第5話 僕と嵐〜対策編〜
畑の植え直しから一週間。師匠の言っていた通り灰を撒いたから疫病もなく、収穫前の野菜も新しく蒔いた種も順調に育っていた。
そして今日も畑の手入れに行ったらまた師匠がいた。
流石に驚かないけど、何だか師匠の様子がおかしい。いつになく真面目な顔で空を見上げている。
「フィル、起きたか。今からちょっと村まで行ってくる、夜までには帰って来るから留守番頼むな」
「あ、はい分かりました。気をつけて行ってくださいね」
何か交換でもしに行くのかな? その割には真剣な様子だったし……帰ってきたら聞いてみよう。
******
師匠は言った通り夕方に帰ってきた。何だかんだ自分が言った事はきちんと守るんだよな、この人。
それよりも朝と同じ、というか朝より真面目さが増えているのが気になる。
「師匠、お帰りなさい。何かあったんですか?」
「ん? ああ、近々嵐が来るから村の様子見に行ってたんだよ。で、村の近くに川があってあのままだと多分溢れるから明日になったらその対策しに行ってくる。しばらく帰らないからその間の留守番も頼むな」
「え……?」
昨日から、というよりここ最近は気持ち良い晴れが続いていて天気が崩れるどころか雨すら降っていない。
でも、師匠の言うことは今まで外れた事がない。
だから嵐は必ず来る。
「分かりました。でも師匠だけじゃ大変なので僕も手伝わせてください。勿論ここの家事はきちんとします」
「……まあ、いいか。でも作業は大変だから無理はすんなよ」
「はい!」
******
「嵐が来る? こんなにいい天気なのに何を言っているんだ、それにここの川はもう何百年も溢れる事なく平和が続いている。勿論その間に嵐は何度もあったがそれでも溢れた事はない。村人達に無意味な不安を煽るような事は言わないでくれないか」
次の日に師匠と村へ行ったはいいけど嵐が来るなんて誰も信じてくれなくて、しまいには村長に注意されてしまった。
師匠の事を知らなければ仕方ない事とはいえちょっと、大分悲しい。
確かにいきなりよそ者が現れて川が溢れるとか言われたら戸惑うかもしれないけど……師匠、嘘をついたり騙したりするような人じゃないのに。
「師匠、どうしましょうか」
「まあ元々俺だけでやるつもりだったんだしいいんじゃね。というわけで、掘るぞ」
「え?」
何か師匠の目が輝いている……つい最近この目を見た気がする。
「えっと、川が溢れるなら村に水が流れないように土を盛ったり石で堤防を作った方がいい気がします」
「それじゃ時間も資材も何もかも足りないから却下。だから川の近くに穴を掘って、そこに溢れた水が流れ込むようにする。そうすりゃ今回だけなら耐えられるだろ、幸い川の反対側には別の村もないしな、思う存分掘れる」
師匠は大きなシャベルを持っててもうやる気満々。
穴を掘るなんて聞いていない。
でも手伝うって言ったから僕だって!
******
「お、もうこんな時間? フィル、お前は先に帰ってな。俺はもうちょい掘っとく、もしかしたら帰らないかもしんないしご飯は用意しなくていい」
「は、はい……分かり、ました……」
穴を掘るって甘く見すぎていた……。掘った土は結構重いしそれを運んで固めて……手も足も痛いし、何より割と中腰になるから腰が痛い。
師匠の言葉に甘えて帰らせてもらおう……にしても流石師匠と言うべきか、僕と違って疲れた様子もないし今もせっせと穴を掘って土を運んでいる。
「師匠……師匠もちゃんと休んでくださいね」
「あいよー」
あ、この返事の仕方は絶対休まない。まあ、楽しそうだしいっかな。
そして言っていた通り、師匠はその日帰って来なかった。
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