Case4
今のところ順調に進んでいるゲーム。妻は真正面を向いたまま、大きく息を吸って、瞳を閉じた。
「後ろから抱きしめて!」
「イェーイ!」
静かになった聖堂に、誰かが走ってくる足音が聞こえた。妻はびっくりして、心臓をバクバクさせる。
(何で走る必要があるの?)
今までの比ではなく、あっという間に近づいてきて、ぶつかるかもしれないと思いっていると、
バン!
と、跳び箱の踏切でもするような、床を蹴る音がした。妻は驚きで思わず目を開けそうだったが、何とか踏ん張った。そして、背中に強い衝撃が走り、よろけて二、三歩前へよろよろと出て何とか止まった。
真っ暗な視界で触られている場所を感じる。胸の上あたりにある。しかしおかしなことに、腰回りにももうひとつ感触があったのだ。
颯茄は想像してみる。抱き枕みたいに抱きつかれているのではないかと。誰だ、こんなエキセントリックな抱きしめ方をする――そこで、ピンときた。
「焉貴さん!」
「そう、お前いいじゃん」
目を開けてみると、宝石のように異様に輝く黄緑色の瞳に吸い込まれそうだった。ピンクのタキシードを着こなす、ミラクル風雲児は、街角でナンパでもするように立っていた。
背後から張飛の声をやってくる。
「どうしてわかったすか?」
「飛びついてくるなんて、変わってるから、そういうことするのって、焉貴さんかなって思いました」
夫たちから拍手が起こった。祭司が二人の間で告げる。
「それでは、誓いの言葉を……」
焉貴は颯茄の肩に手を置いて、もうひとつの手でボブ髪をかき上げた。
「お前が精一杯生きられるように、いつでも見てるよ。お前すぐ制限かけるからさ、どんなことしたっていいじゃん? 怪我しないし、死なないんだから。お前が幸せでいることが、俺の幸せだから。誓う。愛してる」
いつもと違って、真剣な言葉に妻は柔らかく微笑んだ。
「ありがとうございます」
焉貴の器用と言わんばかりの手が、妻の頬に添えられると、彼はナルシスト的に微笑み、そっとキスをした。
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