第36話 待つ
「あかね、私はお前と友達でいたい」
「無理よ、あなたの思う友人関係には私とあなたではなれない」
「なれる!私は今までのことをすべて謝るから、だから」
「謝るのはこっちの方よ、忍ちゃん」
「なに?」
忍は戸惑う。そんな彼女にあかねが続ける。
「私ね、親から人形扱いされるのが嫌であなたにその役割を押し付けたのよ。それにまだあなたは会ったこともない私の兄と結婚させるって、私は決めてたわ。そしてうちの家にあなたが来て、私が出て行く。それが筋書き。それが私の望み。そんな風にしかあなたのことを見てなかった私のことを友人だなんて勘違いさせちゃったことについては謝ると言ってるの」
「……あかね」
「だけどもういいの、全部計画はパーよ。だから私にはあなたは必要ないし、あなたももう私に縛られる必要がないわ。それに、協力してくれと言われてももうしない。する理由もないし。だからお別れ。いいかしら」
あかねは言い切る。そして屋上から去ろうとする彼女だったが、忍が呼び止める。
「あかね」
「はぁ、何よまだ用事?」
「あかね、お前の言いたいことも考えも全部分かった。ただ、それでも私はゼロからでもやり直したい。これから友達になりたいのだ」
「……正気?ていうか私にはそんな気一切ないんですけど」
「だったら、何故泣いている?」
「……」
あかねの目は真っ赤に充血していた。
忍もまた、そんな彼女の様子を見て今にも泣きだしそうになる。
「あかね、すまなかった。今まで私のために尽くしてくれたというのに」
「……知らないわよ。私が利用してただけなのに変な勘違いしないで」
「お願いだ、明日からも私と一緒に生徒会活動を、共に励んでくれないか?」
「……」
あかねは無言で去る。
忍はもう一度呼び止めようとしたが、その後ろ姿を見て声が出なかった。
やがてあかねがいなくなり、一人屋上に残された忍はやがてゆっくりとその場を去る。
◆
「お兄ちゃんこわかったよー!」
「さ、桜!?」
俺が一人で生徒会室にいると、桜が忍と入れ替わるようにやってきた。
「だ、大丈夫だったのか?」
「死ぬかと思った」
「はは、まぁあかね先輩相手だからな。でも、うまくいきそう?」
「うん、多分だけどね。あとは忍さんとあかね先輩の問題だし」
「そ、そっか」
後は二人の問題、か。
しかしその前の大仕事を、桜にさせておいて俺は何もできないなんてほんと俺はだらしがないというか。
「お兄ちゃん」
「ん、なんだ?」
「撫でて」
「へ?」
桜が頭を差し出してくる。
「撫でて!」
「……わかったよ」
「えへへ、お兄ちゃんの手、大きいね」
ああ、昔もこんなことがあったような気がする。
桜は俺に撫でられるといつも嬉しそうにしていたな。
……やっぱりいいやつだよこいつは。
「桜、ご苦労様」
「うん、お兄ちゃんの為ならなんでもする」
「はいはい、ありがとうな」
俺が桜の頭をなでなでして、随分とほっこりしていたところで忍が扉をガチャッと開けた。
もちろん最悪のタイミングである。
「航、私があかねと大切な話し合いをしている最中に何をしているのだ?」
「え、あ、これはだな……」
「忍さん、私は今日の報酬をいただいていただけです。文句は言わせませんよ」
「なんだと?」
「ストップストップ!」
また二人の喧嘩が始まりそうだったのは、今回に関しては俺のせい、か。
「ええと、それで忍。どうだった?」
「話はした。しかしわかってくれたかどうか……」
「そっか。でも信じて待つしかない、かな」
今日はそのまま解散となる。
桜は俺と同じ方向に帰るので、それを防ぐために見送れと忍がせがむ。
ひと悶着はあったが、結局忍を送ることにした俺は桜と正門のところで別れた。
それから、忍の家の前まで行くと今日も忍は家にあがれとは言わなかった。
代わりに、マンションの下で決意めいたことを俺に話してきた。
「ここはあかねの家の所有物だ。だから、私はここを近々引っ越そうと思う」
「ああ、そうだったっけ。でも、あてはあるのか?」
「今考えている」
「大丈夫なのかそれ?」
「問題ない。それより、明日あかねが生徒会室に来てくれたらと願って、今日は寝るとする」
「そう、だな」
「それでだ、航」
「ん?」
「明日、どちらに転ぼうと一つのけじめをつける。そうしたら……」
「そうしたら?」
「部屋に泊めてくれないか……」
「!?」
唐突にお泊りを要求されてしまった。
まぁ、でも付き合ってるし……
「そう、だな」
「では明日は航の家でお泊り会だな」
「あ、ああ」
積極的なというか、こういうところはグイグイ来る。
そんな忍もまぁ、嫌いじゃない。
「じゃあ、明日」
「ああ、それと」
と忍が
「桜に、礼を言っておいてくれ」
言ってマンションに入る。
……素直じゃないなぁ。
まぁ、そんなところも嫌いじゃ……ちょっとしつこいな。
とはいえあかね先輩の問題は解決したというよりケリをつけたというだけ。
明日どうなるかで、ああは言うものの忍もどうなることか。
少し不安になりながらも部屋で一人、メールをする。
忍から、嵐のようなメールが再開された。
少しのブランクがあったせいで戸惑っていると「桜がいるのではないな?」なんて嫉妬の嵐まで吹き荒れる。
まぁ、そんな彼女も……いや、これは勘弁願いたいものだ。
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