第六話「土壇場の奇跡」
Side 揚羽 舞
「Drジャスティス――聞いた事がある名ね」
プリティアとの戦いに割って入るように現れた謎の人物――Drジャスティス。
揚羽 舞は噂程度だが知っていた。
『ほう。俺のことを知っているのか?』
「ええ。まあね」
脳裏にあの金髪御曹司を思い浮かべながら答えた。
『なら私のこともある程度は聞いているだろう――』
「ちょっと、突然出てきてなんなのアンタ!? アンタとはただの協力関係でしかないんだし邪魔しないでよね!!」
と、プリティアは怒るが――
『そのザマでよく言う』
「なによ――」
『だが創星石や妖精石のオリジナル、さらにイレギュラーの進化を遂げた妖精石に興味はある。協力してやろう』
「私あの生意気な青い女をいたぶれたらそれでいいわ」
この話の流れに舞は(どうするべきか)と冷たい汗を流した。
敵が一人増えた。
こちらは舞を入れて四人だが、一人はまだ気絶。
二人はまだ戦える状態ではない。
舞も猛とプリティアとの戦いでそろそろ限界が近い状態だ。
もっともDrジャスティスは皆が万全な状態でも勝つのは難しいが――
逃げるにしても誰かが犠牲にならなければならない状況だ。
大道寺 リュウガ司令が此方に向かっているらしいが、間に合うのだろうか?
「舞さんだけじゃない」
そんな舞の傍に猛がやってくる。
「猛――大丈夫なの?」
「少し休めました」
続いて春歌が傍にやってくる。
「選手交代です。次は私達が行きます。舞先輩は先生を――」
「・・・・・・分かったわ」
舞は春歌の意見を尊重して受け入れて後方に下がろうとした――
「――ッ!!」
「いきなり攻撃するなんて!!」
猛と春歌が咄嗟に攻撃を防ぐ。
Drジャスティスのローブから突き出た右腕から雷光が発射された。
『悪いが時間稼ぎに付き合うつもりはないんでな。手早く確保させてもらうぞ』
「ちょっと、なに勝手に仕切ってるのよ!?」
『キサマも無傷では済む状態ではなかろう』
プリティアの言う事など意も介さずにそう言ってDrジャスティスは猛と春歌の左右、空中、地上からの入れ替わり、立ち替わりの連携をその場から動かずに両手を動かすだけで凌いでいく。
遠距離戦には手からの雷撃。
接近戦は防ぎ、あるいは捌いてカウンターを入れる。
猛と春歌は消耗しているとは言え圧倒的な実力差だ。
『その程度か? 想像以上の弱さだ』
その言葉に猛と春歌の二人は何も言い返せなかった。
(仮に私も参加したところでどこまで通用するか・・・・・・)
戦いを見守る舞もどうするべきか悩む。
「強い――」
「軽く大道寺司令クラスの強さですね――」
ただただ猛と春歌はDrジャスティスの強さに戦慄する。
『舞、私のことは良いから戦いに参加してくれ――』
「気づいたんですか先生」
と、背後にいる嵐山先生が気がついたようだ。
『状況は見れば分かる。私のことに構わず――』
「・・・・・・分かりました」
そして舞に戦いに参加しようとしたが――
「おっと、まだ仕返しは済んでないんだからね♪」
「あなた――」
まずい状況だ。
先生を庇いながら戦うのは――
そのことを計算しているのか計算していないのかクスクスとプリティアは笑みを浮かべながら手をかざし、光の弾を形成して――
「私ふっかーつ!!」
「がふ!?」
プリティアの側頭部に蹴りが入る。
見事な不意打ちだった。
プリティアがまたしても砲弾のように吹き飛んでいく。
頭が消し飛んだか首の骨が折れたんじゃないのかと言う勢いだ。
あれは赤い髪のボブカットの少女。
SF系のミニスカの騎士のような背格好をした少女だ。
「凜――遅かったわね」
「良いタイミングに登場できたけど――ヤバイ奴がいるわね」
「ええ――」
姫路 凜部長だった。
舞に遅れる形での登場である。
凜はDrジャスティスに目をやる。
「霧の玩具屋の玩具か・・・・・・大分間引いたと思ったがまだ息がいいのが残っていたか」
猛と春歌を退け、Drジャスティスは凜に目をやる。
「こっからは四人で行くわよ」
「そうね」
そして舞と凜は並び立つ。
『未熟な上にスーツのの本来の力を発揮できぬ貴様達に負けると思うか?』
数的には不利だがまだまだDrジャスティスは余裕だった。
「やってみなくちゃ分かんないわよ」
と、凜は汗を流しながらも強気な姿勢で返す。
気持ちでは負けたくないのだろう。
「どいつもこいつも私のことを足蹴にして!! もういいわ!! この辺り一帯吹っ飛ばしてやるんだから!!」
その時だった。
プリティラが空中に飛び上がり、怒気とともに数十メートルサイズの紫色のエネルギーボールを形成する。
『退避してください!! その子の言っていることは事実です!!』
と、司令部のオペレーターから通信が入る。
『あの単純馬鹿め!! 私まで巻き込むつもりか!?』
と、Drジャスティスすらもこの凶行に驚きを隠せないでいた。
「何もかも全部きえちゃえええええええええええええええええ!!」
そしてプリティラはエネルギーボールを振り下ろす。
「させるかああああああああああああ!!」
天野 猛が咄嗟に入る。
「猛さん!!」
春歌も止めに入った。
「仕方ないわね!!」
舞も。
「後先考えられる状況じゃないわね!!」
凜も。
数十メートルのエネルギーボールの地面への着弾を防ぐために奮闘する。
だがどんどんエネルギーボールの圧力が強まっていき、四人とも地面へと埋まっていく。
「ははは!! そうよ!! 私は強いのよ!! 私をコケにした奴は全員死ねばいいのよ!!」
と高笑いをあげる。
Side 天野 猛
「限界だけどここで諦めたら――大勢の人が――皆死んじゃうんだ――だから諦めてたまるか!!」
天野 猛は必死だった。
「奇跡は起こせたんです!! 今回も起こしてやりましょう」
城咲 春歌も。
「強くなったわね春歌!! 私も頑張らないと」
揚羽 舞も。
「ここで頑張らなきゃヒーロー部の部長の肩書きが廃るわ――」
姫路 凜も。
「「「「諦めてたまるかああああああああああああああああああ!!」」」」
心を一つにしてエネルギーボールを押し戻そうとする。
「はははは!! そんな都合良く奇跡なんておきないわよ!! 物語は残酷に出来てるのよ!! どれだけ無慈悲になって他者を食い物にして頂点になれるか!! それが全てよ!!」
プリティアは力を緩めずただただ全てを無に還そうとする。
それだけを考えながら高笑いをあげる。
「先生!?」
『生徒が――皆を守るために命張ってるのにただ寝転がっているワケにはいかないだろう!!』
そんな事も構わず嵐山 蘭子もエネルギーボールを押し返すのに加わる。
(もう限界だと思っていた――なのに――)
なのにどうしてだろうか。
皆との気持ちが一つになっている感覚。
どんどん力が溢れてくる奇跡が起きていた。
『まさかこの土壇場で――そうだ、その力を私に見せて見ろ!!』
Drジャスティスは離れた空中で猛達に起きている現象を観測していた。
『信じられません――皆さんのエネルギーの数値がどんどん上昇して――』
オペレーターの女性が驚愕の様子を見せていた。
他のアーカディアのスタッフも同じ様子だった。
「ちょっとなによ!? ありえないわ!! こんなの――こんなのって――」
どんどん押し返されていく感覚。
慌てるプリティア。
押し潰す力を強めても逆にまた強くなっていく。
そして――
『「「「「はあああああああああああああああああああああああああ!!」」」」』
「あ――」
エネルギーボールは押し返され、プリティアに直撃し――天高く昇って――大爆発を起こした。
『丁度いいところで時間切れか・・・・・・また会おう』
そしてDrジャスティスはその場から文字通り消え去り――
「大丈夫か!?」
入れ替わりに衣服が多少ボロボロになった大道寺 リュウガがスタッフを引き連れて現れた。
猛は軽く陥没した地面にへたり込んで「どうにか・・・・・・」と返した。
皆も同じような感じだ。
「とにかく事態は収束しつつある――詳しい話は後にして手当をしなければ」
そうして猛達はアーカーディアの司令部に戻ることになった。
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