第4章 王位継承問題
第31話 グリティア城侵入
床に伏せっているルイスハルトは、病ではなく毒に侵されていると予想されている。だが、それがなんの毒かまではまだわかっていない。
毒だとして、何に混ぜ込まれていたかも判明しておらず、症状は高い熱と喉の腫れに衰弱。風邪の時とさほど変わらないものばかりだ。しかし気管支が腫れていて意識もなく、飲み食いができない非常に危険な状態なのだ。
セルジオと合流後に仔細を聞いた湊は、手元にあるもので作れる限りの種類の毒消しを作成しながら、ちまちま練習していた光属性魔法の練習も通常通り行った。
魔法とは不思議なもので、練習すればできそうなことが何となくわかってくるのだ。ただ、「できそう」とわかるだけでどうやったらいいかは基本的に本人の想像力に委ねられる。そのため、使われる魔法は個人個人でさまざまだ。
いつ新たな魔法ができるようになるかはわからない。ルイスハルトを救うため、湊は時間ギリギリまで最前を尽くした。
そして王都に到着した翌日。ある程度話を練り準備を整えた面々は、深夜に人気のない路地裏に集合していた。
「案内します」
「よろしくお願いします」
「レッツゴー!」
「では、俺はターゲットの元へ」
湊と真琴はルイスハルトの元へ。トントンは目立つためお留守番なので、今頃寂しく鳴いていることだろう。ルイスハルトが回復するまでは宿屋待機なので仕方ない。そして、ファウストも一人別行動となる。
「無理はしないで、命が第一優先だから」
「はい。必ず情報を掴んで帰って参ります」
「……怪我にも気をつけること」
「もちろんです」
多少の怪我なら厭わず行動しそうなファウストに釘を刺し、消えるまでその姿を見送る。
ファウストは、黒幕だと思われる宰相。オレオ・フォン・リグレイド公爵について調べてくる予定なのだ。
現状まだ、オレオ宰相が黒幕だという確証はない。実際、王を巧みな話術で口車に乗せ好きに動かしてはいるが、それだけではルイスハルトに毒を盛った犯人という証拠にはなり得ないのだ。
しかし、まずは怪しいところから潰していきたいところだと湊とセルジオで話をしていた際に、ファウストが自ら調査したいと手を挙げた。
自分は元々裏で動いていた者だから、使って欲しいと。
同じ仕事をさせることを最初は渋っていた湊だったが、力になりたいと語るファウストに最後は折れた。「今度こそ誰かを助けるために動きたい」なんて言われたら、頷かないわけにはいかないだろう。
「ここからは静かに頼む」
「そう言われると騒ぎたくなる場合どうしたらいい?」
「口縫おうか?」
「すみませんでした」
「……湊さんがいてくれて助かりました」
「うちの妹が本当にすみません」
「え? なんかごめん」
日付が変わる直前。酒場周辺は喧騒も聞こえるが、住宅街は物音一つしない。光が灯っている家もあるが、本当にごくわずかだ。
くだらない会話もすぐになくなり、全員が無言で足を進めていく。城は街の中央にあるので、そこまで遠くはない。誰にも見られぬよう息を顰め歩き、敷地内へと侵入した。
「これから通る抜け道は、現国王と王位を継承すると決まっている者。そして各自の配下一名にのみ知らされる道。他言無用願いたい」
「……魔法契約とかしなくても?」
見回りの兵士の位置を確認し、見つからないと思われる場所に身を隠す。ルイスハルトは王になることがもう決まっている。死なない限り、その決定が覆ることはない。
だからこそこの道を知り、そしてセルジオに伝えた。本来であれば部外者に教えるなど言語道断だ。だが、セルジオは気遣うような視線を向けてくる湊に微笑み、迷いなく頷いた。
「友と、その姉君を魔法で縛りたくはありません。それにこれは、殿下の意向でもありますので」
「……わかりました。その想いを裏切らないと約束します」
「なんか、映画見てるみたい」
「あんたも当事者でしょうが!!」
小声でほんの少し言い争いをしたのち、真琴がまた茶々を入れないようにという理由でセルジオと湊は敬語をやめ、秘密の入り口へと足を踏み入れる。
城の土台に使われているレンガに決められた順番で触れ、さらに他にもいくつかの手順をこなせば開いた入口。土が落ちるわずかな音だけを発し、ぽっかりと口を開けた地面に現れた階段。
足音に注意しつつ全員が中に入ると、セルジオは再び決められた順番でレンガに触れ、さらにそのあと一部のレンガを押し込んだ。
音もなく、ゆっくりと口が閉じていく。
「覚えられる自信なし」
「最初からお前の心配はしていない」
「あ、馬鹿にしたでしょ。馬鹿にしたよね?」
「真琴、静かに」
「あたしだけ!? セルっちだってうるさいじゃんかー!」
潜入が問題なくできたので安心したのか、セルジオの口が緩む。いつも通りのやり取りに、真琴の口元も緩む。
セルジオと真琴の様子を見ていた湊は、妹が飛ばされた場所に彼がいてくれてよかった。と心からそう思うのだった。
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