スマホが少女の姿した付喪神となって出てきました
仁志隆生
スマホが少女の姿した付喪神となって出てきました
在宅勤務中のある日の事。
「おい、そろそろリモート会議の時間なのじゃ」
俺にそう言ってきたのは着物姿の十歳位の少女。
名前は
「分かってるよ。てかPC覗くなよ」
「はいはい。そうじゃ、お昼は何がいいかの?」
「うーん、今日は天ぷらうどんが食べたいな」
「了解なのじゃ」
会議も終わって昼休み。
俺達はうどんを食べながら話していた。
えーと、杏は俺の妹でもなければ娘でもない。
こいつは俺が取っておいた古いスマホである。
それが何故かある日付喪神となって出てきた。
まあ最初にそう言われた時はつまみ出そうとしたが、不思議な力を見せられたり、俺しか知らない筈の秘密も知ってたから、とりあえず信じる事にした。
今はすっかり同居人。
杏は家事全般やってくれるので、大助かりである。
ところでなぜいわゆる「のじゃ姫」みたいな口調なのかと聞いたら、気づいたらこんな口調だったと言った。
よく分からんがスマホに前世があるなら、どっかの姫様だったのかな?
それと付喪神って百年経ってなくてもなるもんなのか?
「ご主人の思いがそれほど強かったのじゃ」
心を読んだのか、杏がそう言って来た。
「そうか?」
俺が首を傾げると
「そうなのじゃ。妾をずっと使い続け、ずっと持っていてくれたのじゃからな」
ああ。
高校の時にバイトして貯めた金で初めて買ったスマホだしな。
そっからずっと大事にしてたよ。
いろんな思い出を記録出来たのもあるからさ。
あとさ……
あれは社会人になって数ヶ月経った頃。
俺は会社に遅刻しそうになったので、慌てて走っていた。
そうだ、あの公園を斜めに抜ければ近道だと思い、低い柵を飛び越えようとしたら、足が引っかかってしまい、花壇に落っこちて角に胸をぶつけてしまった。
「イテテ……って、急がなきゃ!」
その後、なんとか間に合った。
席についてそういえば、と思い胸ポケットに入れてたスマホを見ると
「うわ」
画面にヒビが入っていた。
「はあ、ついてないな。修理代高いだろな」
「おい、それどうしたんだよ?」
部署の同期が声をかけて来た。
「ああ、あのさ」
「そうか。しかし胸にそれ入れておいてよかったな」
「え、何でだよ?」
「だってもしスマホがなかったら胸に直撃だったじゃんか。それであばら骨折れてたかもしれないぞ」
それを聞いた瞬間、ゾクっとした。
そうだ、たしかに。
いや折れた骨が肺に刺さってとかで、最悪……
俺、こいつのおかげで死なずに済んだんだ。
ありがと、早く直しに行くからな。
「元々大事にしてくれていたが、そこからもっと大事にしてくれているのう。もう妾はスマホとして使えんのにな」
ああ、そうだ。
もう杏は使えない。
今使ってるスマホは新しいものである。
けどさ
「馬鹿と言われるかもしれんが、長い間一緒にいた相棒で恩人であるお前を捨てられるかよ」
俺が少し目を逸らして言うと
「ふふ、妾はそんなご主人が大好きじゃ」
杏は笑みを浮かべてそう言った。
「ありがと。まあ欲を言えば、大人の姿になって欲しかったけどな」
「それはもう少し力を蓄えてからなのじゃ」
そう言って杏は立ち上がり、俺の横に来て
「今はこれで我慢してなのじゃ」
ほっぺにキスしてきた。
「やばい、目覚めそうになった」
何にって?
言ったら消されるかもしれんから、言わん。
「さ、さて、そろそろ休み時間が終わるぞ」
杏の頬は少し赤くなっていた。
「ああ。さてと、また頑張るか」
「頑張ってなのじゃ。妾は後片付けと掃除してくるからの」
「はいよ」
あいつはスマホで今は子供の姿だけど。
いつかちゃんと言うか。
ずっと一緒にいてくれって。
終
スマホが少女の姿した付喪神となって出てきました 仁志隆生 @ryuseienbu
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