第2話 ぼく、ひとりでできるもんっ
「あ……アイナママ、おはよう」
「あらクリス、おはよう♪ もう具合はいいのかしら?」
あれから半日……
熱も下がってきて、具合の良くなったぼくのおへやにアイナママが来てくれた。
「うん、アイナママ、ありがとう」
「ぼくを魔法でなおしてくれたんでしょう?」
「ええ、でもほんとうによかったわ……無事にクリスのお熱が下がって♪」
ニッコリと、幸せそうにほほ笑むアイナママ。
だけど……ぼくは知ってるんだ。
(勇者の記憶と混じったいまは、とくに……)
アイナママの使う【神聖魔法】は、人を癒やすチカラを持っているけれど……
それはあくまで身体の活性化をうながすモノで、
病気そのものをなくしてくれるモノじゃない。
(だからケガの治療とかには、すごく効果があるけれど……)
高熱にうなされ、体力を失いつつある患者が、魔法1発で回復──
なんてことは、ありえないんだ。
(だから──)
アイナママは、不眠不休で看病してくれたんだ。
お湯をわかし続け、部屋の温度と湿度を上げて、ぼくの身体を温めてくれた。
頻繁に身体の汗をぬぐい、冷たい水にひたした布をしぼっておでこを冷やし……
こまめに水を飲ませながら何度も『がんばって』と声をかけ続けてくれたんだ。
なのに、まるで【毒】状態のように、体力がへり続けるぼくに……
アイナママは何度も何度も、回復魔法をかけ続けてくれて──
(それをひとりで一晩じゅうやってたのに)
(アイナママ、なんでもないみたいに──)
中身が見た目通どおりの歳じゃなくなってるぼくだから、よくわかる。
この行為が、どれだけ愛情の込められたものなのかが……
「うぅ ごめんね、アイナママぁ」
「ぼく、これからはもっと強いコになるから……」
「えっ!? く、クリス……どうして泣いてるの!?」
「うぅ だってぇ……」
「ぼく、アイナママに、いっぱい心配をかけて……ぐすっ」
「な、なにをいってるの!?」
「子供を心配しない親なんていませんよ?」
「ぐすっ アイナママぁ♡」
「もう……クリスは泣き虫さんね」
そういうとアイナママは、ぼくをきゅっと抱きしめてくれた。
その柔らかくて暖かい胸に抱かれて……
ぼくは、ぼくは──
(あぁ、アイナママの、おっぱい♡)
(おっきくて、ムニムニで……でへ♡)
(──はっ!?)
(な、なんだこれ!? なんでこんなキモチになるの!?)
いくらこの異世界が、一人前あつかいされる歳が低いっていっても、
現代日本じゃ、ぼくはまだまだ【子供】あつかい。
(な、なのに……すっごくムラムラ──)
(じゃないっ ドキドキするんですけど!?)
や、やっぱり……
コレって前世の記憶があるせい!?
よりにもよって、アイナママにムラムラするだなんてぇぇぇ!?
「うぅ、ごめんなさいアイナママ!? えっと 心配をかけて」
「ええ、けれど子供が親に心配をかけるなんて、ごく当たり前のこと」
「だから気にしないで?」
「ありがとう……アイナママぁ」
「それにあなたに万が一のことでもあれば、ステラに怒られてしまいます」
「う、うん」
【ステラ】は、ぼくを産んでくれたママの名前。
けれどステラママは、ぼくがまだ小さいころに……
病気で亡くなってしまったそうです。
(だけど、そんなぼくをアイナママが育ててくれたんだ)
(それはもう、ほんとうの子供とおなじくらいの愛情をもって♡)
「だから、好き嫌いせずいっぱい食べて、たくさん身体を動かして──」
「しっかりお勉強をして、立派なおとなになりましょうね♪」
「わ、わかったよ……アイナママ」
なにげに【お勉強】が入るのが、アイナママらしいというか……
「うふふ♡ じゃあ、そろそろごはんは食べられるかしら?」
「うんっ アイナママ」
「でも今日は、軽いものにしておきましょうね?」
「いきなり食べたら、お腹がびっくりしちゃうわ」
「うん」
そういって、アイナママの出してくれたごはんは──
たっぷりのお湯で煮込んだ、オートミール(燕麦)だった……
(うぅ、いわゆる【おかゆ】にあたるモノなんだろうけど……)
(はむっ ……うぅ、お味が~)
そう、この世界にはおミソやショウユもなく、
ましてや【ダシ】にあたる、うまみのある調味料がない。
(おさとうやコショウはお高いし、味つけはハーブとお塩だけ、なんだよなぁ)
(うぅ…きのうまでは、ふつうにおいしいって思えてたんだけど……)
アイナママの料理はていねいで、じゅうぶんにおいしいとは思うんだけど、
現代日本の記憶がジャマをして、なんだか薄味でものたりない。
(いやっ この世界ではこれだってフツーだしっ)
(なによりアイナママの愛情のこもったごはんっ)
(おいしくないなんていえるはずがない!)
ぼくはもくもくとスプーンをおくちに運んで……
その味気ないオートミールを食べきった。
◇◆◆◇
「ごちそうさま、アイナママ」
「あら、全部たべられたのね? 偉いわ、クリス♡」
「う、うん。アイナママ、いつもおいしいごはんをありがとう」
「うふふ、どういたしまして♪ ちゅっ♡」
アイナママはぼくのほっぺにキスをして、食器をかたづけてくれる。
その楽しげな笑顔と後ろ姿に、ぼくの胸はムラムラと──じゃない!?
(うぅ、食欲が満たされたあとは、性欲だなんて……)
(いったいどうしちゃったの、ぼく!?)
とはいえ、ほんとうはなんとなくわかってる。
アイナママは、前世のぼく── 召喚勇者の恋人だったんだ。
その勇者の時の記憶が戻ったいまは、どうしてもその視線でママを見てしまう。
(ええと、前世のぼくが魔王と相打ちになって、そこから十数年ってコトは──)
(アイナママって、アラサー(30歳前後)くらい?)
勇者の従者だったころのアイナママは、まだハイティーンで、
きれいだけどやせっぽちで、おっぱいもぺたんこだったのに……
(だけど、いまのアイナママのおっぱいは……でへ♡)
ゆうべの、あの女神さまに負けないくらいの大きなおっぱいで──
お尻もふとももも、それはもうムッチムチで……♡
(ってぇぇぇっ!? だからなんで!? そんなエッチな目で見ちゃうのぉ!?)
いつもの見なれたはずの光景なのに。
ニコニコとぼくのお世話をしてくれるアイナママの健康的なしぐさが……
むしろいまはとってもイヤらしく感じちゃうなんてぇぇ!?
(こ、これも勇者時代のぼくがっ)
(ヤリたいざかりのおとしごろ、だったから!?)
一人前になるのが早いこの世界でのハイティーンは、結婚適齢期でもある。
女子なんかは、20歳をすぎてケッコンしてないなら行きおくれだし、
20歳のなかばを過ぎてたら【大年増】あつかいなんだ。
(だ、だからって、よりにもよってアイナママにムラムラするなんてぇっ)
(恋人だったのは前世のハナシでっ)
(いまはぼくのママっ ママなんだぁぁぁ!?)
◇◆◆◇
そう、恋人── アイナママは恋人だった。
それは、従者として初めてアイナママに出会ったときから……
勇者だったぼくは、恋におちていた。
そしてそれは、会話をかさね、勇者としていっしょにいるごとに……
(どんどんアイナママのことが、好きになっちゃって)
(魔王軍に占領されていた街を開放したその夜に、告白したんだっけ♡)
あの中ボスとの戦いよりも緊張した、ぼくの告白は、
アイナママが大泣きするという、まさかの展開で……
(でも、アイナママも)
(『わたしもずっと、お慕いしておりました』って♡)
けど、おたがいに初恋同士のぼくたちは、
最初のキスからさきは、手をつなぐのもテレまくりで……
(そして、いよいよ魔王城に突入する前の日の夜)
(アイナママは、ぼくにいってくれたんだ)
ふるえる手で、ふるえる声で──
ぼくとの『あなたの勇気を分けてほしい、そして思い出が欲しいんです』って。
(そしてぼくらは結ばれたんだ♡)
(けど……)
(うぅ あのときはぼくも夢中で、ほとんど覚えてないぃぃ)
覚えているのは、痛みをこらえてけなげに微笑むアイナママのお顔……
そしてたまらなく香るアイナママのにおい♡
(はぁん♡ エッチって、ほんとうに五感で感じるモノだったんだなぁ♡)
(前世のころはそういう動画でしか知らなかったから、においなんてしないし)
そんなぼくがアイナママを想ってもんもんと、
身体をくねくねさせていると──
「あら、クリス? 食べ終わったなら、今日はもう横になりなさいな」
「え? でもぼく、もうだいじょうぶ──」
「もう、そういって昨日ママを心配させたのはだぁれ?」
「うぅ、ゴメンなさい……」
そしてぼくが、おとなしく横になろうとすると──
「ああ、ちょっと待って? その前に、身体を拭いてあげるわ」
「……えっ!?」
「くんくん♪ あぁ、やっぱり少し匂うわね」
「さ、脱いで?」
「え? ちょ、いいよっ じぶんでやるからっ!?」
そんなアイナママから、お湯と布だけもらおうとしたぼくだけど……
「ダメです、ひとりで背中がちゃんと拭けるの?」
「で、できるもんっ」
「……ほんとうに?」
「ほ、ホント、ですぅ」
「……ふう、いいでしょう」
「……(ほっ)」
「ではママが、ちゃんとひとりでできるか、見ていてあげます」
「……えっ!?」
って……アイナママにハダカを見られるのが、はずかしいからなのに!?
目のまえで見られてたら、いっしょだよぉ!?
「もう、やっぱりできないんでしょう?」
「えっ いやだから……」
「ダメですっ あなたはまだ病み上がりなんですから」
「あ、アイナママっ!?」
「おとなしくママに、お世話されちゃいなさい♡」
「ら、らめぇぇぇぇぇっ♡」
そのあと──ぼくはアイナママに服をぜんぶ脱がされて……
お顔や背中はもちろん、お尻や内股、はては……うぅっ
そしてつい【おっき】しちゃったぼくのアレにママは──
「あ、あらあらあら♪ もうクリスったら……オトコノコ♡ なのねぇ♪」
と、ニッコニッコしながら、ていねいにソコを拭いてくれました……
もちろん……やさしく皮をむきながら。
(うぅ、ぼくもう……おムコにいけないぃぃぃっ!?)
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