第22話 塩漬け依頼って、めんどくさい!?

「さて、【塩漬け依頼】ですが──」

「それは依頼を受けられることなく……」

「文字どおり、塩漬け状態でギルドがずっと抱え込んでしまった不良案件です」

「ふりょうあんけん」

「ま、理由はいろいろあるけどね……大まかに分けてふたつ」

「ふたつ?」

「ひとつはその難易度が高すぎて、誰も達成できないことだね」

「ええ、例えば高レベルの魔物の討伐や……」

「高難易度のダンジョンなどに眠る【アイテムの収拾】などですね」

「なるほど」

「こちらは正にハイリスクハイリターン」

「しかしその難易度から【命あっての物種】と、忌避されることが多いです」

「ですよねー」

「そしてあともうひとつが……【割に合わない】からさ」

「わりにあわない?」

「ええ、その難易度そのものは、それほど高くないのですが……」

「なぁ? クリス、ここに依頼がふたつあるとする」

「ふたつ」

「ひとつはスライムを10体討伐……報酬は銀貨8枚」

「もうひとつは……スライムを1000体討伐、報酬は銀貨700枚」

「普通なら、どっちを選ぶ?」

「ええと……10体のほう?」

「なぜだい?」

「10体の方なら、それを百回やれば800枚だし?」

「その通り、とまぁおおむねこんな感じの【割に合わない】依頼なのさ」

「ええ、しかも10体なら、そのつど報酬が受けられますが……」

「1000体では、報酬が得られるのは【1000体倒した後】ですからね」

「なるほど……」


 その考えだと、仮に【1000体討伐で銀貨800枚】だとしても、

 同じ条件じゃ、なくなっちゃうわけだ。

 いや、850枚でもワリに合わないかも?


「とまぁ、面倒なくせに稼ぎが微妙で……」

「なら同じ時間で、ワリのいいいのを数こなした方が美味しい」

「そんな理由で塩漬けになっちまうのさ」

「その場合、ギルドの【奉仕依頼】とする手もあるのですが」

「それでも残るものは残ってしまって……」

「あー」

「そして今回の場合……クリスが受ける以上、高難易度の討伐じゃない」

「ですね」

「となると……?」


 ◇◆◆◇


「ちょっ クリス! まだ見つからないのか~っ!?」

「うぅっ ごめんなさいぃぃ まだですぅっ」

「このバカっ! 急かすんじゃないよ!」

「だ だってさぁ!? うぎゃ──っ!?」


 ボヒュっ!


 そんなユカイさんの身体に、氷結魔法が飛んでくる!?

 そしてその身体に触れたとたん……


 ビキビキビキっ


 氷がユカイさんの身体にまとわりつき……その動きを止めてしまう。


「あいだぁぁぁっ!?」

「ちっ 剣士だろっ それくらい避けなっ」

「むっ ムリに決まってるだろ!?」

(で、ですよねーっ)


 ユカイさんがいま戦っている魔物は……【アイスゴースト】

 いわゆるゴースト系の魔物で、ふわふわと宙をただようユーレイみたいなヤツ。

 こいつはすごく……やっかいな魔物なんだ!?


「あ、姉貴っ いちど数っ 減らしてくれよっ!?」

「ちっ 仕方ないね……【ホーリーブレス】!」


 パァァァァァ……


 レニーさんが杖を掲げて神聖魔法を放つ。


-------------------------------------

【ホーリーブレス】

 種別:神聖魔法

 状況:常時

 対象:術者、対象者、魔物

 効果:神々の神聖な祝福を受けることで、

    対象者よりも弱い魔物を寄せ付けなくする魔法。

    一定の時間経過で効果は消失する。

    また魔物に当てることで、若干ではあるがダメージを与えることが可能

-------------------------------------


(でもゴースト系の魔物には、けっこうききめがあるんだよね)

(しかも広範囲魔法だから、いっぺんにたくさんの魔物をたおせるし♪)


 そんなレニーさんの呪文で、アイスゴーストは一気に討伐されていなくなった。

 そしてユカイさんががっくりと膝をつく。


「め……めんどくせぇぇぇっ!?」

「うるさいっ!」


 バキっ!!


「いてぇぇっ!?」

「大声出すんじゃないよっ またアイツらが集まってくるだろっ」

「だからって杖で殴ること──また来たぁぁぁっ!?」

「ほらっ いわんこっちゃないっ」

「うぅ……ユカイさんっ レニーさんっ ごめんなさぁい!」

「ぼくっ がんばって探しますからっ!!」


 そう、なんでこんな事になってるかというと……

 その【塩漬け依頼】をひとことでいうと、

 【魔物がいる場所での、落としもの探し】


(しかも街から近い、弱めな魔物しかいないところ)

(これだけだと、冒険者なら簡単そうだけど……)


 その魔物が【アイスゴースト】なのがすごい問題。

 この魔物……すごくめんどくさいんだ。


(まず……すぐよける)


 1体ごとのHPはたいしたことないんだけど……

 とにかく剣や打撃武器の攻撃を、ひょいっとよける。

 それこそ宙に舞う、葉っぱみたいに……


(そしてよけると、かならず魔法が飛んでくる)


 仕返しとばかりに、その相手に【氷結魔法】が飛んできて、

 相手の身体の一部を氷で覆ってしまう。

 それは素肌にドライアイスを押しつけられたような痛みで……

 しかも、それが身体に張り付いてはがれないんだ。

 その痛みでダメージを喰らうし、はがさないとダメージを受け続けちゃう。


(同時に何発もくらえばうごけなくっちゃうし)

(MPが少ないから、1回くらいしか魔法をうてないんだけど……)


 しかもこいつ、剣で斬ったとしても……なんと分裂しちゃうんだ。

 その確率もけっこう高くて、分裂したやつはまた魔法を飛ばしてくる。


(こっちは魔法をよけられないのに~っ)


 基本、魔法はすごい速さで飛んでくるから……

 よほど【瞬発力】が高くないと、まず避けられない。

 なので魔法防壁を張るか、ダメージ覚悟で喰らい続けるしかない。


(弱点は【火】と【浄化魔法】だけど……)


 今回は火の魔法を使える人がいないし……

 レニーさんの浄化魔法も、MPの残量を考えればあまり連発できない。


(それに魔法をくらったユカイさんのHPも、回復させなきゃいけないしっ)

(しかも戦闘に参加できないぼくを、かばい続けてるから……)


 アイテムの【聖水】をつかう手もあるけど、

 こいつ1体分の魔石のおねだんよりも、聖水の方がお高いんだ……

 だから……とにかく魔法をなんども喰らうのをカクゴで、

 コツコツ倒していくしかないという、超めんどくさい魔物なんだ!?


「んあぁぁっ!? 防具の金具が冷えきってつめてぇぇぇっ!?」

「うっさいっ 凍傷だろうがなんだろうが、後でまとめて直してやるからっ」

「カクゴして喰らっときな!」

「お姉様っ それでは俺が死んでしまいますっ!?」


 そしてぼくはというと……

 ユカイさんたちが戦ってくれるあいだ、地面にしゃがんで探しものをしてる。


「うぅ……ないっ ないよぉ!?」

「クリス! 慌てなくていいからね?」

「とにかく2度手間にならない様に【ここにはない】って範囲だけ広げときなっ」

「は、はひっ」


 レニーさんのいうとおり、同じ所を何度も探さなくてすむようにしないと……

 ぼくは地面に木の枝を挿して立てて、その範囲をすこしづつ広げていった。


「うぅ、うでわ……うでわ~」


 探しものは……銀の腕輪。

 とある冒険者がまえに、ここで戦って落としたものなんだ。


(しかも腕を【氷刃】で切りとばされて……)

(なんとか腕はひろって、神官につなげてもらったらしいけど)


 その時に、大事な腕輪をなくしてしまったんだ。

 そして今回ぼくが受けた依頼は……その【腕輪の回収】。

 当人はそのケガと死にかけたのが原因で、すでに冒険者を引退してる。

 そしてほかの冒険者たちも……

 アイスゴーストのめんどくささと、魔石の安さを知ってるから受けたがらない。


(うぅっ ホントにここにあるのぉ!?)

(きのうから探してるのにっ ぜんぜん見つからないんですけどぉ!?)


 そしてこの腕輪探しも今日で2日目……

 村へ帰る時間を考えると、今日探せるのもあと数時間がせいいっぱい。


「うぅっ ないっ ないっ ないぃぃぃっ!?」

(あぁっ もうっ!)

(ステータスさーんっ)

(有能な【万物真理ステータス】で、うでわ探してくださいよぉ──っ!!)


 パッ!


 そのとき

 ぼくのアタマのナカに、レーダーがあらわれて──


「さ、さがせたのぉぉぉっ!?」


 10時の方向っ 約8メートルっ

 ぼくはその方向に向かって……走り出すっ

 すると──


「う、うでわっ あったどーっ!!」

「でかしたっ クリス!」

「た……助かったぁぁぁっ!?」

「ユカイっ さっさとずらかるよっ【ホーリーブレス】!」

「さすがお姉様っ さすおねっ♪」


 レニーさんの魔法で、また魔物たちが一気に殲滅させられた。

 そしてレニーさんはぼくを抱きかかえ……


「ちょっ レニーさんっ ぼく自分で走れて──」

「いいから黙っときなっ 舌噛むよっ!?」

「は はひ……」


 そんなおっとこ前なレニーさんにぼくは……

 おとなしく抱きかかえられたまま、おとなしくする。


(で、でもでもっ このかっこう……)

(【お姫さま抱っこ】なんですけどぉぉ!?)

(うぅっ ぼく男のコっ! 男のコなのにぃぃっ!!)


 ◇◆◆◇


「うぅ ありがとう……ありがとう……」

「い、いえ……お礼なら、その……ぼくじゃなくて──」


 ぼくはいま、依頼主である元冒険者のお姉さんに、

 両手をしっかりと握られながら、お礼をいわれていた。

 そしてお姉さんは、ぼくの背に合わせてひざまづきながら……

 目からいっぱいのなみだを流して、よろこんでくれたんだ。


「いや、あたしらはクリスの護衛をしただけさ」

「じっさいに腕輪を探したのも……」

「そしてこの依頼を受けるのを決めたのも、ぜんぶクリスさ」

「あたしらだけなら、この依頼は受けなかっただろうしね」

「うぅぅ、それでもお礼を……いわせてくださいぃ」

「ありがとうございますっ ほんとうに……ほんとうに……うぅ」


 そうやってお姉さんは、レニーさんとユカイさんにもお礼をいう。

 もう見つかることはないって、何度もあきらめてたみたいで……


「お、おかげで亡くなった母に顔向けができますっ」

「ほんとうに……ありがとうっ」

「えへへ……よかったです」


 そう、ぼくがこの依頼を受けた理由のひとつが……

 この腕輪が、依頼主さんの【お母さんの形見】だったから。

 女手一つで育ててくれた、大好きだったお母さん……

 そのお母さんが病気で亡くなる前に、このお姉さんがもらったもので──


(そんな大事なものなら……ね♡)

(えへへ、ほんとうによかった♪)


 って、そんなとき──


「あぁぁぁぁぁっ!?」

「なんだい……やかましいね」


 ユカイさんが悲鳴をあげた。


「きょ、今日のアイスゴーストの魔石……」

「俺ら……ぜんぜんひろってない!?」

「はぁ? なら……これから拾ってくればいいじゃないか」

「あんたひとりで(ぼそ)」

「うぇぇぇっ! あ、姉貴はいいのかよっ!?」

「どうせ数あったって、アイスゴーストの魔石じゃねぇ」

「うぅ!?」

「そ、それでも……【討伐報酬がある】ってことがだいじなんだよぉぉ!?」

「あら、ユカイさん……そのご意見──」

「プロフェッショナルらしくて、とても素敵ですわ♪」

「そそっ そうですか? アマーリエさんっ♡」

「ちっ プロはあんただよ……アマーリエ」

「あ、あはは……」

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