春は夕暮れ

ざっと

春は夕暮れ

 花開くは今日か明日か。そう言わんばかりに膨らんだ芽を抱えた桜の枝が風に揺れる。

 「春はあけぼの」と、遥か昔からの有名人は書いていたが、私にとっては「春は夕暮れ」だと思う。晴れていれば尚言うことはない。

 時節は桜の咲く前が嬉しい。花はなくとも楽しい。ただ夕日が空の青さに朱を混ぜて、水彩のにじむように徐々に暮れてく様を描く空模様ははずせない。

 そこへ頬と髪を淡く撫でる風が、そろそろと吹いているのが一等気持ちがい。

 そして、その心地よさの最たるはこの匂いだ。春と、晴れ間の妙に乾き、妙に湿った空気、そして暮れ時の風の香り。夏でも秋でも、無論冬でもかもすことの出来ない絶妙な香り。

 これこそ春の妙。偉人の言葉尚以て形容するに、「いとをかし」と云うところだ。

 令和の御世みよを以て偉人にていそう。

―――春は夕暮れ。ようよあけに染まる西空いりそら。淡く青にて。かおり立ちたる風の、やわく吹き抜けたる…―――

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春は夕暮れ ざっと @zatto_8c

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