゃないがけっこう防いでくれるんだよ」

「すごい」

「もっとも今回みたいな【氷結】の魔法だと……」

「冷気は遮断してくれても、氷で身動きできなくされるのは防げないからね」

「だから油断すると、全身を氷で覆われて……やっぱり氷漬けにされちまうねw」

「で、ですよねー」


 それにしても、ビキニアーマー……けっこうハイテク?

 でも、これから冬になってもっとさむくなるし……

 着られなくなっちゃうのも、やっぱり困るよねぇ?


「あ、でも……だったら今回は、レニーさんが前衛をやったほうが──」

「あのねぇ、クリス?」

「は、はい?」

「ユカイは剣士で前衛、そしてあたしは神官で後衛」

「そしてなによりも、アイツはあたしの弟だよ?」

「おとうと」

「なら……弟が姉より苦労するのは、当然だろう?」

「ぼ、ぼくお姉さんがいないから、よくわからないやー(棒)」

「ふふ、でもね……クリス? アイツああみえてけっこうモテるんだよ?」

「そうなの!?」

「ああ……姉のいる男はね、だいたいそうさ」

「そうなんだ……」

「姉の横暴に慣れきっちまってるからねw」

「だから、ワガママな女の扱い方も、よく判ってるのさ」

「な、なるほど!」


 って……自覚あるんだ、レニーさん。

 自分がユカイさんに横暴なの……


「だけどね……クリス?」

「はい?」

「その分、弟のいる姉はね……モテないんだよ」

「えっ」

「男が自分のいうことを聞いて、当たり前だと思ってるからね……ふふ」

「れ、レニーさん?」


 女の人には、あんなモテモテなのに!?

 それとも…モテてると、思ってないのかなぁ


「でも、レニーさん?」

「ん? どした、クリス?」

「レニーさんは少なくても……」

「ぼくにはモテてますよぉ♡」

「ははっ こいつぅ♪」

「やぁん♡」


 レニーさんはぼくをぎゅって抱きしめて……

 いっしょに大きな声で笑いあったんだ♪


 ◇◆◆◇


「──という訳で、2日目で依頼は無事に終了」

「ご子息の活躍に、依頼主もギルドも大いに感謝しておりました」

「まぁ……それは」

「なにはともあれ、お預かりいたしましたご子息」

「不慮の事態もなく無事にお返しできましたこと、安堵しております」

「レニーさん……ほんとうにありがとうございます」

「クリス? よかったわね♪」

「うんっ アイナママ♪」

「でもこれも……ぜんぶレニーさんとユカイさんのおかげ!」

「レニーさん、ほんとうにありがとうございました♪」

「クリス……(キュン♡)」


 村に着いて…さっそくアイナママのところへ♪、

 そしたらレニーさんがあったことを説明してくれたんだ。


「あらあら、うふふ♪」

「じゃあ……ママもぜひ、レニーさんにお礼をしないとね」

「ああ、そうだ♪ よかったら今夜は……うちにお泊まりになってくださいな」

「そ、それはあまりにも不躾では──」

「いえいえ、たいしたおもてなしもできませんが……」

「腕によりをかけてごちそうを作りますから、ぜひ食べていってくださいね?」

「あ、アイナ様の手料理……身に余る光栄です」

「まぁ、大げさですね、うふふ♪」

「あ、そうだ……アイナママ!」

「はいはい、なぁに? クリス」

「これ……ぼくからのおみやげなんだ♪」

「今日の晩ごはんに使ってよ」

「まぁ……いいお肉、しかもこんなにたくさん」

「アマーリエさんに、いいお肉のお店を教えてもらったの♪」

「でも……こんなお肉、お高かったでしょう?」

「うん、せっかくだから今日のおちんぎんで買っちゃった」

「よかったの? それで……」

「みんなで食べれば、もっとおいしいよ♪」

「まぁ、クリスったら」

「もちろんレニーさんの分もあるから、いっぱい食べてくださいね?」

「あ、あたしの分もかい?」

「あ……クリス、まさかあんた」

「えへへ~、レニーさん用に、いいお酒もありますよぉ?」

「クリス、あんたってコは……ふふっ」


 依頼料をもらってくれないと聞いたときから……

 なにか【物】でお返しできないかな?って考えてたんだよね~

 いろいろ考えたけど……ぼくの知ってるかぎり一番おいしいのは、

 やっぱりアイナママのお料理!

 だから村にお泊まりって聞いて、みんなで食べたほうがいいと思ったんだ♪


「ちょっとクリスぅ? わたしにおみやげ! あるんでしょうね?」

「もちろんだよ、レイナちゃんには……はい、これ♪」

「うわぁっ なにこれぇ♡ きれい……それに、かわいいっ」


 レイナちゃんにあげたのは、

 アーモンドみたいな木の実に、溶かしたおさとうをコーティングしたお菓子。

 白、ピンク、クリーム色の3色あって……

 それがかわいい柄の缶に入ってるんだ♪


「木の実を、溶かしたおさとうでくるんだお菓子なんだって」

「かわいいから、レイナちゃんにどうかなって思って♪」

「クリスぅ♡」

「こ、こんなのもったいなくて食べられないわよぉ!?」

「えぇっ!? そこは食べてよぉ!?」


 予想外の反応にちょっと驚いたけど……

 でもうれしそうなレイナちゃんにひとあんしん♪


「それからアイナママのおみやげはね~」

「あら、ママにもあるの?」

「うんっ これ!」

「まぁ……ジャム?」

「バラのジャムなんだって! とってもいい匂いがするんだ♪」

「んふふ、どれどれ? ……まぁ、ほんとうにステキね♡」

「えへへ♪ よろこんでもらえてよかった♪」


 でも、それだけじゃないんだ♪


「でね? これはぼくからの、アイナママへのプレゼント」

「え……?」


 それは、シンプルだけどちょっとお洒落な……銀のブレスレット。

 これもアマーリエさんに教えてもらったお店で、えらんだものなんだ♪


「あのね? アイナママのおかげで……ぼく、ここまで大きくなれました」

「だから初めてのおちんぎんで、なにかお返ししたかったんだ♪」

「クリス……」

「えへへ♪ じつは見た目ほどは、お高くないんだけどね~」

「だからふつうに使ってほし──むぎゅぅ!?」

「クリスっ クリスっ ママ……嬉しいっ 嬉しいの♡」

「むぎゅぅぅ……」

(お、おっぱいで……息がぁぁぁっ!?)


 それから──

 アイナママははりきってお料理をつくって……

 それを4人でわいわい食べて♪

 そんな楽しい晩ごはんを……ぼくたちは楽しんだのでした♪

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