短編51話  数あるラブレ……いやこれはちょっと違うよな……?

帝王Tsuyamasama

短編51話  数あるラブレ……いやこれはちょっと違うよな……?

      好き

             』



      好きっ

         遥斗くん』



(……ぅえっと……)

 元雪もとゆき 遥斗はるとが住むアパートのポストに、内容がたった二文字だけの手紙が封筒入りで入っていた。その三日後には俺の名前が追加されたものが入っていた。

 二枚とも便箋びんせんは白ベースで、色取り取りの小さな花が中を囲うような形で外側にちょこちょこ描かれているかわいらしいもので、文字は鉛筆? かで書かれてあった。まぁ文字数少なすぎて余白すんごいことになってるけど。

 字はきれいさとかわいさが混じったようないかにも女子って感じ。丸さがちょこっとありながらも字の大きさや各パーツとかが整っている。特に『遥斗くん』の文字を見たらそう感じた。

 手紙が入れられていた封筒はただただ白いだけだった。柄もなければ差出人の名前も宛名も書かれていない。切手すらもない。

 とりあえず、分類上はラブレターに属する物体なのだろうと推測しておくが……。


 俺は高校一年生になったことを機にひとり暮らしをしている。あぁ別に家族と仲が悪いとかそんなことないからなっ。

 住所も書いてなければ切手もないんだから、直接入れたことは間違いないんだろうけど……。

 今は十二月に入ったばかり。二学期の終業式まであと三週間くらいだ。今年最大(しかもぶっちぎり)の謎が舞い込んできた。

(俺のこと、そして俺がこのアパートに住んでいることを知ってるんだから、そういうやつを片っ端から当たってみるか……?)



 土曜日と日曜日を挟んでやってきた月曜日。

 この土日の間、アパート入口にある銀色ポストの周りや中をちらちら確認してみたが、特にこれといった怪しい動きはなかった。手紙もない。

 今日も朝ごはん(グラノーラに牛乳入れただけだけど)を食べて、学校指定の紺色ブレザー&スラックス+青色毛糸の手袋を装備し出撃。その時もポストを見てみたが、何も入っていなかった。

 俺は登校しながらまた考えていた。俺の家にやってきたことがある女子は五人いる。そのうちクラスメイトは四人。


 まず俺と同じ吹奏楽部所属の辰ヶ峰たつがみね 伊那いな

 まぁ正確には家に来たっていうか、朝練のときアパート出ていきなり出くわして、俺の家ここなんだーほらポストあるっしょって見せただけで家には入っていないが。

 伊那だけクラスが別だ。


 次にハンドボール部所属の白浜しらはま 朔夜さくやと茶道部所属の陸丘りくおか あんず

 二人は班で一緒に作業したりなんやらかんやらしていたらしゃべっていくようになった仲だ。二人は幼なじみらしい。

 俺が一人で帰っているときに会って、それが家の近くだったから俺の家ここなんだー(中略)ちょっと中を見てみたいってんで上がってもらった。


 んで、バスケットボール部所属の相路地あいろじ 未香みか

 文房具買いに出かけたら自転車のタイヤをパンクさせた未香がいて、俺は修理キットや空気入れを家に置いていたから直してやった。その時上がってもらってちょっとしゃべった。

 もともと席が近かったこともあって入学してからすでにそこそこしゃべっている。


 そして剣道部所属の根川ねがわ 凉子りょうこ

 日直が一緒になった日、部活終わってげた箱でまたばったり。その流れで一緒に帰ることになって、登下校ルートがほぼ一緒・かつ凉子の帰り道の途中に俺の家があることがわかり、やはりちょこっと紹介して中でちょこっとしゃべった。

 親がちょっと厳しめらしく、一人暮らしに興味があるようだった。


 ……と、この五人くらいしか思い当たらないんだよなぁ……もし近所の人とかだったら完全にわかんねぇっ。とにかくこの五人の書く文字を調べてみよう。


 登校中にブレザー+スラックスorスカートの基本装備者に加え、十二月ってことでマフラー・手袋装備者、上着装備者など様々な生徒を見かけたが、その五人には会わなかった。

 俺のクラスは一年二組だ。教室の横開きドアを開けると、まず見つけたのはバスケ部の未香。

 さすがバスケ部なのか身長が高い。男子たる俺よりも高いウッウッ。髪は肩より長いが体育やバスケのときはポニーテールに変身する。女子の中ではかっこいい系になるかな。

「未香、ちょっとノートを見せてくれないか?」

「いいよ。写し忘れたとこでもあったのかい?」

「あいや、単にどんなノートかな~と思っただけ」

「そっか。はい。じゃ遥斗のも見せてくれよ」

「あ、おう」

 俺は黒いリュック型のカバンから国語のノートを取り出して、未香と交換した。

(うーん……)

 表の名前や『国語・現代文』の文字とかをはじめとして、中のページをぱらぱらめくりながら未香の字を確認してみた。

 割としっかりした字で、手紙の文字とは違うかな。あれはもうちょっと丸い感じだからなぁ。


 お、続いてハンド部の朔夜と茶道部の杏はやはり仲良しこよしなのか、朝から二人一緒におしゃべりしているようだった。

 ので早速俺は近づいた。

 朔夜は俺と身長が同じくらいだ。ほんのちょこっと朔夜の方が低いくらい。おとなしい系ではあるがハンドボール部所属でしっかりしている印象だ。髪は肩にぎりかからないくらいの長さ。

 杏は身長が低い。こっちも一応はおとなしい系になるだろうけど、ちょっと不思議な感じの要素もあるというか。髪は割と短め。家でしゃべっているときの正座でピシッとした姿はさすが茶道部だと思った。

「あのさ、二人のノート、見せてくれないか?」

「これ? うん、いいよ」

「じゃあ遥斗のも見せて。見せ合いしよう」

「おう」

 ということで三冊の国語ノートが朔夜の机の上に広げられた。

 朔夜の字はザ・女子って感じ。丸くてちっちゃい。手紙の字とは遠いな。あれはこんなにちっちゃくなかった。

 杏の字も丸め。朔夜ほど丸すぎず小さすぎずだが、やはり封筒の字のようなしっかりさ具合は見られない。てか絵多いな!


 昼休みの時間、図書閲覧室をのぞくと剣道部の凉子を見つけた。図鑑見てんのか?

 凉子は俺と身長が同じくらい。ほんとに同じ。家が厳しめだからかしっかり者のイメージで、そのイメージのまましゃべってる姿もピシッとしているというか。あれ、俺がピシッとしてなさすぎなのか?

 髪は女子にしては短い方だが、いつも前髪をピンで留めている。

 それでは近づきまして……おっと静かーにしゃべらないと。

「あ、あのさ凉子、いきなりだけど、生徒手帳見せてほしい、なー、なんて」

 昼休みだからノートを持ち歩いているなんてことはなく。

「いいけど……どうしたの?」

「い、いや、しっかり者の凉子なら生徒手帳もさぞかっこよさそうーなんて、ははーっ」

「どういうことかしら……はい」

 ちょっと笑いながらブレザーの内ポケットから生徒手帳を出してくれた。

「中も見ていいか?」

「いいわよ」

 早速表の名前やクラスの文字、中もぱらぱら~っとめくって確認してみた。

 やはりイメージ通りのしっかりした字だ。ちょっと丸みもあって他の三人よりかは手紙の字に最も似ている感じだ。ただ生徒手帳の書く欄って小さいからなんとも言えないような。

(でもさ。しゃべってる限りではいつもの凉子だよなぁ……)

 普通、ラブレター出した相手が横に来たら、もうちょっと表情に出ないか……?

(いや俺そんなの出したことねぇけどさ!)


 部活の時間になった。伊那とは同じ吹奏楽部だから、楽譜を見せてもらうことにした……がっ。

 結論から言おう。全然字が違った。

 表紙の名前とかもめっちゃデコデコレーションって描かれていて、まるで参考にならなかった。もはや書き方からして別人だと思った。


(うーん、みんな違ったのかなんなのか…………)

 結局部活終わるまでに心当たりのある五人の字を見てみたが、凉子の字が最も近いかなーでも表情落ち着いてたなーくらいまでの手がかりしかなかった。

(やっぱ三通目を待つしかない、かー………………あ)

 げた箱の扉を閉めたスカート装備の人物がいた。そのげた箱はこの八ヶ月間俺が何度も開け閉めした場所であり……辺りを警戒しているその素振りで俺が視界に入ったんだろう。

「ひゃぅっ!! はは遥斗っ!?」

 めっちゃ声裏返りつつ超びっくりしつつ腕と腰が大変な角度になっているこいつはっ

「未香、俺のげた箱でなにしてんだ?」

 バスケ部所属の未香だった。制服ってことは着替え終わって後は帰るだけっぽい?

「はっ、遥斗こそなんでそんなとこから出てくるんだっ!」

「部活終わって帰るからだよっ!」

 意外とドッキリとかに弱いタイプ?

「てか俺の質問に答えろっ」

 と言いながら接近しげた箱の扉を開けると

(…………ふぅ……)

 三通目、発・見。

 すぐさまそれを未香に見せつける。

「ひっ!」

 なんだそのひってっ。ちょっとおもろっ。

「は、はは遥斗意外とモテるんだねぇ! ラブレターとかもらっちゃってさぁ!」

(………………これが相路地未香、か)


 俺は自滅していく未香を華麗に追い込み、白状させることに成功し、横に並んで一緒に歩いて校門を抜けた。

 未香の方が身長高いはずなのに、妙にそわそわしているためなんかちょっとちっちゃく見える?

「で。俺のどんなとこが好きになったんだ?」

「すっ…………」

 なんかたこさんの口で顔が止まっている。

「……自転車直してくれたり、ノートまめに取ってたり、部屋きれいだったり、お茶とか手際よかったり……音楽もできるみたいだし、しゃべってて楽しいし……なんか、気づいたら、いつの間にか…………」

 おててをもじもじうにゅうにゅ。未香はさわやかかっちょいい系だと思っていたのに、実際はこんなにもうにゅうにゅ系だったとはっ。

「直接言うのは恥ずかしいから、き、気持ちだけでも……って……」

 たまらなくかわいいじゃねぇか未香!

「未香のおかげで未香を好きになって両想いになったんなら、もちろん付き合ってもいいよな!?」

「つぅっ………………!」

 お口わなわなしてる。

「あれ、俺振られちゃうのか?」

「そんなことできるかっ!! ぁああでも急すぎるだろ!!」

「え? これを俺に出した時点で気持ちの準備」

 内ポケットからさっきの封筒

「出すなあーーー!!」

 ぷくくっ。とりあえず未香、冬休み俺の実家に強制連行な。拒否権なしっ!

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短編51話  数あるラブレ……いやこれはちょっと違うよな……? 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho

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