第35話 無属性魔法の真髄
振り下ろされた剣は、何かに阻まれた。音を立てることもなく止められ、それ以上押し込むことができない。結果、どれだけ力を込めても、あと少し先にいる湊に刃は届かなかった。
「多少は証明になりましたでしょうか」
「……まずはどういうことか説明を。僕の護衛が凹んでしまってるからね」
止められた剣を見て唖然としているセルジオ。勇者である真琴にも勝った彼の自信が砕けそうになっている様を視界に入れ、湊は申し訳なさそうに苦笑する。
「無属性魔法は、おそらく防御専用の魔法です」
「初めて聞くが」
「条件があるのでしょう。それが膨大な魔力なのか、それとも光属性を持つことなのか……詳細は不明ですが、私だけの能力ではないと思います」
「根拠は」
「スキルというものがあるなら、特殊な能力であればスキルとして顕著するのではないでしょうか」
「一理ある」
称号はスキルの名ではない。この世界にスキルという概念がある以上、固有の何かを持っているならば表示される可能性が高いのではないかと湊は考えた。実際、湊の調薬やまだ使用していないが真琴がもらった
しかしそのようなスキルは湊にはない。そして、無属性魔法だけはスキルに書かれず、誰もが使用できる魔法なのだ。守る力だけではあるが、鍛えれば誰でも覚えられる力としては一番いいものだろう。
また、称号と名がついている以上称号はあくまで称号でしかなく、ゲームのような効果はないのではないかと湊は思ったのだ。
聖女や勇者は世界を超えた印。そのほかは、良くも悪くもこの世界から認知された印なのだろうと考えられる。
「基本属性が攻撃に秀で、特殊属性も回復と能力向上と低下に秀でていると特色があるのに、無属性だけ『属性』とついているのに何もないのが不思議だったんです」
湊は、過去にも無属性使いがいたと予想した。魔力があるのならば誰でも使える属性。けれど、何かしら条件がなければ発動しない防御魔法。
知らず知らずのうちに、廃れていってしまったのだろうと。
「あとは、ルイス様が信じるかどうかです。私はあなたを守れることを証明しました。ターレスの街も、トントンに乗った真琴なら必ず宰相が差し向けた兵より早く着けるでしょうし、他の騎獣だと多少速度は劣るかもしれませんが王太子であるルイス様付きのセルジオさんが行けば確実に士気は上がる。真琴だけでも問題はないでしょうけど……今後のため、味方になる街は一つでも多い方がいいのでは?」
「…………」
黙り込んだルイスハルトの答えを無言で待つ。真琴は、自分の出番がまだなことを確認すると再び夢の世界へ旅立ったが、その姿を見てもセルジオは表情を変えなかった。
戦いの中で、無傷で守ることの難しさは彼が一番知っている。己の持つ剣だけで守り切ることの難しさは、よく知っているのだ。
防御に秀でた魔法を使い、そして並の魔術師より膨大な魔力を持つ聖女である湊。光属性を持ち回復も使える彼女の方が、守りに関してだけならば自分より圧倒的に上なのは火を見るより明らか。
「私は、行きます」
「……セルジオ」
「守るだけならば。殿下に傷一つ付けない力ならば、彼女の方が圧倒的に上です。ならば、任せます」
意思を固めたセルジオに、ルイスハルトも頷いた。
現在、騎士団の中で一、二を争う実力者であるセルジオ。その剣を受け止め、無傷であったのだ。しかも、余力もまだ十分に残っている。
「それではルイスハルト様。どのようにターレスの街を救いますか?」
どこか楽しそうに笑った湊は美形二人の絵に満足しているだけなのだが、当の二人にわかるはずもなく挑戦的な笑みと捉えた。冷や汗を流すルイスハルトは、しかしそれを見せずに考え込む。
「宰相は、王命という大義名分を経てターレスへ向かっています」
「……なら、元老会の方々に許可を取りその王命を止める。真琴とセルジオにはそれまでの足止めを頼みたい」
「少なくとも敵ではないと信じていただけるのであれば、その許可書はファウストに。彼の足ならば、騎獣より早くターレスにつけますので」
昨日のうちに、ここまでの話をファウストと湊は話していた。真琴もおらず、トントンもいない。その状況で自分まで離れることにファウストは反対したが、湊は首を左右に振った。
ファウストの足があればより早く、無意味な諍いを止められるのだ。死人は出したくない、怪我人も出したくないのならば、そのような人々が出る前に止めるのが一番いい。
湊を見つめ、未だに納得いっていないのか顔を歪めたファウストはそれでも、一歩前に出るとルイスハルトに向け膝を折り頭を下げる。
「湊様の命令ならば、この命に変えても必ず遂行して見せましょう。誰よりも早く、かの場所へ」
「よろしく頼む」
信頼とまでは行かないかもしれない。だが、信用には足ると判断していたルイスハルトの返事は早かった。即座に頷きを返し、そして立ち上がる。
「すぐに動こう。宰相が僕が動けることを知る前にどれだけ進められるかが鍵だ」
「仰せのままに」
「やっぱ映画みたい」
「真琴?」
「さっさと行くぞ」
「あいあいさー」
いつの間にか目覚めていた真琴が楽しそうにしているところを、呆れたような目をしたセルジオが強引に引っ張って行く。引きずられながらも敬礼した真琴はターレスに向かう道中の話し合いをするためか、セルジオと共に部屋の外、秘密の通路の中へと消えていった。
「それじゃあ私も」
「君は僕の護衛なんだろう?」
「無属性魔法でさっきの……結界を張れば離れていても大丈夫なのでご安心を。このあと宰相に接触して、彼経由でルイス様の治癒担当に付けるよう動きます。なので、メーテル様に頼んで引き続き病床に臥してるように見せつつ動いてください」
「……わかった」
「あなたには傷一つ付けさせませんから」
普段頬を染め近づいてくる女性達とは違う言動に、頬を染め胸を押さえたルイスハルト。しかし湊は気付かぬまま、男前な言葉を残してその場を去った。
美形への扱いは最上級。絶対に傷つけさせはしないと意気込み、すでに網羅しつつある地下通路へファウストと共に消えたのだった。
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