第8話 やっぱりコレ、ミヤビさまのミス?
「な、ななな……」
ステータス画面をえんえんとスクロールして……
軽く100を超えるそのスキルの数に、気が遠くなるぼく。
「まさかコレ……勇者のステータス!?」
勇者時代の記憶をたどれば、たしかにどれも見覚えのあるモノばかり。
それというのも勇者召喚されて間もない頃、このスキルのリストを元に……
「ひとつづつ、確認していったから……ね」
例えば剣術……
剣の達人を呼んでおいて、剣を持ったぼくと模擬戦をする。
すると、その剣をしばらく受けているだけで、剣術のスキルが覚醒したんだ。
「そうしたらもう、あとは勝手に身体が動いてくれるとか……」
「ホント勇者のスキルって、反則だよねぇ」
「しかもレベル1じゃなくて、最初からレベル80オーバーだし?」
そうやって、100個以上のスキルをコツコツとチェックしていって、
1週間も過ぎる頃には、すべての上級スキルを覚えた勇者のできあがり♪
「なんでも召喚勇者のための、そういうマニュアルが伝わってるそうだけど……」
「どの先生たちもすぐにぼくにマネされちゃって、ビミョーな顔してたなぁ」
「って! そーじゃない!?」
「そもそも勇者時代のステータスが、なんでぼくに!?」
やっぱり……ぼくが前世の記憶を取り戻したから?
それでいまのぼくと混じったことで、使えるようになっちゃった──
って、考えるのがいちばんそれっぽい。
「うぅ ミヤビさまが、また夢まくらに立ってくれればいいんだけど……」
でも前にお話ししたときは、勇者をもういちどやれってハナシは全然なかった。
しかもいまは魔王のいない、わりと平和な時期だし?
「やっぱりコレ……ミヤビさまのミス? だよねぇ」
「うーん、ちょっと考えてみよう……」
ステータスが勇者時代のものなのは、とりあえずわかった。
まだそれが使えるかどうかはわからないけど……
もし使えないなら、そこでお話しは終わり。
ただの表記ミス、うん。
「じゃあ、使えちゃったら?」
しかも魔王決戦後の、最強勇者のチカラが使えることになっちゃう!?
こんな、ただの村の少年のぼくに!?
「お、おちつけ……ぼく! すぅぅぅ はぁぁぁ」
何度も何度も深呼吸をして、必死に落ちつこうとするぼく。
その甲斐もあって、なんとか頭が動くようになってきた。
「え、ええと……じゃあもし使えるとしたら」
「それは【ラッキー♪】なの? それとも【ガーンっ!?】なの?」
そう考えると……
やっぱり、チカラはあったほうがいい?
魔物に襲われても身を守ることができるし、それが魔族でも勝てるはず。
というか、前世のぼくは魔王以外には負けていないんだ。
「じゃあ逆に、このチカラの良くないところは……」
まっさきに思いつくのが、勇者のチカラを利用されること。
軍隊とか騎士団に組み込まれるかもしれない。
ただこれは、誰にも教えなければ、そうならずに済むかもだけど……
「あとは……魔族かなぁ」
勇者は魔王の天敵なんだ。
だから勇者時代は魔王軍に、やたらに襲われたっけ……
正面からぶつかってくるのもいれば、人族をだまして襲わせる卑怯なのもいた。
「ぜんぶ、やっつけたけどね~」
「けど……魔族にバレないようにするには、かぁ」
【
だから冒険者ギルドのステータスの検査アイテム程度なら、ごまかせると思う。
「それが魔族にも通じれば……いけるかなぁ」
「う~ん……もういちどよく見てみよう」
「【
パッ!
-------------------------------------
・名 前:クリス(人族)
・性 別:男
・レベル:LV63
・状 態:正常
・H P:102544/102569
・M P:29/29
・スキル:【剣術:LV87】【槍術:LV81】【弓術:LV72】【抜刀術:LV87】
【盾術:LV83】【斧術:LV80】【鞭術:LV71】【格闘術:LV77】
【体術:LV82】【暗殺術:LV85】【隠密:LV84】【投擲:LV82】
下画面があります▼
-------------------------------------
「ええと……レベル63!?」
「あっ ひょっとしてこれ、魔王を倒したコトになってる!?」
魔王決戦前のレベルは、たしか62だったよね?
相打ちになったのに、経験値が入ったのかなぁ。
「あれ? でもこのいちばん下にある魔法スキルは……?」
「ええと、【清浄魔法:LV01】【土魔法:LV01】【風精霊魔法:LV01】?」
「ほかにもいくつかあるけど……」
「これって、勇者時代には覚えてなかったはずだよね?」
というか、勇者は【元素魔法】や【神聖魔法】が使えない。
使えるのは、チートな【勇者魔法】だけなんだ。
だから覚えているはずがないんだけど……
「あっ もしかしてこれ……いまのぼくにさずかってたスキルってこと?」
そう考えてみれば、どれもレベルが1と低レベルだし、
どれも【クリス】としてのぼくが……
じかに見たり、魔法の教本を読んでいたりする魔法ばっかり。
「うぅ、これだけだったら、すなおによろこべたんだけどなぁ」
「HPも10万こえてるし……MPも── あれ?」
「……29?」
勇者時代には20万以上はあったはずのそれが、29になってた。
「レベル1なら、29はむしろふつうだけど……ん?」
そこでふと思いつく。
このMPを上げるには、どうするか?
「ふつうに考えるなら、レベルをあげればいいんだけど……」
レベル2になれば、たいていHPやMPも上がってく。
そうやっていくつかレベルを上げてやれば、じゅうぶん戦闘で使いものになる。
「でも……ぼくはいま、レベル63だ」
これを64に上げれば、MPもめちゃくちゃ上がるでしょ。
でも……
「そ、それこそ魔王でも倒さないと……」
「こんな高レベル、上がらないよぉぉ!?」
しかも勇者魔法は強力なぶん、その燃費は最悪っ!?
MPがたったの29じゃ、勇者魔法はその9割以上が発動すらしない!?
「な、なんてこったぁぁぁっ!?」
◇◆◆◇
「………………ん」
そして、朝。
きのうのぼくは、勇者魔法がほぼ使い物にならないコトを知って……
そこでオーバーヒート。
ぱたりと倒れ、そのまま寝ちゃったみたい。
「おかげでアタマは冷えたけど……」
「ミヤビさま、来てくれなかったなぁ」
おかげでなにも解決せず、すべては保留のまま。
「それに……ギルドにいく楽しみが、なくなっちゃったなぁ」
「MPの量やスキルも、ぜんぶわかっちゃったし」
「というかこれ、擬装しないとダメだよねぇ」
そんなぐんにょりした気分で、ぼくはお顔を洗いにいく。
そしてふと思いつく。
「これ……やっぱりアイナママに、おはなしする?」
いちどは話さないって決めたけど……
勇者のスキルがあるとすれば、ハナシは別かも?
「うん、やっぱりおはなししよう」
ぼくはそう決めて……とりあえず水場にお水を汲みにいった。
◇◆◆◇
「あ、アイナママ~ おはよう」
けさもアイナママはきれいでステキ♡
香水も使っていないのに、ふんわりといいにおいがする、
そんなステキなアイナママが、ぼくは大好きだ♡
「おはよう、クリス♪ ゆうべはよく眠れた?」
「うん……なんだかいつもよりぐっすり寝れたかも」
それはもう、倒れるように……ね。
ミヤビさまが来なかったから、夢もみなかったし?
「うふふ、それは良かったわね♪」
「じゃあ朝ごはんにしましょうか」
「えっと……レイナちゃんは?」
「あの子はおとなりのおうちに、ハーブを分けてもらいに行ってるわ」
「そうなんだ」
なら、いまこそおはなしするチャンスかも……
ぼくは改めて決意を固めて──
「あ、あのっ アイナママっ」
「あら、どうしたの? クリス」
「ぼ、ぼくは……」
「アイナママのおおきいおっぱいが、だいすきなんだ!」
どーんっ!
「まぁ……クリスったら」
「………………え?」
「もう……クリスはほんとうに甘えんぼうさんねぇ」
「ちっ ちが──」
「でも、お外でそういうことをいってはダメよ?」
「うぅっ なんでぇ!?」
「なんでもなにも……クリスはもう赤ちゃんじゃないでしょう?」
「い、いまのはアイナママにいったんじゃなくて!?」
なな、なんだこれ!?
ぼくはナニをいってってるんだ!?
ええと……もういちどっ
「ぼ、ぼくは……」
「アイナママのおっぱいを、ちゅうちゅうしたいだけなんだぁ!!」
どどーんっ!
「って!? なんでぇぇぇっ!?」
「もう……それこそママが聞きたいわ」
「クリスったら、どうしちゃったのかしら?」
またもやぼくのクチは……
考えている事とぜんぜんちがうコトをしゃべって──
「はっ!? これってまさか……」
(み、ミヤビさまがっ しゃべれないようにしてるってコトぉ!?)
そのときぼくのアタマのなかに、
なぜだか嬉しそうに、おくちに人さし指をあてる──
ミヤビさまのビジョンが浮かび上がった。
『それは……【禁則事項】ですぅ♡』
──って!?
(あ、ありえる!?)
(とくにぼくのセリフが……下ネタになってるトコとかっ!?)
(み、ミヤビさまっ やっぱり【露出女神さま】だよぉぉぉっ!?)
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