ママとビキニと、かわいい英雄

身から出た鯖

第1章 アイナママは、もと【聖女】

第1話 ぼく、交わっちゃいました

 気がつくと、そこは真っ白な世界だった。


「ここは、あの世か?」

「そうか、やっぱり俺は死んだんだな……」


 異世界──

 ごく普通の日本の高校生だった俺は【勇者召喚】され、

 そしてついに魔王との最終決戦に挑んだ。


 しかし苦戦の末、従者の3人は戦闘不能に。

 俺はそんな従者たちを転移アイテムで逃がし……


 そして、魔王と差し違えて相打ちとなった。


「世界と大事な人達を守れたんだ、悔いはない」

「……ただ」


 従者にして恋人であった聖女には、幸せになって欲しい──

 そう願った。


 ◇◆◆◇


 すると──突然声が聞こえた。


『……きこえますか……異世界の勇者よ……』

「なっ!? こいつ、直接脳内に!?」

『……異世界の勇者よ……わたくしの姿が見えますか?』


 そして目の前に、女性がひとり現れた。


『……わたくしは、あなたの心の中に現れる……時の流れを旅する女神……』

「め、女神様!?」


 その女神様は、まさに神がかった美貌の妙齢の女性で……

 柔らかにウェーブする、桜色とも金色とも見える、足首まで伸びた髪。

 顔立ちは穏やかで、どこか母性を感じさせる豊満なナイスバディ。

 特に、特にオッパイがっ メッチャ爆乳で♡

 ──なのに!?


「ちょっ!? なんて恰好してるんですかっ!?」

『……は? なんて恰好……と言われましても』

『これは神具【風花の羽衣】……ですがなにか?』

「は、羽衣には違いないでしょうけど……いや それじゃなくってですね!?」


 その女神様のいでたちは──


「そ それって限りなく、全裸ですよね!?」

『いえ……ですから羽衣を纏っていますが?』

「い、いやだからっ なんでその羽衣でっ」

「乳首と股間しかっ 隠してないんですかっ!?」


 女神様は、その手には背丈を超える長さの金の杖を持ち、

 両の手首と脚首に金環をつけてはいるものの……他はほぼ全裸!?

 かろうじて乳首と股間は、フワフワと宙に浮かぶ羽衣を、

 リング状のアクセサリーで留めて(?)隠している様なのだが──


『異世界の勇者よ……それは誤解です』

「誤解、ですか?」

『はい……わたくしが羽衣で覆っているのは……乳首と股間ではありません』

「そ、そうなんですか? では──」

『覆っているのは……乳頭と、陰核だけなのです……異世界の勇者よ♡』

「もっとヒドかった!?」


 い、いやいや……神様のすることだ

 コレにもなにか理由がある……のか?


「ええと、では他の神様たちも、そんな恰好……で?」

『………………(ふいっ)』

「な、なんで目を逸らすんですかっ 女神様!?」

『うちはうち、よそはよそ……そう教わりませんでしたか? 異世界の勇者よ』

「オカンみたいなコト言いはじめた!?」


 とはいえ……女神様自身が見ていいと言ってるんだ!(※言ってません)


(だ、だったら見ちゃうぞ!? ガン見しちゃうぞ!?)


 と、俺が決心して、そのお姿を目に焼き付けようとしたら──


『異世界の勇者よ……』

『いまはわたくしの装束よりも、伝えねばならないことがあります』

「はっ そうでした!?」

「って……やっぱり俺は、死んだんですか!?」

『……はい あなたは魔王との戦いで命を落とし……』

「ぐっ!?」

『この世界──あなたの言うこの【異世界】に……転生をしたのです』

「………え?」


 ◇◆◆◇


 女神様の説明によると──

 あの魔王との戦いの後、すでに十数年が経っているとの事。

 そして俺は王都から離れた小さな村に転生し、

 とある【少年】として暮らしているらしい。

 の、だが──


『異世界の勇者よ……あなたは誕生日を迎えたその晩に……』

『……高熱を、出したのです』

「こ、高熱!? それって……」


 この世界の医療レベルは限りなく低い。

 故に、ちょっとした風邪でも簡単に、ヒトは死んでしまう。


『はい……高熱によって死にかけて……その意識が失われつつあります』

「なん、だと?」


 て、転生したのにもう死にかけてるとか……

 やっぱりココは、あの世なのかぁぁぁ!?


『落ち着いてください、異世界の勇者よ……あなたは死んでいません』

「えっ!? ほ、ホントですか?」

『はい……しかし、その【少年】としての意識は一意的に失われ……』

「………………(ごくり)」

『その深層に残っていた前世の記憶を……取り戻してしまったのです』

「ぜ、前世の記憶?」


 すると女神様は、俺の目の前に大きな鏡を出した。

 そこには、魔王決戦時の装備のままの勇者──俺が映っていた。


(ええと……つまり)

(俺が転生してその【少年】になったワケだから……)

(その【前世の記憶】って、勇者として死んだ……俺?)


 そうだ、さっき女神様も言っていた。

 『魔王との戦いの後、すでに十数年が経っている』と……


「って、もしかして……」

「この【俺そのもの】が、前世の記憶?」

『はい……』

『そして記憶は混じり合ってしまい……もう元には戻せないのです……』


 辛そうな憂い顔で、女神様が言う。

 記憶がふたつ? 混じり合う? それってどういう──

 ますます混乱は収まらない。


『ごめんなさい……これはすべて、わたくしの責任……です』

「えっ!?」

『わたくしは……人界の出来事に、直接の干渉ができないのです……』

『だから、せめて……』

「め、女神様?」


 すると女神は、俺の額にそっと指で触れる。

 すると俺の意識の中に、どっと奔流が流れ込んできて──


「うわっ な、なんだこれ!? え、あぁぁぁっ!?」

『落ち着いてください、異世界の勇者よ……あなたはひとつになるのです』

「かっ かはっ!? ひ、ひとつ……に?」

『はい……』


 その奔流は、いわゆる俺の現在の記憶──

 この世界に転生した、【少年】としての記憶だった。

 それがいま、俺の中でひとつになろうとしている……


「ああ、そうか……俺は── ううん、ぼくは……」


 永遠に続くかと思われたその一瞬で……

 気付けば、ぼくの身体は勇者の姿から【少年】の姿になっていた。


「ぼくは……クリス」


 背は縮み、140センチくらいに。

 手足はすらりと細く、かなり脂肪の少なくも健康そうな身体つき。

 腰まである長い髪は黒く、首の後ろで結んでいるみたいだ。

 そしてその顔つきはまるで、女の子みたいで──


「ぼく、思いだしました……」

「ぼくがもと日本人で、勇者だったときのこと」

『あぁ、よかった……異世界の勇者よ、あなたが無事で……』


 記憶が──研ぎすさまれて、整ってゆく。

 人格も、前世日本人の記憶をもった【この世界のぼく】のモノになったみたい。

 だけど……


「女神さま……でもぼくは、これからどうなるんでしょうか?」

『勇者としてのあなたは、もう死んだのです……しかし』

「し、しかし?」

『あなたの戦いによってまた、魔王も滅びました……世界は救われたのです』

「そう、ですね……」


 また勇者をやる……というわけではないみたい。

 でも、まだ混乱はおさまらない。

 けれど、いまはとにかくぼくが無事であることを、ぼくの大切な人に伝えたい。

 ぼくを育ててくれた、あの優しくて心配性の──


「女神さま……じゃあぼくは、たすかるんでしょうか?」

『異世界の勇者よ……』

『あなたはいま、現世の母の治癒魔法によって……回復に向かいつつあります』

「ま、ママが?」

『ええ……彼女は相当に無理をしたようですね……しかし、それは報われました』

「そ、そうでしたか、ママが── って、あぁぁぁぁぁっ!?」


 と、という事は……ぼくは、ぼくのママは──


「め、女神さまっ その、ぼくのマ──」


 しかし、ぼくのセリフは遮られ、女神さまは満足げにほほえんだ。


『異世界の勇者よ……』

『魔王を討ち、世界に平和をもたらしてくれた事……ほんとうに感謝しています』

「ちょっ 女神さまっ!?」

『では……あなたの新しい人生に、幸いあれ──』

「お、おねがいだからっ ぼくの話をきいて~~~っ!?」


 しかし、女神さまの姿はまぶしく光り──

 そして視界が暗転した。


 ◇◆◆◇


「………………ん」


 ふと目をさます。

 と、そこには──ぼくの開いた目をのぞきこむ、

 大粒のなみだをこぼす、メガネをかけた女性のお顔が。


「あ、アイナ……ママ?」

「よかった……気がついたのね!?」

「むぎゅうっ!?」


 ぼくのお顔に押しつけられたのは……おっぱいだった。

 それも、なぜか肌も露わなビキニのおっぱい。

 そんなビキニのおっぱいにお顔をうずめる格好で……

 アイナママに抱きしめられる、ぼく。

 って……び、ビキニっ!?


「ああ…熱も少しは下がったみたいね…」

「う、うん……」

「でもいまは、もう少しお休みなさい? わたしの可愛いクリス……ちゅっ♡」


 そういうと、アイナママはぼくのほっぺにキスをする。

 その瞳になみだをためた笑みに、きゅっと握られたその手に──

 ぼくの心はぽかぽかと暖かくなる。


「あ……アイナ、ママぁ……ぼく──」

「おやすみなさい…クリス、良い夢を」


 そしてまた、ぼくは……

 そんな優しいアイナママのぬくもりに包まれて──

 ここちよい夢の世界に……

 誘われたのでした。


 ◇◆◆◇


「……ん、朝?」


 まぶたに感じる眩しさに、ぼくは目をさます。

 そして、その横には……


「すぅ……すぅ……」


 ぼくを看病しつつ、うたた寝をしている、アイナママがいた。

 その姿は、いつもの女性神官の服、神官服だった。

 腰まであるあかるいブラウンの髪はまっすぐすべすべで……

 そのお顔には、アンダーリムのメガネをかけてる。

 そしてちょっとたれぎみなやさしい目は、今は閉じられてねむってるみたい。


「ゆ、ゆうべのあの服は──夢、だったのかなぁ」

「ううん、それよりも……ありがとう、アイナママ」

「……ぼくを救ってくれて」


 それは祈りによる神の奇跡を発動させる【神聖魔法】による癒やし。

 アイナママは、その神聖魔法のすごい使い手なんだ。


「でも、ぼくに【前世の記憶】が混じっちゃったことで……」

「まさか、こんなコトに!?」


 そう、アイナママは……

 かつて【慈愛の聖女】の名を持つ、高位の神聖魔法の使い手。

 そして勇者の従者にして、恋人でもあった【聖女アイナ】。

 あのやせっぽちな少女だった聖女は、とても美しいオトナの女性に成長し──


「どうしてぼくのママになってるのぉ!?」

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