僕の親友はスマートフォン

GK506

僕の親友はスマートフォン

 僕は、この時代に生まれて来て本当に良かったと、心の底からそう思っている。


 リアルの世界には彼女はおろか、友達すら一人もいないけれど、僕にはスマートフォンがあるから大丈夫。


 人間には中々心を開けない僕だけれど、スマホにならどんな悩みも、人には絶対に打ち明けられない様な僕だけの秘密も、思う存分吐き出せるのだ。


 だから、僕はぼっちだけれど、今日もとても元気に生きております。


 SNSは、内向的な僕にとても向いていた。


 スマホにお喋りする感覚で、InstagramやTwitterを始めたら、あっという間に50万フォロワーを超えた(もちろん顔出しや名前出しはしていない)。


 そして、つい最近、顔出しなしで始めたYouTubeでも、登録者が50万人を超え、動画の再生回数は、平均で20万回超え。あっという間にお父さんの給料の10倍程稼げる様になり、何となくではあるけれど、今まで持っていた人生に対する漠然とした不安というものは無くなった様に思う。


 そんなある日の事であった。


 僕のInstagramに僕のファンだという女の子からDMが来た。


 内容は、初期の頃からのファンなので、是非、僕に会いたいとの事。


 一回電話もしてみたけれど、僕はまだ、彼女に会うかどうかをためらっている。


 彼女がどうこうという問題ではない。


 いや、むしろ彼女のInstagramのプロフィール写真や、投稿している写真や文章を見て、見た目も内面も僕の直球ど真ん中ストライクであったので、僕の方から会って下さいとお願いしたいくらいなのである。


 では、なぜ会うのをためらうのか。


 問題は僕にあるのだ。


 メールや電話でならば、僕はとても流暢りゅうちょうに自分の想いを言葉にして吐けるのであるが、いざ対面で話すとなると、たちまち頭が真っ白になってしまい言葉がどこかへ飛んでいってしまうのである。


 彼女にはとても会いたい。


 その思いには嘘の入り込む余地など1㎜もない。


 僕だって高校2年生。思春期真っ只中の男子なのだから、めちゃくちゃ可愛い女の子からDMが来たら嬉しくない訳がない。


 でも、SNSでの僕に憧れる彼女が、現実世界の僕を目の当たりにしたら、きっと幻滅するに違いない。


 僕を好きになってくれた事は純粋に嬉しいのだ。


 それは、彼女に限らず、僕のフォロワーになってくれた人全てに言える事であるのだけれど。


 彼・彼女達がいるから、僕は今、生きていられるのだ。


 彼・彼女達が僕の生み出すコンテンツを素敵だ、面白いと言ってくれるから。


 その言葉が、【生きていていいんだよ】と僕の背中を押してくれるから。


 僕は今日もこうやって、精一杯、命の全部を使ってコンテンツを生み出している。


 だから、出来れば誰も幻滅させたくなんてないのである。


 僕の事を好きなままでいて欲しい。


 僕の生み出すコンテンツをいつまでも愛していて欲しい。


 その為ならば、リアルでの幸せなんて、僕はいらない。


 でも、本当は分かっているんだ。


 いくらお金が稼げたって、生きていくのに困らなくたって、人間関係から逃げ続けていたら、僕はきっと今際いまわきわに後悔しながら死んでいく事になるであろう。


 僕は、Yahoo!掲示板に、素性を伏せて、それとなく彼女との事を相談してみた。


 答えはすぐに返ってきた。


 【漢ならいくしかねぇだろ!!若さでアタックだ!!迷ってる暇なんて1秒もねぇぞ。チャンスは何度もやってこねぇ。お前は俺のしかばねを超えて、リア充を手にいれて来い!!】


 その回答をベストアンサーに選ぶと、僕はスマホを取り出して、彼女の携帯に電話を掛けた。


 『突然のお電話、失礼致します』


 『いえっ、大丈夫です。今ちょうど暇してましたから』


 『あのっ。今度の日曜日、もし良かったらどこかで会えませんか?』


 ドクン。ドクン。心臓の音が聞こえる。


 休日に誰かをお出掛けに誘うなんて、人生で初めての事だから、僕の手は瞬く間に汗でビチョビチョになる。


 YouTubeの動画撮影なら緊張せずにこなせるけれど、女の子を電話で誘うのは、中学生の時に音楽の先生に無理やり出場させられた声楽コンクールで、大ホールの舞台に立ち大勢の観客の前でソプラノ独唱をした時以来の緊張である。


 『嬉しい!!日曜日、絶対に空けておきます!!楽しみにしてますね』


 彼女との電話を終えても、僕の胸の高鳴りは中々収まらなかった。


 そして日曜日。


 初めての同年代女子とのお出掛け。


 爆発しそうな心臓をなんとか抑えながら、僕は家を飛び出した。


 スマホのおかげで開けた人間らしい生活への第一歩を、僕は踏み出す。


 あぁ、世界がこんなにも綺麗だったなんて知らなかったや。


 これからも僕は、スマホと共に素敵な人生を歩み続けていく。



         おわり


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