第6話 ぼく、アイナママの生徒だもん♪

「え? 冒険者ギルドに?」

「じゃあ……街にいけるの? ぼくっ♪」


 あのミヤビさまとのお話しから数日。

 アイナママがぼくにそういってくれたんだ♪


「ええ、クリスが誕生日になったら、すぐに行くつもりだったのだけど」

「あー ぼくがお熱をだしちゃったから……」


 熱を出した、というとたいしたことないみたいに感じるかもだけど、

 医療レベルの低いこの異世界では、ちょっとの病気で人が死んじゃうんだ……


(日本でも【七つ前は神のうち】なんてコトバがあるし……ね)


 とくに、近代医療が確立される前までの時代。

 七歳までは【神様から子どもを預かっていると思って、大切に育てろ】

 という意味なんだけど──

 それは【いつ死んで、いなくなってもおかしくない】という意味でもある。


(さすがにぼくは、そんな小さいコじゃないけど……)


 あのアイナママの献身的な看護がなければ、ぼくは死んじゃったかもしれない。

 この異世界は、そんな人の命が軽い世界でもあるんだ。


「ごめんね? アイナママ……ぼく、がんばって強いコになるから」

「うふふ、そうね。ちゃんと剣の練習もしているのよね?」

「うんっ 最近は走りこみもしてるんだ♪」

「まぁ 偉いわ、クリス♡」

「えへへ♪」

「じゃあ……こんど街に行ったら、お肉でも食べましょうか♪」

「ホント? やったぁ♪」

「うふふ♡ お誕生日だものね、レイナにはナイショよ?」

「えへへ♪ わかったよ、アイナママ♡」


 レイナちゃんには悪いけど……せっかくのお誕生日だもん、いいよね?

 あぁ♪ それにしてもアイナママとおでかけ♡

 この村を出るのもはじめてだし……すっごく楽しみっ♪


「って、そういえばアイナママ?」

「あら? どうしたのかしら」

「なんで、冒険者ギルドなの?」


 ◇◆◆◇


 冒険者ギルドは、冒険者のための互助会みたいなもので、

 町や村の依頼主からお仕事を受けて……

 それを冒険者たちに振りわける【仲介】が、メインの役目なんだ。


(ギルドには勇者のころ、あれこれお世話になったなぁ)

(けど、ぼくは冒険者になるわけじゃないのに?)


 するとアイナママは、きょとんとしたお顔をしたあと……

 気まずそうに目をそらしながら、口を半開きにした。


(あ、これ……【いけない、言ってなかったっけ?】ってお顔だ)


 するとアイナママは、こほんっ とせきをして──


「冒険者ギルドではね? その人の【ステータス】を調べることができるの」

「あ、ステータス」

「ええ、目には見えない、その人の【レベル】や【状態】」

「あと【HP】ヒットポイント【MP】マジックポイント、さらには【スキル】なども調べることができるわ」

「ええと……」


 そう説明してくれるアイナママだけど……

 もちろん前世で勇者をやっていたぼくは知っている。

 でも『知ってる』っていうワケにもいかないし……

 ここはおとなしく説明を受けておこっと。


「そしてレベル、というのはね?」

「魔物や魔族を討伐すると、その強さに応じて……」

「神々から【経験値】という祝福を頂けるの」

「しゅくふく?」

「神々はね? わたしたち人族に、魔物や魔族を討伐することをお望みなの」

「それは知っているわよね?」

「うんっ」

「うふふ、偉いわ……クリス♡」

「だから魔物をたくさん討伐する人は、祝福をたくさん頂けるの」

「それが経験値、だよね?」

「そう、そしてその経験値が一定数貯まると、レベルが上がるわ」

「レベルがあがる……」

「そしてそのレベルに応じて、その人の色々な能力が上昇するの」

「えと、能力って?」

「それは【筋力】【瞬発力】【知力】【攻撃力】【防御力】ね」

「そういったチカラがすこしづつ上昇すれば──」

「もっと強くなる……ってこと?」

「その通りよ♪ うふふ、クリスは賢いわね」

「えへへ♪ だって、アイナママの生徒だもん」

「まぁ、うふふ♪」


 そういってアイナママが嬉しそうに微笑む。

 あぁ……やっぱりアイナママは、笑っているお顔が一番ステキだ♡


「そうした色々な能力の他にも、さっき言った……」

「HPやMP、というものも数値が上昇するわ」

「ええと……」

「HPは、いわゆる【打たれ強さ】を数値化したものね」

「その最大の数字と、現在の数字を表してくれるわ」

「うたれ強さ?」

「ええ、その数字が大きければ大きいほど【頑丈タフ】な人であるといえるわね」

「そしてその数字がゼロになれば……死亡してしまうの」

「な、なるほど」

「だからといって、ゼロでなければ平気かというと……そうじゃないの」

「その数値が低ければ低いほど、衰弱しているということだから──」

「HPの残りが1割以下になれば【瀕死】といえる状態になるわ」

「そ、そうなんだ」

「安心して? HPは休息や睡眠で、徐々に回復することができるわ」

「あ、それはわかりやすい」

「うふふ、そうね。そして回復魔法や回復薬でも一定量回復することができるの」

「アイナママの、とくいわざだね!」

「ええ、ママ……回復魔法なら、ちょっと自信があるわ♪」


 と、かつての勇者の従者【慈愛の聖女】がいっております。

 アイナママ、この大陸で最高レベルの神聖魔法の使い手だよね?


「じゃあMPは、魔法のこと?」

「正解よ、クリス♡ ご褒美は……ママのキスです♪ ちゅっ♡」

「えへへ♡ 最高のごほうびだよぉ♪」

「まぁ……クリスったら♡」


 アイナママが、そんなぼくをぎゅっ てしてくれる♡

 えへへ、ぼくもぎゅっ てしかえしたり♪


「うふふ、正確には【魔力量】ね」

「このMPも最大の数字と、現在の数字で表されるの」

「そして1割を切れば、だるさやめまいを覚えるし、ゼロになると昏倒するわ」

「うぅ、たおれちゃうんだ……」


 いわゆる【枯渇酔い】というヤツだ。

 これはほんとうに辛いんだ……まるで強烈な乗りもの酔いみたいな──


「このMPも、休息や睡眠で徐々に回復することができるの」

「そこはHPと同じなんだね~」

「そしてこの数値が大きければ……」

「【魔法使い】や【神官】としての適正があると言えるわ」

「あ、そっか」

「もっとも、魔力が多いのはほとんどが女性で……」

「男性はその1割にも満たないことが多いの」

「そのぶん男性はHPが多いから【戦士】【武闘家】に向いていると言えるわね」

「なるほどぉ」


 もちろん例外として、魔法が使える男性もごくまれにいるみたいだけど……

 強力な魔法を使える男性は、アイナママもぼくも、ひとりしか知らない。

 前世のぼく、召喚勇者のことだけどね~


「うふふ、じゃあ最後のスキルだけれど……」

「スキルとは、神々からわたしたち人族に与えられた、一種の【加護】なの」

「加護?」

「ええ、その技術に対して、一定の研鑽を積むと得られる場合が多いわね」

「たとえば……剣の練習をいっぱいすれば、【剣術】のスキルが付くわ」

「そしてスキルを持つと、その行為が難なく……」

「ほぼ無意識に行なうことができるようになるの」

「すごい」


 いわゆる【身体が覚えている】というヤツだね。

 なのでじっさい、冒険者は【スキル持ち】が多いんだ。


「スキルは武器用や魔法用のもの、さらに技術系・生活系など…多彩なの」

「また親から子へ、スキルが受け継がれることも多くて……」

「その場合は誕生の時から備わっているわ」

「そうなんだ?」

「たとえば……うちの村で、代々猟師をしてるおうちがあるでしょう?」

「うん」

「そのおうちの子供は、いまのクリスの歳の頃にはもう」

「【狩猟レベル1】のスキルが付いてたそうよ?」

「そっか、そうやってそのおうちのスキルが、受けつがれていくんだね?」

「そうね、ふふ……やっぱりクリスは理解が早いわね♪」

「えへへ♡」

「なーでなーで♡」


 そんなアイナママが、ぼくの頭をなでなでしてくれる♡

 前世の記憶があるから、ちょっとズルだけど……

 アイナママは説明が上手だから、

 初めて聞いたとしても、きっと理解できたと思うし……ね♪


「とはいえ、レベルは魔物を倒さないと上がらないから……」

「魔物と関わりのないほとんどの人たちは、その一生をレベル1で過ごすわ」

「ああ、そっか」

「けれど、MPやスキルは、将来の職業ににとても影響するから」

「ギルドに登録できる歳になったら、すぐに調べてもらうのが一般的なのよ?」

「なるほどー」


 とまぁそんな感じで……

 ぼくの暮らすこの世界では、ステータスを調べるのはけっこうだいじ。

 まさに一人前になった証ともいえるわけで──


「じゃあ、2~3日のうちにでも、街に行きましょうか」

「ええと……アイナママもいっしょ、だよね?」

「もちろんよ♪ それともママといっしょじゃ、恥ずかしいかしら?」

「ううんっ というか、アイナママといっしょがいいっ」

「うふふ♪ クリスはほんとうに、甘えんぼうねぇ♡」

「ち、ちがうもんっ」

「あら? そうなの?」

「あ、アイナママは、ぼくが尊敬するひとだもんっ」

「だから、いっしょにいて恥ずかしくなんてないし……」

「まぁ、クリスったら♡」

「ほ、ほんとだよ?」

「うふふ、嬉しいわ♡」

「えへへ♡」


 もちろんこれは、おせじなんかじゃない。

 アイナママは、ほんとうにすごい才女なんだ。

 きっとそれは、王都で通用するくらいに♪


「それにママも、クリスがどんなスキルを授かっているか、楽しみだわ♪」

「うん、でもぼく……どんなスキルがあるんだろう?」

「んー、でもクリスはあのステラの息子でしょう?」

「う、うん」

「だから、ひょっとすると……魔法が使えるかもしれないわね」

「そうだと、いいなぁ」


 そう、ボクの産みのママ【ステラ】。

 その人はアイナママと同じ、かつての勇者の従者のひとり。

 【土】【水】【火】【風】……

 すべての【元素魔法】を使いこなす【大陸最強の魔女】。

 ぼくがまだ小さいころに亡くなってしまった、その人の名前なんだ。


「クリスがもし女の子だったら……きっとすごい魔法使いになったでしょうね」

「うぅ……でもぼく、男のコだもん」

「うふふ♪ そうね」


 そういって、アイナママはまたぼくを、ぎゅっ てしてくれる。


(でもこれって……男のコを主張するぼくに、する事じゃないような?)

(うぅ、でもそんなアイナママを、ぼくはふりほどけない~♡)


 むしろまた、アイナママをぎゅっ てしかえして……

 そんなぼくとアイナママのいちゃいちゃ♡は、もうちょっとつづくのでした♪

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