第5話 女神さまの、すごい加護

「うぅ……わかりました。ぼくにはNTRネトラレの属性はないので、それでいいですぅ」

『そう、ですか……それもまた愛のカタチ……んふふ♡』

「っていうか!」

「そっちの方が主流派みたいにいわないでくださいよぉ! 女神さまぁ!?」

『ふむ……【NTRのタグを付けた方が売れる】……そう聞いたのですが?』

「女神さまのいってるのは、あくまで18禁のおはなしの場合ですから!?」


 あいかわらずナゾの知識を披露する女神さま。

 おかげで、まるでお話がすすまない。


「っていうか【異世界の勇者】っていうのも、もうちがうんじゃありませんか?」

「ぼくは前世の知識こそありますが、この世界で生まれたふつうの男のコですし」

『そういえば……そうですね……異世界の──あら、ついうっかり』

「ええと、ぼくのことはクリスと呼んでください。女神さま」

『……わかりました……では改めて……』

『クリスきゅん♡……あなたに──』

「【きゅん】はいりませんから!? あとハートマークも!?」

『えー』


 その後……女神さまとの何度にもわたる交渉の末に……

 ぼくが女神さまを【ミヤビさま】とお呼びすることで、

 ようやく【クリス】と呼んでもらえることになりました。


「ええと、ではミヤビさま? もうひとつのぼくの願いというのは」

『クリスよ……あなたのもうひとつの願い……それは──』

『【女性冒険者たちに、守りの加護が欲しい】です』

「あっ」


 コレも、前世で勇者をやっているころ、ぼくは常々そう思っていた。

 そう、ミヤビさまのいう女性冒険者とは──


(すごく、死にやすいんだ……)


 ◇◆◆◇


 この世界には【冒険者】と呼ばれる人たちがいる。

 【魔物を討伐する】ということを、主なお仕事とする人たちのことだけど……

 そのお仕事は薬草とかの素材集めから、果てはドラゴン討伐まで、かなり広い。


(つまりは荒事専門の何でも屋さん、だよね)


 【冒険者ギルド】という組織が、そのバックアップをしてくれはするけれど……

 国や貴族に仕える【兵士】とはちがって、その存在はあくまで自己責任。

 自分を守るすべも、戦う仲間を集めるのも、ぜんぶ自分でやらないといけない。


(もちろん強い魔物とかを倒せれば、その報酬で一攫千金もできるけど……)


 たとえ弱い魔物でも、相手は殺すつもりで襲ってくる。

 だからどんなに強い冒険者でも、油断すればすぐに死んでしまう。

 そんな──命の安い職業でもある。


(それなのに、冒険者に女性がいるのは──)


 この世界には【魔法】がある。

 魔法の源である【魔力】は、ほぼ全ての人たちが持っているけれど……

 じっさいに魔法を発動させる事のできる人は、全体の2割くらいと少ないんだ。

 だから【魔法が使える】という時点で、社会的に優遇されるといってもいい。


(その魔法による攻撃は、すごく強い武器で……)

(そして魔法が使えるのは、ほぼ女性だ)


 その理由はカンタンで、女性は【魔法総容量】──

 いわゆるゲームなんかでいう【MP】マジックポイントが、男性の10倍近くあるから。

 そもそも男性には、魔法のスキルを習得することが難しいとされているし、

 仮にスキルがあっても、魔力が少なくては使い物にならない。


(だから魔法の使える女性冒険者は、すごくちやほやされるんだよね)


 そのぶん、男性には武器を使う才能があることが多い。

 筋力や打たれ強さ……いわゆる【HP】ヒットポイントが高く、武術スキルも多彩だ。

 だからこの世界では【武力は男性、魔法は女性】という、役割分担がある。


(けど……体力があって、重くてじょうぶな鎧を着けられる男性とちがって……)


 ほとんどの女性冒険者は、軽量で防御力の低い防具しか装備できない。

 ごくまれに、魔法のかかった防御力の高い防具も存在はするけれど……

 すごく高価でレアだから、そんなのを入手することは、ほぼムリ。

 じゃあ、どうするかというと──


(それも、魔法……だよね)


 女性は防具で身を守るんじゃなくて、火や風とかの魔法で防壁を張るんだ。

 そして【魔物を近寄らせないこと】で、攻撃をふせぐ。

 もちろんこれだって、有効であるには違いない。


(けど……)


 魔物に防壁を突破されたあとは……なすすべがない。

 なのでHPが少なく、防御力の低い防具しか装備できない女性は──

 とても死亡率が高いんだ。


(だから、勇者としてのクエストのあいだ)

(協力してくれた女性冒険者たちが、なんども死にかけたり亡くなったりした)

(そしてそれは、アイナママみたいな最強にちかい冒険者でも……)

(例外じゃなかったんだ)


 魔王のスキル【忘却の波動】は、あっけなく魔法防壁を無効にした。

 それはまさに、戦士が盾と鎧を奪われたのと同じようなことで……


(あんなのは……もう見たくない)


 傷ついた彼女たちを……

 そして亡くなった女性たちを見るたびに、ぼくは思っていた

 【女性冒険者たちに、守りの加護がほしい】、って。


「ミヤビさまっ ありがとうございますっ ほんとうにありがとうございますっ!」

『あぁっ♡ クリスきゅんの純粋な感謝と信仰が……まぶしい♡ あふん♡』

「きゅんづけはヤメてぇ!?」


 こんなミヤビさまだけど……これがホントなら、すごいことだ!

 そしてその褒賞、つまり女性冒険者の守りの加護は、

 魔王討伐のあと、すぐに授けられたそうで……


「じゃ、じゃあその加護が広められて、もう十数年たってるってことですか?」

『その通りです……クリスきゅ──こほん、クリスよ……』

『わたくしは……すべて女性たちに……その守りの加護の防具を広く授けました』

『初の……【女性専用加護】です……』

「じょ、女性専用?」

『そしてそれは安価にして入手しやすく……もちろん魔族では扱えない代物です』

「えっ じゃあ──」

『絶大な威力の魔法防壁がその身体をまとい……物理耐性が急上昇します』

「すごい! あ、魔法は──」

『同時に『知力』が倍増し……魔法の威力もさらに増大しました』

「じゃあ……女のひとたちは──」

『死亡率が……激減しました』

「パーフェクトですっ ミヤビさまぁ!」

『感謝の極み♡』


 すごい……ミヤビさまはほんとうにすごい!!

 ああもうぼくっ

 いまからミヤビさまを主神として信仰してもいいっ♡


『あっ♡ すご……ひ♡ クリスきゅんの感謝が……あふれ……て♡』


 びくんびくん♡


 あいかわらずのきゅん付けと、

 なぜか小刻みにぴくぴく☆してるのは、このさい無視するとして……

 あれからもう十年以上、女性の死亡率が激減したなんて……

 ほんとうにすごいことだ!


「……ん? でもぼく、その加護の防具、見たことない?」


 ぼくの村にも、ごくたまに冒険者のひとたちが来ることがある。

 山や森に住み着いた魔物なんかを、討伐してもらうためだ。

 その中にも、けっこう高いレベルの女性冒険者がいたんだけど……


『はふぅ♡ クリスきゅん……』

『あなたはまだ、あの村から出たことがないのですね?』

「あ、はい。ミヤビさま」

『あなたの村は……さほど強い魔物もおらず……比較的平穏な地域』

『むしろ……強力な魔物が出現する地域──』

『人族のいう【冒険者ぎるど】のある街などでは……とても普及しています』

「あ、なるほど」


 ミヤビさまにいったとおり、ぼくはあの村から出たことがない。

 それはまぁ、例の【一人前になる年齢】になっていなかったから。

 村や街の中は、神官による防壁があるのが普通で……

 めったなことでは、魔物が中に入り込むことはない。


(とはいえ、すごく強い魔物や魔族なら、カンタンに入り込めちゃうらしいけど)


 だから村の外は、いつ魔物が出てもおかしくないから……

 ちょっと前までのぼくみたいな半人前のコは、村の外に出してもらえないんだ。


「わかりました!」

「ぼくも一人前の歳になったので、おおきな街に行くこともあると思います」

「その時にぜひ、その加護の防具を見せてもらいます♪」

『ええ……楽しみにしていてください……クリスきゅん♡』

「……もうその呼びかたで決定なんですね、そうなんですね……」

『ああっ わたくし女神なのに……人族の少年に敬称をつけてしまうだなんて』

『くやしいっ♡ でもクリスきゅん、カワイイっ♡ びくんびくん♡』

「【きゅん】って敬称なの!?」

「っていうか、少しは本性をかくしてくださいよぉ!?」


 あぁんっ もうっ ミヤビさまっ

 やっぱり露出の女神さまなんじゃないのぉぉ!?


 ◇◆◆◇


「………………はっ」


 気がつけば……ぼくはベッドの中にいて、もう朝だった。


「うぅ、なんだか寝た気がしないぃぃ」

「というか……さっきのは夢、だったのかなぁ?」


 とはいえ、夢にしては妙に鮮明だったし、その内容はしっかり覚えてる。


「そう考えると……」

「ミヤビさまは夢まくらに立って、ぼくにあいに来てくれたのかなぁ」

「ふあぁぁぁ」


 ◇◆◆◇


「アイナママ、おはよ~」

「おはよう、クリス♪ あら、今日はなんだか眠そうね?」

「うん……たっぷり寝たはずなんだけどね~ なんだか眠くて」

「うふふ♪ 寝る子は育つというし、クリスも成長期なのかもしれないわね?」

「えっ? そ、そぉかなぁ♪」


 そういえば、前世で聞いたことがある。

 成長ホルモンが出て背丈が伸びるのは、とくに眠っている時なんだって♪

 (※注 そう言われていますが、エセ科学だそうです)


(急に背が伸びて、成長痛で眠れないってこともあるみたいだし……)

「んふっ♡」

「まぁ♪ クリスったら、嬉しそうね?」

「だって……ぼく、はやく大きくなりたいし♪」


 前世に関連した件を除けば、ぼくの悩みは……

 背が低いこと、それと女のコによくまちがえられること。


「うぅ、せめて……レイナちゃんよりは大きくなりたいよ」

「うふふ、クリスたちくらいの年齢はね、女の子のほうが成長が早いのよ?」

「え~、じゃあ」

「あとしばらくは、レイナの方が背が高いままかしらね♪」

「がーんっ」


 そんなぼくが、ショックにふるえていると……

 アイナママが後ろからぼくを抱きしめてくれた。

 そしてそのまま、すとんと椅子にすわっちゃう。


「大丈夫♪ そのうち背も伸びて、すぐにママよりも大きくちゃうわ」

「そ、そぉだよね♡」

「でもそうしたら、こうやって抱っこできなくなっちゃうわね……ママ、寂しい」

「うぅ、アイナママぁ」


 ぼくだって、アイナママに抱っこやおんぶ、されなくなるのは……さびしい。

 でもぼくとしては、もっと強いオトコになってママを守りたいっ!


「うぅ でもぼく……あぁっ!?」

「うふふ、冗談よ♪」

「クリスがあんまり可愛いから……からかっちゃったの♪ ゴメンなさいね?」

「ひ、ヒドいよぉ!? それに、カワイイっていわないで! ぼく──」

「はいはい♪ 男の子、ですよね♡」

「むぅ そうだもん」


 そんなむくれるぼくを、アイナママはナデナデしてくれた♡


(あぁん♡ そんなナデナデなんかでぼく……ごまかされたりしな──あふん♡)

(あぁ、アイナママ……だいすき♡)

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