第28話 妹、友人をゲットする
オーク討伐が完了し、素材となりそうな大きさで残っている部位だけを回収。大量の死骸があると消えるまでに魔物が集まってくる可能性があるので、安全のために素材にならない部分は魔導士達が焼却していく。
火属性が使えないパーティーアメの面々は怪我もなくピンピンしているため、湊以外はオークだったものを魔導士の下に運ぶ作業をしている。湊は、怪我で動けないもの達の治療だ。
それらが全て終わった頃には、朝早く出てきたにもかかわらずもう日は暮れかけていた。夜の進軍は危険なので少し歩いたところで野営をし、翌日ターレスに帰ることとなる。
非常に疲れた一日ではあったが、カイル含む騎士団達、そして真琴達の顔は晴れやかだった。
「皆、ご苦労だった」
野営の準備も終わり、料理が全員に行き渡ったのを確認したカイルが立ち上がる。その顔には安堵の色が伺えた。
「騎士団はもちろんだが、パーティーアメの働きには感謝してもしきれない。君達がいなければ、今日のこの結果はなかっただろう」
カイルの声に反発する騎士団はいない。実際、それほどまでの活躍をしたのだから。
どこか照れ臭そうに笑い会うトントンと真琴の姿を見ながら満足そうに頷いた湊は、感謝を込めて仏頂面だったファウストの肩を軽く叩く。だが、次の瞬間感激に打ち震え、身悶え始めたファウストは放置した。そして少しだけ、いつもの自分はこんな感じなのかと遠い目をしそうになった。
「父上が酒も少し送ってくれた。簡易ではあるが、これから慰労会をしたいと思う。交代で見張りはしてもらうが、それまでは身分を気にせず楽に呑んで食べて疲れを癒して欲しい」
オークとの戦いに終わりが見えた段階でターレスに送られた使い。その返事もカイルには届いていて、領主シリウスからの労いの言葉も全員に読み上げられた。
カイルが高々と掲げた酒の入った木のカップに合わせ、騎士団や真琴達もカップを掲げ、慰労会という名の飲み会が始まった。
***
「すみませんでした!」
この世界での成人は十五歳。お酒の解禁も同年齢。ならば呑んでもいいだろう。と杯を傾けようとする真琴を湊が必死に止めていたタイミングで大きな声を出したのは、シリルだった。
頭を下げ謝罪したシリルは自らのクリーム色の髪をいじりつつ顔をあげ、視線を彷徨わせたあとキュッと形のいい唇を引き結ぶ。
湊と真琴は、酒の入ったカップを取り合った体制のまま思わず目を見合わせた。
「その……えっと、帰れって言ったことですとか、色々、謝罪したくて」
プルプルと震える子うさぎのような状態のシリルは、湊からの手酷い返しを思い出しているようだ。酒を奪い合っていた二人はとりあえずそのカップを地面に起き、シリルと向かい合う。
「心配からの発言だとはわかっていましたのでお気になさらず。可愛らしすぎてついつい揶揄いたくなってしまいまして」
「お姉、本音出てる出てる」
真琴には敬語を外していたシリルだが、湊にはきっちりとした敬語を使っているのはあの姿が染み付いてしまったからだ。
本心が知られていた事実に驚き見開かれたまぶた。だがそれはやがてゆっくりと下され、合わせるように肩も下がった。
「……お気づき、だったんですね」
「真琴への態度で確信したかな」
「そうですか……」
「ねぇねぇシリル、安心できたっしょ?」
しょんぼりしてしまったシリルに近づき、真琴が背中を叩く。にかっと歯を見せて、笑いながら「どうだった?」と問いかける真琴にシリルも思わずゆるく微笑む。
「とっても。強いのね、真琴も湊さんも」
「でしょ? あたしら二人で最強だからね!」
「その強さの秘訣、私も知りたいわ」
「一緒に特訓する? あたしも勝ちたい人いてさー」
「あら? 最強なんじゃなかったの?」
「お、なんか調子戻ってきたね」
「なっ!!」
顔を真っ赤に染めたシリルを楽しげに見る真琴と湊。さっきからずっと黙っている湊は、見かけは無表情だが内心ではニヤニヤしている。
人を励ますことが得意ではないので真琴に任せ、可愛らしいシリルを密かに堪能していたのだ。真琴が飲もうとしていたカップの酒を全部飲み干すことも忘れてはいない。
「じゃあ、次に会うときに訓練しよう! このあとあたしら王都に行かなきゃだからさ」
「王都に?」
「うんそう! ちょっとおう――」
「知り合いの治療しにね」
「そうそう、お姉が治せるかなって」
王子様と言おうとした真琴の言葉を湊が遮り、意味を理解した真琴が取り繕う。特にシリルも疑問には思わなかったようで、小さく二度頷いた。
「湊さんの回復魔法は素晴らしかったですわ。その友人もきっと良くなると思います」
「ん、ありがとう」
「だからシリル、帰ってきたら約束ね」
「わかったわ。あとで連絡先を伝えるわね」
「やった! 友達ゲット!」
「ともっ!」
「あれ、違う?」
照れ臭さからか、顔面を真っ赤に染めたシリルに真琴が首を傾げる。だが、すぐさまシリルはふるふると首を振り「違くないわ」と呟いた。
「ともだち、よ」
「うふふー!」
「……尊い」
「ねぇお姉、台無し」
顔を逸らし、けれど目では真琴を捉えたまま。恥ずかしそうに差し出されたシリルの手を真琴が嬉しそうに握り返す。
女同士の友情。なんだか初々しいシリルのその様に思わずつぶやいた湊の声は、しっかりと真琴に届いていた。
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