第4話 突然の宣告



視点{アリス}




今日の午後は教会の調理場でお菓子作りをする予定

教会の人に許可をもらってクッキーを焼くんだ、お菓子って面白い!


塩や砂糖の量を変えるだけで味や食感が変わって違うお菓子になっちゃうんだもん!

クッキーを初めて作ったとき私はお菓子作りにハマっちゃった


色々なお菓子を作ってみたいけど、

教会にはあまりお金がないからクッキーしか作れなかったけど十分楽しかった

カリムちゃんに今日も持って行ってあげよう


カリムちゃんとは6才の時に初めてお話ししてから

毎晩少しだけど教室で話すようになった


もっと色んな話をしたいけど、カリムちゃんはあまり話すことが好きじゃないみたい・・・・教会に来る前の話とかしたいんだけどなぁ

カリムちゃんは私と同じくらい魔力が少ないけれど、凄く頭のいい子だと思った


だって教会で行われる授業を全く真剣に聞いてなくても、スラスラと答えちゃって

先生をあたふたさせちゃったんだもん

私なんてちんぷんかんぷんな計算も理解してるし


「はんヴィ」・・だっけ?設計図を特別にみせてもらったけど

これも全く私には理解できなかった


コーン!コーン!


「あっ夕食の時間だ」


夕食の鐘が鳴った

私はお友達のフィルちゃんと一緒に食堂へ行った

席が7割くらい埋まっていて、みんな神父さんの号令を待ってる。

私もご飯をもらうために配膳台へ向かいパンと野菜のスープを貰った


「えっとどこに座ろうかな?」


私が悩んでると


「アリス!こっちにこい!」


と少し強い声で私よりも年上の男の子が言った

この男の子は私・・・・・好きじゃない


「うっ・・・・」


私はどういうふうに断ろうと考えてると、隣にいた「フィル」ちゃんが


「アリスあっちに行こう」

「あっうん」


そう言ってくれた

私はその男の子とは離れた席に移動した


「チッんだよ!」


男の子は舌打ちをして席に戻った・・・ちょっと怖い

たまたま向かいの席にはカリムちゃんが座ってた

カリムちゃんは誰とも話をしないでただ目を閉じて座ってた

・・・・・・・寝てるのかな?


「みなさんに大事なことを話します、どうか気をしっかり持って聞いてください」


突然神父さんがそんなことを言った

みんながざわつき始めた


「このたび我が教会はあと5年で取り壊されることが決定しました」


みんなのざわつきがさらに大きくなった


「みなさん落ち着いてください!

我が教会にいる最低年齢は8才、あと5年ということは13才にここを離れるということになります

取り壊される教会としてはその後のあなたたちの人生を

保証することはできません」


「え?じゃあ13才で自分の力で生きていけということなの?」


隣にいたフィルちゃんが言うと


「その通りです!なんとも理不尽なことでしょうが決まってしまったことなのです

あきらめてください・・・・・」


「そんな!?冗談じゃない!俺たちの保護者のくせになんでそうなるんだよ!」


さっきの男の子が叫ぶように言った

他の子も納得いかない様子で私も納得できるものではなかった


「くすす」


え?


ふっと向かいの席を見るとカリムちゃんは目を閉じて静かに笑ってた

・・・・・・えっ・・・・・・・なんで笑ってるの?

13才でこの教会を出なくちゃいけないんだよ?

最低年齢の8才の子供は私とカリムちゃんとフィルちゃんをあわせた3人


「!?―――!!」


さっきの男の子は私たちよりも年上なのに叫んでいた

私たちのほうが追い込まれているのに・・・・・


「では夕食といたしましょう、いただきます」

「おいまて!冗談じゃないぞ!納得できるか!」


男の子は教会の人に詰め寄ろうとした

すると


ヒュン!!


男の子のすぐそばに弓矢が飛んできた。


「ひ!?」


「私たち教会の人間に危害を加えようとした場合

正当防衛ということで弓矢または攻撃魔法をあなたたちに放ちます

よく覚えてといてください」


暗い声で言う神父さん

怯える男の子

もう変えられないとあきらめるしかなかった

夕食を終え寝る時間になっても私は怯えていた


「カリムちゃんはどうしてるんだろう?」


いつものように枕と毛布持って教室に行った

教室の扉を開けるとカリムちゃんはちょうど紙を束ねて「終わった」

と小声で言ったところだった


「え?」

「お、どうした?」

「終わったって何が?」

「ようやく設計図と必要リストが完成したんだよ、思ったより時間がかかった」


・・・・・・・・・なんで?

そんなに平気な顔してるの?


「カリムちゃん、不安じゃないの?」

「何が?」

「だって私たち13才でここを追い出されちゃうんだよ」

「別に、大体予想してたし」


え?予想していた?


「だっていかにも貧しい教会で修繕もできない、人が少なくなっていることでの人件削減、これでよくあと5年も持たせられたなと思ったよ」


「カリムちゃんは5年後どうするの?」

「どうするって普通に働く予定だ」

「どうやって?」

「これで」


カリムちゃんは束になっている紙を指さした

走る機械・・・・多分売ったりするのかな?


「いいなぁカリムちゃんは天才で・・・・・・

私の場合特技はないし魔法は一応使えるけど」


「はは、俺は天才じゃない

好きな物に対する好奇心が強いだけだっていうかアリス魔法使えたのか?」


「うん、物の温度を冷やす魔法なんだけどね・・・

魔力の結晶を作ることでその結晶の周辺をを冷やすことができるの

一定時間たつとその結晶は消えちゃうんだけどね」


「ドライアイスみたいだな」

「どらいあいす?」


何それ?


「あぁなんでもない、アリスも好きな物で働けばいいじゃないか」

「好きな物・・・・・・」

「なんかあるんじゃないか?」

「お菓子を作るのは好きだけど・・・・あっそうだこれカリムちゃんに」


いつものクッキーをカリムちゃんに渡そうと思っていたものを渡した


「あぁいつもわりぃな」


カリムちゃんは私が渡したクッキーを受け取って一口食べた


「うん、美味い」

「良かった」


喜んで食べてくれると、とてもうれしい


「あ、これで働けばいいじゃないか」


「クッキーなんてどこでも食べられるし、

こんなの作っても売れ残っちゃうよ・・・・」


私は自分の不甲斐なさに激しく落ち込んだ




視点{カリム}




アリスが暗い顔をしている

さっきの食堂のことがとてもショックだったんだろう


「そうか・・・・・」


なんだろうこの気持ち?

暗い顔をしているアリスをみているともやもやする

他の人間の暗い顔を見てもこんな気持ちにはならないんだが・・・・・

アリスには笑っていてほしい


「じゃあ「ケーキ」はどうだ?」


自分でも気づかないうちにそんな言葉が出ていた


「ケーキ?何それ?」


この世界にはケーキは存在しない、けれどケーキの材料は存在している

だからケーキを作れば希少価値が生まれ、人気が出るはずだ

食べていく分には困ることはないだろう


「ケーキはクッキーとは別のお菓子だ」

「お菓子?」

「とても甘くて美味いから人気が出る、作ってみないか?」

「カリムちゃんは作れるの?」

「あぁ作れる」


前世の時、軍用のケーキの味に感銘を受け自分で作っていたこともあった

モンブランやミルフィーユ、チョコレートケーキなど色々作ったっけ

もちろん作り方もしっかり覚えてる


「作ってみたい!教えてくれる?」


上目遣いにお願いされる


「あぁいいぞ、だけどひとつ約束してくれ」

「なに?なんでもするよ」

「ケーキの作り方は俺とアリスの秘密にすること」

「ふぇ?なんで?」

「お前は馬鹿か?」

「はぅ」


「人に話したり作り方を教えているところを見られてたりして

作り方を真似されたらクッキーと同じになっちまうだろうが

希少価値がその時点でなくなってしまう」


「あ、そうか」

「だから作るのは夜で教会の調理場を使わせてもらおう」

「そんなことしていいの?」

「ダメに決まっているだろう、だから秘密ってことだろう?」

「ごめん、私馬鹿だから」

「しっかりしてくれよ、じゃあ指切りしよう」

「え!?指切るの?」

「違う違う、あぁ約束だ」

「約束?」

「そうだ、小指を出して」

「・・・・・・・・・こ、こう?」


「そう、じゃあ♪指切りげんまんうそついたらハリセンボンのーます指切った♪」

「不思議な約束だね、えへへ♪」


アリスがわずかに微笑む、やっぱり笑っていたほうがいい

なんか癒される


「よし明日の深夜からやってみよう」

「え?今からじゃないの?」


「作るのに特殊な調理器具が必要なんだ、

だから明日の昼間に調理器具を作っておくよ」


俺の魔法なら泡だて器やケーキの型ぐらいならすぐできるだろう


「私、作ってる所見てみたい!」

「別にかまわないが楽しくないぞ」

「・・・・・ダメ?」


また上目使いで聞いてくる


「いいよ」


俺は、ぽんぽんとアリスの頭をなでた


「あっ」

「どうした?」

「う!な!なんでもない!!」

「そうか?」


少し顔が赤いが大丈夫だろうか?

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