第37話 まさかの泊まり
翌朝、忍と二人で登校してから生徒会室で久しぶりに仕事をした。
ここ数日何もしていなかったので書類が溜まりに溜まっていて、二人でイチャイチャする暇などないほどに大慌てだった。
もう授業なんてそっちのけで仕事を続けて、気が付けば昼休みまでずっと二人で生徒会室にいた。
「あー、終わらん!航、そっちはどうだ?」
「無理……今日は徹夜だよこれ」
「こんな時にあかねがいてくれれば」
いつもなら、あかね先輩がいると怖くて仕方なかったのだが確かに今日はいてほしいとすら感じる。
あの人は忍とは違う要領のよさがある。
即断即決、無駄なものは問答無用で切り捨てる。
かといって何も考えなしにそうしているわけではなく、必要なことにはとことん時間をかけるところもある。
あんな彼女がいたからこそ、忍のように頑固で一途な人間がうまく立ち回れていたのだと、改めて知るところだ。
「今日もあかね先輩は学校に来てないのか?」
「そうだな、連絡もないし先生に朝訊いてみたが姿はないそうだ。どこにいるのやら」
普通なら、学校を休んでいたら当然家にいると考えるものだがあかね先輩の場合は例外。この学校自体が家みたいなものだ。
しかし隠し通路や秘密の部屋があるわけではなさそうなので、きっとどこかで一人悩んでいるに違いない。
「あかねは来る。だから来るまで待つ」
「でも学校の閉まる時間は夜八時だからそれまでがリミットか」
「いや、私たちは特権を使って泊まることもできる」
「そんな夜中まで待たないといけない時点で来ないと思うけど……」
なんて思っていると忍がロッカーからゴソゴソと布団を出している。
「お泊りセットだ。ここで今日はキャンプするぞ」
「え、ほんとに泊まるの?帰ろうって」
「あかねを待つためだ。しかたあるまい」
「……」
忍の奴、あかね先輩の件にかこつけてやりたい放題してる気がするが、気のせいか?
しかし、今日は待つと決めたのだ。そう腹をくくった以上は俺も一緒に待つしかない。
結局朝から放課後までずっと生徒会室にいた。
授業なんてなかったのかと思うほど、俺たち二人は他の生徒と全く違う学校生活を送った。
「明日から授業出ないとまずいよなぁ」
「そうだな。しかし……」
「ん?」
放課後になり、引き続き生徒会室で話をしていると忍が浮かない顔をする。
……ああ、そうだな。生徒からの評判が落ちて、クラスで好奇の目にさらされるのは嫌なんだろう。
こういう時、いつもあかね先輩が間に入って、まぁやり方は強引だし歓迎はできないがそれでも忍は守られていたのだと知る。
「放課後になったけど、来ないなあかね先輩」
「まだ夕方だ。急がなくてもいい」
「でも、お腹減ったよ……」
「それでは出前だな。ピザでも頼もう」
結局彼女との初めてのお泊まりがまさかの学校という形で開催された。
出前のピザを待つこと三十分、二人であれこれ話しているとようやく目当てのものがきた。
「ピザお待ちしましたー」
と言って入ってきた宅配員に俺はひっくり返る。
「え、桜!?なにしてんの!」
「私、バイト始めたの。へへん、住所聞いてピンときたから来ちゃった」
「来ちゃったって……」
そんな桜を見て忍は憤慨するかと思いきや、むしろ穏やかな様子だ。
「桜、幼馴染からストーカーに成り下がるとは落ちたものだな」
「忍さんこそ、問題解決してもいないのに男と泊まりなんてほんと淫乱ですね」
「ツンデレのふりしてヤンデレは貴様の方だなビッチめ」
「メンヘラ」
「負け犬の遠吠えなんか聞こえん」
「このピザに毒入れてやる」
「もうやめー!」
顔を合わせるとこうなるから二人がバッティングするのは嫌なんだよなぁ……
でも、こういう道を望んだのは俺だし、仕方ない、か。
「さっ、ピザをよこせ。そして帰れ」
「私も泊まります。これでバイト上がりなんで」
「……帰れ」
「無理です」
桜は譲らない。
そして何故かここにきて宣言する。
「私、お兄ちゃんを絶対にあきらめないので」
言い切った桜に対して、忍も忍で「絶対に渡さない」
とムキになる。
そんな彼女に対して桜は
「それくらいの気持ちであかね先輩のことも待ってたらいいんですよ」
という。
「桜……」
「さっ、待ちましょう。絶対に先輩は来ますから」
「……そうだな、待つ」
結局三人で、あかね先輩がくるのをじっと待つことになる。
しかし、時間だけが過ぎて気がつけば時計の針は夜の十時を回る。
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