第30話 友人との再会

 ターレスを出た真琴達は真っ直ぐ王都を目指していた。真琴と湊はトントンの背に乗り、ファウストは部分獣化をしてトントンと並走する。普通に歩いていくと一ヶ月以上かかる距離だが、馬車や騎獣を使えばその限りではない。さらに、ほぼ一直線に向かえば一週間とかからず到着できる。

 他の街に寄るのは最低限にし、魔物も立ちはだかったものとだけ戦いながら進んでいけば、当初の計画よりだいぶん早く王都に到着することができた。


 大きな城壁と、他の街よりもはるかに厳しい検問。ハンターカードを提示して中に入った真琴達は、ひとまずセルジオとの合流場所である狩人ハンターギルドへと向かった。


「あ、セルっち発見。おひさー」

「……お前、その呼び方どうにかならんのか」

「ならん」


 ギルドの中に入ると、先に到着していたセルジオが併設されていた食事処で軽食をとっていた。その姿を発見した真琴が大きな声で愛称を呼びなが走り寄り、セルジオは食べていたものを吹き出しそうになるが慌てて堪える。


「あ、そうそう。お姉連れてきたよ!」

「姉の湊です。その……真琴が迷惑をかけているようですみません」

「あ、いえ。迷惑をかけたのはこちらもですから、その」

「ボインでしょ? ねぇボインでしょ? あいたっ!!」

「真琴? 少し黙ろうか」

「んぬぅ……」


 笑顔で拳を落とされた真琴が悶絶してかがみ込んだ。真っ赤になったセルジオにお詫びをしつつ、湊はファウストとトントンも紹介すると向かいの席に腰を下ろす。真琴はセルジオの隣、ファウストも食事処で立っているのは不自然だと湊に言われ、かなり動揺しつつ湊の隣に腰をおろした。

 トントンは当然真琴の横だ。


「友人のことなんだけど、私が直接診るのが一番確実だと思います。都合はつけられそうでしょうか?」

「……明日みょうにちの夜中なら、可能です。だが、本当に」

「お姉にもあるよ、称号。私と違うやつ」

「っ! そうか、そうか……!」


 以前、トークでは言えなかった〝聖女〟の称号。湊から許可を得ていた真琴は、ここがオープンな空間だとわかっているためしっかり濁し、さらに小声で伝えた。

 だが、それだけで十分その意味は伝わる。

 異世界からきたのであれば確実に与えられる称号。真琴の称号である勇者とは違い、ルイスハルトを助けられる称号は聖女と聖者のみ。女性であれば聖女だろう。

 

「もう大丈夫だよ、セルジオ」

「……本当に、ありが」

「それは、治ってから聞きます。できれば笑顔付きでお願いしますね」


 思わず目頭を押さえたセルジオの肩を叩き、真琴はいつもより柔らかな声を出した。その優しさに触れ、高まった感情に引っ張られるように掠れた声が紡ぐ感謝の言葉。だが、湊がそれを遮った。

 感謝を受け取るなら、ルイスハルトが治ってからだ。そのときに、金髪碧眼王子様と細マッチョワイルドイケメン二人の笑顔をいただきたい。

 内面の真っ黒変態な思考を正確に理解したのは真琴で、現実から捻じ曲げ解釈したのがファウストだった。


「……邪魔者は排除すべきでしょうか」

「ファウスト。癒しの観察対象を害したら許さないからね」

「……申し訳ありませんでした」


 濁った感情には湊も気付いている。不穏すぎる発言を聞き逃さずに制すれば、ファウストはどこか悲しそうに頭を下げた。

 目の前には嬉しそうなセルジオと真琴、トントンがいて、感情の差がえげつない。


「外見でも中身でも、美しいものが好きで眺めていたいだけ。外見はわかりやすいから外ばっかになるのは申し訳ないけど……」

「そう、なんですね」

「ファウストの方が大事ってのは絶対なんだから、あんま拗ねないの」

「っ、はい。いえ、すみませんでした」


 まだまだ情緒不安定なファウストをフォローしつつ、真琴が軽食を頼むのに合わせて湊も料理を注文する。嬉しそうに頬を染めたファウストにホッと息を吐き出して、運ばれてきたフライドポテトなど見たことのあるジャンクフードに舌鼓を打つのだった。

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