ホラーとミステリーは近い親戚?

カユウ

第1話

「なぁ、ホラーとミステリーの違いって何だと思う?」


 喫茶店の空いている席に座ったとき、そんな問いかけが耳に飛び込んできた。ちらっと横目で見ると、声の主は20代前半くらいの男性二人組のどちらかだ。なんでそんな話になったのか興味はあるが、耳をダンボにして他人の話を聞く暇があるわけではない。僕はカバンからノートPCを取り出し、イヤホンを耳につけて作業に取り掛かった。

 作業を続けて1時間くらいたっただろうか。キリが良いところでデータを保存し、ぐっと伸びをする。背中や首がバキバキだ。首のストレッチがてら店内を見回すと、先ほどの男性二人組はすでにいなかった。


「ホラーとミステリーの違い、ね」


 先ほど耳に飛び込んできた言葉を思い返す。ホラーとミステリーはジャンルとして違うものだから、別の名前になっているのだ。違う理由はそれだろう。


「いや、ホラーとミステリーに共通する何かがある。だから、違いの話になったのか?それならわからないでもないな。だけど、ホラーとミステリーの共通点ってなんだ?」


 ホラーっていうと、オカルトやお化け、妖怪なんかが出てきて、人を恐怖させるような作品ジャンルだよな。人智や科学で説明できないことが中心にあることが多い気がする。登場人物たちは何が起こっているかわからないし、どうやって解決したらいいのか、それから逃れる方法はあるのかっていうこともわからないことが多いと思う。

 そう考えるとミステリーは、推理ものだろうな。探偵が出てきて、謎めいた事件を解決するような作品ジャンル。人智や科学で説明できることで成り立ってるはず。でも、探偵が事件を解決するまでは、登場人物たちは次は自分の番じゃないかって不安だし、被害者になりたくないっていう気持ちがあるよね。


「あ、そっか。どちらも『わからないことへの恐怖』があるんだ」


 ホラーは、何が起こっているのかの原因がわからない。最後までいっても、明確な解決方法が出てこない。物語によっては、お祓いとかで解決することもあるけど。最初から最後まで、原因も解決方法もわからないっていう恐怖があるんだ。

 ミステリーは、犯人っていう原因はわかっているし、最後までいけば、明確な解決方法が出てくる。だけど、物語の途中では、どうやったら解決されるのかがわからない。次は自分かもしれないっていうこの先どうなるかわからない恐怖がある。


「だから、ホラーとミステリーの違いの話になったのか。どっちのジャンルも、根幹をなすのは『わからないことへの恐怖』。そう定義すると、解決されるかわからないのが、ホラー。解決されるのがわかっているのが、ミステリー。そういう考えもできるな」


 カップに残っていたコーヒーを飲み干して、独り言ちる。


「うん、いい気分転換になった。もうちょっと作業してから帰るかな」


 自分の中で納得がいったので、気持ちよく作業に取り掛かることができる。そのためにも、次のコーヒーを注文するためレジに向かうことにしよう。

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