第2話

 断っておくが僕は変態ではない。


 僕を変態を見る目で見てくる同級生もいるが、僕は変態ではない。


 どうしても、チビでデブでメガネを掛けている僕は変態っぽく見えがちなようだ。ただの先入観だ。偏見だ。


 橘さんのマスクはまだ机の上にある。どうやって手に入れようか……。


 僕の自室には等身大の千刀一織フィギュアがある。身長154センチ、体重35キロの一織ちゃんが僕のベッドの横でチャーミングに微笑んでいる。


 ポーズは変えられないが、細い左足をまっすぐ伸ばして座り、右足は膝を曲げている。右手は僕を求めるようにベッドの方へと手の平を上に向けて伸ばしていて、左手は一織ちゃんの頬を人差し指で突いている。


 主に食堂でゲットした橘さんが捨てた紙パックのジュースや使い捨てられたお箸などは、エコの観点から拾って持ち帰り、ストローや箸を舐めてから一織フィギュアの手に飾る。


 ゴミ箱から拾った物であるから、もちろん舐める前には綺麗に洗浄している。女子のリコーダーを舐める小学生とは衛生観念が違う。


 1年生の時は同じクラスだったから奇跡的に手に入れた橘さんが落としたことに気付いていなかったハンドタオルは、一織フィギュアの制服のポケットに入れてある。疲れた時、この殺伐とした世の中から逃げ出したくなった時、毎晩寝る前などに匂いを嗅ぐと不思議と安心感と高揚感に包まれる。


 2年2組の同じクラスの宇崎うざきさんが筆箱を忘れた時に橘さんから借りたにも関わらず不用心にも机に置きっ放しにしていたシャーペンは、一織ちゃん専用に用意した筆箱の中に入れてある。


 僕は変態ではない。


 単に、ゲームと言う異世界のキャラクターであるはずの一織フィギュアに、この現実世界に生きとし生けるものである橘さんの私物を融合することにより、次元を超えたメガネギャルを僕の部屋に召喚したいだけだ。


 僕は言わば、橘 一織を創り出そうとしている!


 ああ、あのマスクが欲しい。

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