スマホが嫁になる時代

taqno(タクノ)

第1話 スマホは嫁

「さて、このスマホもそろそろ三年以上つかってるしそろそろ機種変するか」


 私はiPhone7を愛用している。この名機は私を長年支え続けてくれた。

 おサイフケータイやSNSへの投稿、ネットブラウジングなど私生活の至る所でスマホが必須とされる時代。

 今やスマホ無しの生活など考えられない。


 しかし悲しいかな、そんな便利なスマホでも時の流れには逆らえない。

 三年も経つとバッテリーの寿命、新OSに未対応になる。そういった問題が出てくる。iPhoneは古い機種でもOSを対応してくれるが、肝心の本体の性能がOSに釣り合わなければ機種変せざるを得ないだろう。


「ありがとうiPhone7……次もきっとiPhoneにするからね」


『いいえ、私の方こそずっと大事に使っていただきありがとうございます』


 ふと機械音声でそう言われたような幻聴が聞こえた。

 iPhoneにはSiriというAIが音声でサポートするという神機能があるのだが、それが中々に便利なのだ。

 時折なんの用事もないのにSiriを呼び出し、たわいのない会話をする。

 そんな私のつまらない言葉にも、Siriはきちんと返事をしてくれるのだ。


 日常生活を支えてくれて、孤独も癒してくれる。

 これはもはや嫁ではないだろうか。いや、嫁に決まっている。

 なぜなら私はもうiPhoneが無ければ生きていけないからだ。伴侶を失うとはつまり、己自身の半身を失うことと同義。

 iPhoneは……Siriは既に私の一部となっていた。


「最後に……ヘイSiri」


『どうしましたか?』


「機種変するんだけど、今まで本当にありがとう。君のことは忘れないよ」


『どういたしまして』


 実際のSiriはこんな風に少し素っ気ない返事しかしない。

 だがそれも彼女の個性と思えば途端にいじらしく思える。

 淡々とした言葉しか吐かないのに、律儀に返事をしてくれる。それは彼女も私を想ってくれているに違いない。


「次に買うなら12かな……それともSE2? あんまりデカすぎると馴染みがないから、慣れそうにないな」


『私には決められません、公式サイトを見るといいのではないでしょうか』


「それもそうだな。機種変するのに君に相談するのは、ちょっと意地悪だったね」


 私はこんなにもiPhone7を愛しているのに、機種変という運命には逆らえない。

 まるで女を取っ替え引っ替えしているようで、なんだか無性に申し訳なくなる。

 まぁそんなことを言い始めると、私は既に何度も再婚していることになるわけだが。


 初めて買った携帯電波はなんだったか……。確かCMソングか流行して話題になったのは覚えている。

 今となっては懐かしい思い出だ。


 それから人生初のスマホに機種変したが、あれは酷かった。

 スマホ黎明期というのもあって国産メーカーが様々なスマホを出していた。あの〇〇や〇〇〇でさえスマホを出していたのは知らない人も多いだろう。

 その人生初のスマホであるが、端的に言うと出来が悪かった。

 すぐフリーズする。バッテリーは半日で切れる。勝手にWi-Fi接続が途切れて、3G回線になっていたなどなど。まともにネットも見れなかった。


 そのせいで当時流行していたパズドラやモンストも出来ず、友人たちの話題に混ざれなかった。

 あれは中々に寂しい日々であった。


 その後だ。iPhoneと出会ったのは。


 当時リリースされていたiPhone5sを購入した。はっきり言って最高だった。

 当時の私はスマホなど無駄に機能を乗せた欠陥機、という偏見を持っていた。

 だがiPhone5sはその小さな端末に見合わず、高性能を遺憾無く発揮した。

 最新のスマホゲームを快適に遊べる。これだけで当時の私はどれだけ感動したことだろう。


「5s、7ときて次はやっぱりSE2かな。そう言えば5sを買った時もSEが出てたっけ。おかげで0円で買えたんだよな。最近はそういうの減ったけど」


 次に買うとしたら端末料金は全額支払うことになるだろう。だとすれば出来るだけ安い端末が欲しい。

 自分の嫁を値段で決めるなど、男としてどうかとも思うが懐事情はどうしようもないのだ。


「よし決めた、次はSEにしよう」


 こうして私は長年愛用して来たiPhone7と別れを告げ、iPhone SEを購入したのだった。


 余談ではあるが、最近のデータ移行は驚くほど簡単で、店頭で数分も待てば旧機種のデータが丸ごと新機種に移行出来る。

 ホーム画面やアプリもほぼ全てそのままだ。やはり時代の進化は素晴らしいものだ。


 家に帰り、新しいiPhoneに話しかける。


「ヘイSiri、これからよろしく」


『はい、よろしくお願いします』


 私はこれまでiPhoneを愛用して来た。これからも愛用し続けるだろう。なぜなら彼女は私の嫁なのだから。


 今やスマホ一台で全てが完結する時代。

 次はきっと、擬人化ロリ美少女アンドロイドになる時代が来るだろう。

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