第4話 僕と畑

 師匠の元へ来てすぐの頃、僕は塔の裏に小さな畑を作ってもらった。


 たった数日で師匠の偏食を知ったから、少しでも野菜を食べる気になるかなと思ったけど全くの無駄だった。


 それでも畑作業をするのは楽しいからそのまま続けている。

 結構体力を使うし力も必要だから身体を鍛える修行になっているのにも丁度いい。


 そして今日も朝の水やりと手入れの為に畑に向かったら師匠がいた。


 …………。


「えっ!? 師匠!?」

「よお、おはようさん。今日はいい天気だな、気温も暑過ぎないしこんな日は何もせず外で日光浴しながら寝るのにピッタリだよな」


 普段どれだけ起こしても起きない師匠が、起きてもほとんど動かない師匠が僕より早く起きてしかも外に出てる!

 もしかしてただ外で寝たいから起きてきたのかなと思っていたら、畑の作物が全部なくなっていて師匠の足元に置かれていた。


「師匠、もしかして畑の作物取っちゃったんですか!?」


 確かにもうすぐ収穫出来そうなのはあったけどまだ早いし、しかもまだ若いのまで取られてる!


「あ、あっちに置いてんの近づけないようにな。病気が移る」

「え?」


 よく見れば師匠の足元にあるのは根っこまで綺麗に抜かれて丁寧布に包まれていて、少し離れた所に置かれているのは大きな袋に雑にまとめて入れられている。


「疫病が発生してたんだよ。とりあえず綺麗なのは隔離して、ダメなのは燃やすぞ」

「そんな……薬とかはないんですか?」

「この疫病にはない。発生したものはすぐに燃やして他に移らないようにするのが最善なんだよ、熱に弱いから一度燃やせば疫病はもう発生しないしな」

「もうすぐで収穫出来そうだったのに……」


 僕のじゃがいもが……それに師匠でも食べられそうな野菜やハーブも植えていたのに……。


「そんな落ち込むなって。これを燃やした後の灰を撒けば疫病はもう起きないし、肥料にもなってより良い作物が実るから」


 ポンポンと頭を撫でて師匠が慰めてくれた。


 ……うん、確かにいつまでも落ち込んでいられない。

 師匠が隔離してくれて無事だった野菜を早く埋め直したいし、早く新しい種を蒔かないと冬が来て育たなくなってしまう。


「つーわけで、耕すぞ!」

「え?」


 師匠が何処からかクワを取り出したのはいいんだけど……何でこの人ウキウキしているんだろう。目もキラキラ輝かせているし。


「燃やした灰はちゃんと均等に撒かなきゃいけないし土に混ぜないといけないからな。せっかくだから最初の穴掘りからやるか」

「耕すのと穴掘りは違うような気がします」


 それでも師匠はお構いなしに畑をもの凄い勢いで耕していって、僕は作物を埋めなおしたり新たに種を蒔いたりして夕方には全部終わってしまった。


「そんなに大きくない畑とはいえ一日で終わるなんて……」


 目の前には生まれ変わった見事な畑。

 師匠は休まずずっと耕し続けていたのに疲れた様子はなくて、嬉しそうに畑を眺めている。


「師匠元気ですね……」

「俺穴掘り好きなんだよ。三日ぐらいなら休まず掘り続けられる」

「ええ……」


 穴掘りが好きなんて変わっているな……というか。


「そんなに動けるなら普段からもう少し動いてくださいよ……」

「それは無理。興味ない事はとことんやりたくないの、俺は。穴掘りと食事以外は寝ていたいから、猫みたいに扱ってくれていいぜ」

「またそんな事言って……」


 ちょっと見直したのに……やっぱり師匠は師匠だった。

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