家族オフ会

赤城ハル

第1話

 テーブルの上には鍋がぶくぶくと沸き、中の具材が揺れている。

「もうそろそろで出来そうだな」

 重い沈黙の中、父が口を開く。

 ここはしゃぶしゃぶ屋の個室。

 揃っているのは家族。

 しかし、これは家族団欒の外食ではない。

 オフ会だったのだ。

 スマホのソーシャルゲーム、「ラスト・リリィ・プリンセス・プライム」通称「ラリププ」のレギオンメンバーのオフ会。

 で、集まったのが家族五人。

 ごく稀に知り合いがいたというなら分かるが、家族がいた。しかもメンバー全員が家族なんて笑い話にもならない。ただの恐怖だ。

「こんな偶然ってあるものだな」

 と言って父が乾いた笑いをする。

「妻として恥ずかしいわ。大の大人が、いえ、初老前のおっさんがソシャゲだなんて。しかも、あのマッシュがあなたとは」

 母は溜め息を吐いた。

 まあでも、気持ちは分からなくない。

 マッシュは人の話を真面目に聞いてくれる懐の深い大人の女性。それがおっさんとは。正体が父でなくてもおっさんというのは最悪だな。

 そして母が使うアバター、ウッチャンはメンバー内でも分かるくらいマッシュに好意を抱いていた。

「やっぱ夫婦なんだな。うん」

 と父は満足気に言う。

「やめてよ。ああ、最悪。あんなことやこんなことやら相談しちゃったじゃない」

 母は頭を抱え、下を向く。

 一体何を話したのだろうか。

「それより、もう出来たんじゃないのか? 皿を取ってくれ」

 と父は妹に言います。

「あ、オフ会ではシルフィーって言うべきかい?」

「ちょっ! やめてよ!」

 シルフィーは妹のアバターネーム。

 弟は妹の体型を見て、

「あれが姉貴の願望だったの?」

「馬鹿! うっさい! 黙れ! ボケ! 死ね!」

 罵倒の5連発。

 さらに笑おうとする父を妹が一睨みで黙らせる。

 シルフィーはボンキュッボンのセクシーキャバ嬢キャラ。

 そしてゲーム内での性格は高飛車、傲慢、高圧的。

 地味で全体的に黒っぽい妹とはまさに正反対。

「ていうか、あんただってあのキャラ何よ? ロリコンなの?」

 と妹は弟に反撃する。

「べ、別に、無難なキャラだし」

 弟は焦り、目線を逸らす。顔がもう真っ赤だ。

「どこが? ちっちゃくてヒラヒラのドレス着て、それにあの口調……ぷっ」

 妹は途中で弟のキャラを思い出してしまい、おかしくて吹いてしまう。

 弟のアバターキャラは小さい幼女キャラでフリフリのドレスを身に纏っている。さらにきわめつけは「なのですぅ〜」という口調だ。

 弟はゴリラのような体型で角刈りで顔も四角く眉が太い。

 それがあの小さい幼女キャラを使ってたとなるおかしいものだ。ロリコンと言われてもおかしくはない。

「う、うるさい! 笑うな」

 弟は鍋の具材を適当に摘み、ゆずぽんにつけてバクバク食べる。

「あー熱ぅ」

 と言って弟はシャツの首元を動かすが、それだけではないだろう。

「まあまあ、誰しも真逆の存在に憧れるものさ」

 と父が弟をフォローする。

「この中でまともなのは俺だけか?」

 俺は鍋からぶた肉を取って呟くと、

『なんでやねん』

 総ツッコミを食らった。

 おいおい皆、いつから関西人になった?

「俺のキャラは普通だろ?」

 まあ、男が女キャラを使ってる時点で普通ではないのだろうが。

「どんだけ課金してんのよ!」

 今までショックで俯いていた母が言う。

「そうよ。金がないって言ってたけど、まさか課金して金がなかったとは」

 妹が呆れた口調でいう。

「お前だって課金してるだろ」

「微課金よ。重課金と一緒にするな! 毎回毎回UR武器を自慢してさ。何? 承認欲求の塊なわけ?」

 続いて弟が、

「友人と遊んでるってのは嘘だったのかよ」

「待て。課金して友人と遊んでいるんだ」

「友人でなくて家族だけどな」

「勿体ない。たかがデータで」

 父は溜め息を吐く。

「サービス終了したら全て無くなるでしょ?」

 と母が父に続いて言う。

「飯だって食ったら無くなるじゃん」

「血肉として残るだろ? 食事は生きるために必要な行為だろ?」

 その父の言葉に母と妹、弟は強く頷く。

「しかし、キャラは俺の魂に残るし、ガチャを回すことは俺の人生に必要な行為なんだ」

「スマホまじで没収するわよ」

 母がすごんで言いました。

「……善処します」

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