ホラーなのかミステリーなのか コロナ禍って。。

turtle

第1話

「ああ、もうこんな日常嫌だーーー!」

 けだるい昼休み高校の屋上から吉田は叫んだ。勿論マスクを外して。

これが奴の息抜きなのだ。サッカー部で、雨天に泥だらけの試合になるほど燃えて、部活仲間とつるんで遊ぶのが好きな分かりやすい体育会だ。ランニングの時に意味もなく「うおおおー!」とか雄叫びを挙げるタイプだ。

 たまたま近所で幼馴染の新聞部の僕は、眼鏡を直しなが観察する。これで今日の午後は持ちそうだな。まてよ、あと2、3回吠えればすっきりして授業を寝て過ごせるかもしれないな。勿論僕はマスクはつけたままだ。奴が無症状であることは大いにありうる。

 2年前に、誰がこの日常を想像できたろう。マスク、消毒薬、ソーシャルディスタンス......。花粉症、潔癖症、対人恐怖症じゃあるまいし。この状況は、正直病弱で花粉症な僕にはありがたい。電車も混んでいるとはいえ時間差になった。

 それにしても、そもそもの始まりは何だったのか。某国某都市の市場、いや研究所の生物兵器開発中に漏れた、等々噂は尽きない。僕などは本や様々なサイトを調べたり、と人命にかかわることで不謹慎ながら興味深く調査している。はては英語サイトにまで手を出したので英語力もアップした。

 今日もそこで得た情報をそんなことを話そうとしたら吉田は

「田中、お前、もういいよ。おれが知りたいのはどうすればこの状況が終わるのかだけだ」。

肩をおとす吉田。現状で一般市民が感じている総論そのものだろう。奴はまともだ。

「現状では、ワクチンを接種するのが最短の道だろうね。しかし」

「しかし?」吉田はわなわなとして近づく。僕は後ずさりしてソーシャルディスタンスを守る。

「変異株が出現している以上はマスク装着等の社会状況は変わらないだろうね。」

吉田は大きくため息をつく。

「俺と違って、入学金授業料無料の得得コースに進んだお前でもそう言うなら、無理なんだな」

僕から見れば体育会推薦の吉田の方がすごいのだが、人の価値は様々だ。

 チャイムが鳴り、教室へと向かう。もうすぐ桜の季節だ。例年であれば町内会の祭りに駆り出されるところだが、今年は当然の如く無い。吉田はニンテンドースイッチのボクササイズを遣りすぎたのか、目の下にクマを作っている。

 帰宅し、僕は僕の世界を作る。前だったらたとえ優秀でも体育会のノリについていけない僕は町内会では隅っこで座っているだけだった。小学生からmixiに入っていた僕にはSNSの世界は簡単だ。今僕は高校生活がてらアバター製作のコンサルをしている。

「好青年キャラのリアルが分かっていいですよ。屋上で叫ぶ、私達には思いつきません」

依頼主から感嘆の声が上がる。吉田もこっちの世界にくればいいのにな。走る、格闘する、かわいいアバター(でも中身はわからない)とやり取りする......。いやいや、ボクササイズまではともかく、奴には恋愛は生身でないとまだ無理かも。

 世界がコロナ禍に包まれて、僕みたいな非モテがもてはやされるなんてな。いやいや、「シラノ・ド・ベルジュラック」だって、醜い容姿でロクサーヌを愛した。これからは僕の時代だ。

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