第9話 勇者魔法って、超べんりすぎ

「あ、ぼくクリスです」

「いまその……ぷち家出、してますぅ」


 というのも……

 ぼくのおっぱい好きを、アイナママに知られてしまったからで──


「んあーっ!? けど! ウソじゃないところが~~~っ!?」


 あれから何度かぼくは、アイナママに勇者の件を話そうとしたんだけど……

 結果はぜんぶ同じで、別のセリフに強制変換されちゃった!?


「しかも! よりによって!」

「ぼくの恥ずかしい好みを! 話させるだなんてぇぇ!?」


 おかげでぼくはアイナママに、何度も恥ずかしいカミングアウトしちゃって──

 いまはただ、ひとりになりたくて……

 ひとりで山の中を歩いていますぅ。


「うぅ、紙に書けばいける!って思ったら……」


 書きおわった文字を読んでみれば──


【あさおきるとぼく、なぜだかアソコがおっきしちゃうの】


 なんて書かれてて……


「そんなの!」

「アイナママに読ませたりしたらぁぁ!?」

「ぼくが!【恥ずか死】するぅぅぅ!?」


 この下ネタ変換は、ミヤビさまのシュミにちがいない!?


「こんどあったら、ぜったいにクレームをいれなきゃ!」


 ぼくはかたくココロに誓い、もくもくと山中を歩いたのでした。


 ◇◆◆◇


「ふう、このあたりでいいかな?」


 いままで出なかった村のお外に、ぼくはいまひとり。

 しかも、わりと山の奥に入ったそこは……

 いつ獣や魔物がでてもおかしくない、危険な場所だった。


「うぅ、アイナママや村の人に……」

「ウソいって出てきちゃったのはムネがいたむけど」

「んー【万物真理ステータス】!」


 ぼくのステータスさんは超有能なので、いろんな機能がある♪

 だから、(自分のスキルがしらべたいなー)って考えながら発動させれば、

 通常のステータス画面が出て、各種パラメーターやスキルが表示されるし……


(このアイテムがしらべたいなー)

 って考えながら発動させれば、そのアイテムの【鑑定】がされちゃう。

 そして今回は(まわりに敵がいるかなー)って考えたから……


 パッ!


 ぼくの視界に、自分を中心とした360度のまぁるいレーダーが表示されて、

 そこにはいくつかの、緑色の光点があった。


「ええと……緑ってコトは、動物かぁ」

「もうちょっと、はんいを広げて……ああ、いた♪」


 およそ2時の方向……距離300メートルくらいの所に、赤い光点がひとつ。

 この赤い光点が【魔物】や【魔族】を示してしているんだ。


「青い光点は人族や亜人で…」

「黄色い光点は【敵意をもつ人族や亜人】、だっけ?」


 ちなみにメートル表記なのは、召喚勇者が日本人だから。

 もちろんこっちの世界にメートル法なんてないけど……

 いまのぼくにはこっちのほうが便利なので、こっそり使い続けてる♪


「この光の大きさだと、やっぱしアレかな?」


 光点が大きいほど、強い敵(もしくは人)だってコト。

 けれど、この【獣よりはちょっと強いくらい?】な光点は……


「えと【異空収納インベントリ】!」


 広げたぼくの左手の手のひら。

 その数センチ前に、すうっと魔方陣が現われた。

 ぼくはその魔方陣に右手を差し込むと──


「よ……っと♪」


 そこから抜き取った右手には、剣のグリップが握られてて……

 そのままにゅ~~~っと、魔方陣から刀身があらわれた。


「んふふ♡ 異空収納インベントリがつかえて、ホントよかったぁ♪」

「やっぱこれ、べんりだもんね~♪」


-------------------------------------

異空収納インベントリ

 種別:勇者魔法

 状況:常時

 対象:術者

 効果:異空間にアイテムを収納し、無限に持ち運べる魔法。

    念じると手のひらに魔方陣が展開して、そこから物を出し入れが可能。

    魔方陣のサイズを大きくする事で、かなり大きな物でも収納できる。

    中は次元の異なる空間で、入れた物体は時間が停止した状態となる。

    生物は入れる事ができないが、死体・石化状態などなら収納可能。

    任意でいつでも発動可。魔力消費は、出し/入れする毎に『1』。

-------------------------------------


「だから、あったかい飲み物とか食べ物とか入れとけば……」

「くさらないし、ずっとあったかいままなんだよねぇ♪」

「って……あぁこの剣、なつかしいなぁ♪」


 召喚されてすぐ、剣術のスキルを付ける為に渡された、細めの剣。

 初めて触ったホンモノの剣ということで、記念にもらっておいたんだ~♪


 ヒュっ


「んー、いまのぼくにはちょっと重いけど、ぎりぎりいける?」


 ためしに何度か、剣を振ってみるぼく。

 レベル87の剣術スキルがあるから、それはもう滑らかな剣筋でした♪


「んー、スキルはともかく」

「もんだいは、ぼくの【パラメーター】だよねぇ」


 アイナママも説明してくれたけど、ふつう、魔物を討伐すると経験値が入る。

 そして経験値が一定数貯まれば、レベルが上がる。

 そしてレベルが上がれば……HPにMPとかのパラメーターも上がる。


「ええと……【万物真理ステータス】!」


 パッ!

-------------------------------------

・H P:ヒットポイント『打たれ強さ』を数値化したもの。生命力の数値化ではない。

     (現状/最大)で表示される。

     一割を切ると【瀕死】となり、ゼロになると死亡する。


・M P:マジックポイント魔力量を数値化したもの。魔法を使うと数値が減ってゆく。

     (現状/最大)で表示される。

     一割を切るとだるさを覚え、ゼロになると昏倒する。


・筋 力:総合的な『力の強さ』を数値化したもの。攻撃力の数値に影響する。


・瞬発力:『素早さ』を数値化したもの。攻撃の速度や回避に影響する。


・知 力:『賢さ』を数値化したもの。この数値が高いと魔法の威力も高まる。

     故に同じ魔法でも、冒険者の等級により威力が異なる。


・攻撃力:相手を攻撃する際の力の強さを数値化したもの。

     武器の装備でプラス補正される。


・防御力:相手の攻撃を受ける際の防御性能を数値化したもの。

     防具の装備でプラス補正される。


・経験値:魔物および魔族を討伐した際に自動的に得られ、蓄積してゆく数値。

     強い魔物ほど、高い数値が得られる。

     ある一定の経験値の取得によりレベルが上昇する。

     単独討伐の場合は全てを得るが、パーティーの場合は頭割りとなる。

-------------------------------------


「んー さすがぼくのステータスさん♡ 有能~♪」


 とにかく…この世界の神々の魔物&魔族嫌いはかなりのモノで、

 【魔物を倒してくれるなら、いくらでも強くしてあげちゃう♪】

 というおおばんぶるまい。


「だから、魔物さえコツコツと討伐していけば、どんどんつよくなれるんだ」

「あぶないおしごとなのに、冒険者がへらないハズだよねぇ」


 なので、強い冒険者パーティーに寄生して、パワーレベリング!

 ……なんてこともできなくない。

 とはいえそのやりかたで上がるのは、レベルひとケタの【初心者】くらいまで。

 それ以降は神々が祝福をくれなくなっちゃうんだ。


「じゃあ、魔物をたおしていれば、訓練はいらないかというと……」


 それだと増えるのはパラメーターだけで、スキルが付かない。

 なのでけっきょくは、ふだんの訓錬もしなくちゃいけないんだ。

 うーん、日ごろの訓錬とお勉強、だいじ!


「筋トレはしなくていいけど、剣の練習はしなきゃダメ!みたいな?」


 だけど【召喚勇者】だけは、さらに【ズル】をする。


-------------------------------------

超越身技オーバークロック

 種別:勇者魔法

 状況:戦闘時

 対象:術者

 効果:筋力、知力、攻撃力、防御力などのパラメーターを増強する魔法。

    いわゆる【バフ効果】で、術者のパラーメーターを、

    1等級冒険者の3倍相当の能力値に高める。

    効果は術者が望む限り継続するが、魔力消費が膨大なので注意が必要。

-------------------------------------


 ……という、超反則級魔法です。

 スキルも最初から高レベルのを持ってるし?

 これでいっさいの訓練なしで、超人になれちゃいます♪


「あ、【1等級冒険者】っていうのは、いわゆるレベル50台」

「アイナママたちのような【英雄級】って呼ばれる冒険者のことだね♪」

「って……じぶんでいっててアレだけど」

「その3倍とか、ズルにもほどがあるよぉ!?」


 しかもコレ、魔力消費量がメチャクチャ多めで、

 発動中は魔力を消費し続けるという、超・悪・燃・費!?

 しかも戦闘時に自動で発動するから、

 戦闘が10回なら、その魔力も10倍かかるワケで……。

 もちろんいまのぼくのMPじゃ、発動すらしません。


「うぅ、MPが20万とかある勇者だからこそ使える、ゴリ押しワザだよねぇ」

「そして、いまのぼくのパラメーターは……」


 こくフツーの少年の【レベル1】相当の数値であり、超貧弱~

 なのにレベル63なので、64まで上げるのは、めっちゃ経験値が必要。

 よって…レベルアップによるパラメーターの増加もみこめない。


 つまりぼくは──

 【天才的なスキルを持つ非力な少年】というワケだ。


「な、なんという中途ハンパな……」


 ヒュンヒュンヒュン──


「まぁ……そのへんは、少しづつ」

「くふう、するしか、ないよ、ねぇ」


 トントンとステップを踏みながら、踊るみたいに剣を振るぼく。

 ただ、まぁ……


「ふぅ……やっぱり、とちゅうで息が、きれるなぁ」


 筋力のなさはどうしようもなく……

 そのへんはスキルと工夫を組み合わせて、

 地道な練習を何度も繰り返す事で、なんとかするしかない……かなぁ?


「っと、そろそろ……いたっ」


 そこには……

 おおむね30センチオーバーの、たぷんっ とした魔物──

 【スライム】がいた。


「あ、ちなみにこの世界のスライムは、まぁるいなみだ型です♪」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る