第34話 妹?

 忍と二人で夜に俺の部屋で二人きり。

 なんともドキドキするはずのシチュエーションなのだが今は違う。


 あかね先輩の事で、忍から話があるようだ。


「航、私はあかねを利用してきたことを謝りたい。彼女は彼女なりに私に協力することは都合よかったのだとしてもそれはそれだ。だから謝って、ちゃんと仲直りしてあかねにもきちんと私たちの事を祝福してほしいのだ」

「そうだな、でも謝ったところであの人は多分話を聞かない。だから方法を考えないと」

「……」

「ん、どうしたんだ?なにか考えでも」

「なぁ航、結婚式はどうする?」

「……は?」


 話が飛躍した。というかぶっ飛んだ。


「いや、今はあかね先輩の話を」

「あかねをどうやって招待するかだ。スピーチも彼女に頼みたい。私と航のなれそめを知っている彼女こそ適任だ」

「い、いやそれはだな」

「結婚式は近しい人間だけ呼べばいいと思っているが、それでもあかねは絶対に来てもらわねばならない。だから絶対に仲直りするのだ」

「……」


 まずそもそもだが、なぜ俺と忍は結婚する前提なのだ?

 今しがた付き合ったばかりで、これからという時になぜ既に彼女の頭の中では試合が終了しているのだ?


 なんか話が逸れる前に戻さないと。


「あのさ、忍。まず結婚とは言っても俺たち高校生だしそういう話はもうちょっとしてから」

「航は私と結婚するのが嫌、ということか?」

「へ?」

「私とは遊びで、年頃になったら捨てて私より若い桜と結婚する、ということか?」

「あ、あの忍さん?」

「付き合ったら結婚というところまで考えて真剣に交際するのが筋ではないのか?違うのか、ええ、どうなんだ?」


 忍は完全に前のめりだ。

 ていうかそのまま転んでしまいそう。


 ……なんかあかね先輩の件もそうだけどこの意味不明なポジティブさをもっと活かせばいいのにと思うのは俺だけではないはずだ。

 はぁ、めんどくさい人だな。


「も、もちろん先は意識してるって。別れる前提で付き合うやつがあるか」

「そうか、ならそうだと証明してくれ」

「しょう、めい?」

「ああ、キスしてほしい。航から」

「……」


 突如訪れたラブコメ展開に、俺は酷く緊張した。

 しかし目を瞑り身構える彼女にそっとキスをした。

 

 今までは忍や桜に向こうからされるだけだった、なんて振り返るとよくよくとんでもない日々だったなと思うが、初めて自分から女子にキスをするのはあまりに、おもはゆいとでも言うべきか。


 いつ離れたらよいかもわからず、結局しばらく忍と唇を重ねていた。


 そんな静寂を壊したのはドアをノックする音。

 母が気を利かせてお茶でも持ってきたのかと思い慌てて離れると、勝手にドアが開いた。


「母さん、返事もないのに勝手に開けるなっていつも……桜!?」

「勝手に入られたらまずいことでもしてたの?スケベ」


 桜がお盆にお茶とお菓子を乗せて入ってきた。

 しっかり三人分ある。


「忍さんこんばんは。夜遅くに熱心ですね」

「桜こそ、こんな夜更けに何用だ?ことと次第によっては」

「私も協力しますよ、あかね先輩のこと」

「……なんだと?」

「桜?」


 得意げな顔で桜は言った。協力すると。

 一体全体どうしてそのような話になるのか俺には皆目見当もつかなかったが、忍は桜の様子から何かを察する。


「桜、貴様恩を着せて航にもう一度近づくつもりなのだな?」

「忍さん、浅いですよ。そんな下心はとっくにありません」

「そ、それではなぜ」

「私、お兄ちゃんの本当の妹に徹することにしましたから」

「……なん、だと?」


 この瞬間、一人っ子の俺に可愛い妹が出来た。

 名前は桜、一つ年下で小柄な可愛い女の子。

 わーい、妹欲しかったんだよなぁ……


 じゃなくて!


「桜、何言い出すんだよ急に!?」

「急じゃないもん。昔お兄ちゃんだって「桜が本当の妹になってくれたらいいな」なんて言ってたじゃんか」

「そ、それっていつの話だよ……」

「とにかく、私は妹です。だからいつお兄ちゃんといても不自然じゃありません。もうツンデレとかそういうのめんどくさいからやめちゃいます!」

「設定までぶっ壊しちゃったよ!?」


 桜は俺の妹キャラでいくと宣言した。

 それがどこまで本気なのか、ていうか冗談であってほしい限りなのだがそれはどうやら本気と書いてマジと読むやつだった。


「というわけで忍さん、私はお兄ちゃんの妹だから」

「あなた、もっとまともかと思ってたけど強烈ね……」

「忍さんにお兄ちゃんの恋人役は譲ります。でも妹ポジションは私です。いいですね?」

「よくない、と言ったら」

「寝取ります」

「やってみろ、寝首かいて殺す」

「いいですよ返り討ちですから」

「だー、久々の喧嘩やめろ!」


 またいつぞやのように喧嘩勃発しかけたので俺は必死に両者を止めた。

 しばらく落ち着くまでに時間と体力を要したが、その後息を切らす俺に対して桜がケロッとした表情で言う。


「お兄ちゃんの恋人の悩みなら、助けるのが妹ってものよ」


 この一言で忍もさすがに折れた、というか俺の恋人と言われて嬉しかったのか照れていた。


「ということだから今どういう状況なのか教えて」

「ああ、わかった。忍、いいな?」

「恋人、私は航の恋人、公認の恋人、ふふ、ふふふふ」

「忍さーん」

「はっ!?ま、任せる」

「……」


 その後桜に経緯を説明した。

 そしてあかね先輩と忍の関係性まで話したところで桜は笑い出した。


「何がおかしいんだよ」

「あはは、だって要するにあかね先輩が忍さん使って逃げてるだけじゃん。うん、しかもあの性格……いいわ、私に任せて」

「ま、任せてって……噛み付いたらそれこそ桜が」

「大丈夫、私忍さんには負けちゃったけどあの人にまで負けるつもりはないから」


 自信満々に桜は言う。

 結局忍経由であかね先輩に、明日の放課後屋上にきてもらえるように連絡した。


 もちろん彼女からの返事はなかったが、桜は「絶対にくるから」とこれまた自信たっぷりにそう話す。


 不安になりながらも、結局その日は桜が忍を追い返す形で解散となり、やがていつもの朝を迎える。

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