第29話 依頼料ゲット
その後、キープしていた酒をいつの間にか飲んでいた湊にしこたま絡み、大層凹んでしまった真琴に姉は仕方なく。仕方なく十八になったら解禁しても良いと許可を出した。こちらの世界でトントンと一緒に十七歳の誕生日を迎えた真琴は、十八までもう一年を切っている。
二十歳まで。と決められている理由もなんとなく理解していた真琴は、譲歩してくれた姉に飛んで喜んだ。あっけなくテンションは元に戻り、次の誕生日は酒で乾杯しようと約束し眠りについたのだった。
***
外のため慰労会は早めに終わった。次の日の早朝には移動を開始し、夕暮れにはターレスに帰還。騎士団とカイルが領主であるシリウスに報告したあと、報酬が決まる予定だ。
大きな依頼をこなしたこともあり数日は休むと決めた湊は、何かあればギルドに連絡をと頼んでその場で解散した。疲れた体で、偉い人の前に立ちたくはなかったのである。
そして数日後、ギルドからようやく連絡が来た。
「それじゃあ今日は、依頼の報酬を受け取ったらそのまま王都に向かうよ」
「オッケー! セルジオにもチャット完了」
「仰せのままに」
「プギプギィ!」
薬師として色々な種類の薬を作り溜めし、簡単な依頼をこなしながら王都へ向かう準備は終えている。あとは報酬を受け取るだけ。それも今日で完了だ。
「すみません。お待たせしてしまいましたか」
「いや、今来たばかりだ。掛けてくれ」
ギルドに向かうと会議室に通され、そこにはシリウスとカイルがすでに来て座っていた。貴族であり上の立場ではあるが、ギルドでは身分は関係ない。特にシリウスはただでさえ身分には緩いので、気にするなと手を振っていた。
「さて、今回のそなたらの活躍。聞かせてもらった」
湊がシリウスの正面に座り、真琴が姉の右横でカイルの前。そしてトントンがその脇の床に座る。ファウストは湊の左隣に立ったまま控えている状態だ。
各々腰を据えたことを確認したシリウスは、早速と口を開く。
内容は当然だがオーク討伐の件だ。
カイルや騎士団の証言を元に内容を精査し、シルバーランク昇格に関しては文句なしだとシリウスは言う。そしてそれは、湊だけではなくファウストにも適応されるようだ。
「此度の働き、パーティーアメの面々には感謝してもしきれない。約束通りリーダー湊はシルバーへ昇格。また、登録したばかりではあるがファウストも同様に昇格とする」
「ありがとうございます」
「そして、これが報奨金だ」
差し出されたカードは依頼料の支払い専用のカードだ。カードの表面には中に入っている金額が表示されており、その金額が必ず全額、依頼達成者のカードに支払われる仕組みになっている。
カードに表示されている金額は四百万ゴールド。かなりの大金だった。
「かなり多いように感じますが……」
「いや、適正だよ」
魔物は強さによってSからFに振り分けられる。支払い金額は、通常とは異なる変異種以外に関してはそのランクによって大体決まっているのだ。
S:100万~
A:50万~
B:10万~
C:1万~
D:5000~
E:1000~
F:500~
※基本討伐料基準。素材料は別で支払われる
※討伐依頼の受注はアイアンから可能
通常のオークの討伐ランクはC。シルバーランクの冒険者であれば、パーティーで一個体狩るのは難しくない。だが、集落を壊滅させるとなれば話は別である。
さらに、今回は進化した個体であるジェネラルやアーチャー、マジシャンというBランク個体も混ざり、その上であるキング。Aランクまでいたのだ。
本来であれば、シルバーランク以上のパーティーが複数で対応すべき案件。それを、死者もなく達成できたのは間違いなく真琴達の功績だとカイル含む騎士団達が証言してくれたのだ。良い人達である。
「キングがいたにもかかわらず死傷者0は、間違いなく君達がいたからこそ為し得たことだ。感謝する」
「トントン! 美味しいお肉食べれるよ!」
「プギィッ!」
「二人とも、お口チャック」
「あいあいさー!」「プーギー!」
「あはは。湊さん達さえ良ければ夕食にお誘いしようと父と話していたんだけど、どうだろう? もちろん美味しいお肉も出る予定だよ」
「お肉!?」「プギッ!?」
褒美について「美味しいもの」と言った真琴の言葉をシリウスは覚えていたようで、今まで黙っていたカイルの言葉を後押しするように頷いた。美味しい肉と聞いて過剰反応した一人と一匹に苦笑しつつ、湊は首を横に振る。
「いえ、このあと街を出る予定なので」
「それは……この街は拠点には見合わなかったということだろうか」
イケメン紳士シリウスの真っ直ぐな視線に内面身悶えつつ、湊はもう一度首を左右に振った。
「王都に住んでる友人に会いに行くんです。拠点は、もっと色々見てから決める予定なのでまだわかりませんね」
「……お肉」「……プギィ」
「真琴?」
「わかってるよ! わかってるけどー……」
「なら、またこの街に来たときはギルド経由で連絡をくれないだろうか? 都合が合う日にでも誘わせて欲しい」
「お肉!?」「プギィ!?」
「二人とも?」
バッサリと言う湊にもめげず、シリウスは再び誘い文句を口にする。見事に釣られた二人に頭を抱えた湊は、しかし断る理由もないのでと頷く。
シリウスやカイルには悪い印象もなく、ターレス自体も良い街なのだ。十分拠点の候補には入る。
「次に来た時には、必ず連絡をさせていただきます」
「流石お姉!」
「おお」
「良かったですね! 父上」
なんだかひどく嬉しそうな親子を睨みつけるファウストには気づかないまま、湊は依頼料を受け取ると席を立った。
定期的にセルジオからくる連絡を確認する限り、ルイスハルトの容体は悪くなる一方なのだ。ここからはトントンに頑張ってもらいつつ最高速度で移動し続ける必要がある。
「上手くいけば、ターレスの事情もきっと解決しますよ」
「ん? それは一体」
「行きましょう、湊様。王都までは私が抱き上げて――」
「いらないから。それでは、この度はご依頼ありがとうございました。またご贔屓に」
意味深な発言に首を傾げたシリウスをファウストが遮り、湊は呆れたようにツッコミを入れてから頭を下げる。会話が終わったと気づいた真琴とトントンも席を立って、姉に習うように頭を下げた。
「またくるね、おじちゃん。カイル様?」
「待っている」
「はは、父上がおじちゃんなら僕のことも呼び捨てで構わないよ。もちろん、湊さんも」
「いえ。あ、ただのハンターである私達のことは呼び捨てで構いませんので。それでは、失礼します」
素気無い湊に内心肩を落としつつ頷きを返したカイルは、シリウスと並んで真琴達を見送る。そしてその間、ずっと得意気な顔を向けてくるファウストから必死に目を逸らすのだった。
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