第25話 言葉にする前に考えよう

 パーティー単位での依頼だったため、一応ギルド経由で新メンバーのファウストも参加することをシリウス領主に伝え、了承をもらった次の日。まだ朝日も出ていない早朝に、湊達はあらかじめ周知されていた集合場所へと向かう。

 余裕を持って向かったからかまだ誰もいなかったが、数分もせずグリティア人族の国の国章とカサグランド辺境伯領の紋章が刻まれた銀の鎧を身に纏った騎士団も到着した。


 先頭を歩く青年のみ鎧が違い、またシリウスとよく似た顔と焦茶色の髪を持つことから、おそらく彼が領主の息子なのだろうと湊達は予測する。


「すまない。待たせたかな」

「いえ。私達も今来たばかりです」


 パーティーアメのリーダーである湊がまず名を名乗って頭を下げ、そしてメンバーである真琴とトントン、ファウストを紹介する。次いで領主の子息であるカイルが名乗り、騎士団代表として団長と副団長を紹介した。


「カサグランド騎士団団長、アレクサンド・フォン・シルフィリオだ。今日はよろしく頼む」

「……シリル・フォン・アルフォートよ」


 焦茶色の短髪をオールバックにしている体格のいい男性が騎士団長。そして、クリーム色の髪に茶色の猫目の女性が副団長だ。

 団長であるアレクサンドの方は友好的に右手を差し出してくれたのだが、シリルの方は不機嫌を隠しもせず湊達を睨みつけている。

 

 潜ませている小刀に手を掛けたファウストに気づいた湊はそれを止め、一歩前に出た。


「何が意見がおありですか?」

「ええ。私達で十分勝てますので、あなた達は帰ってくださって結構です」

「シリルっ!」


 騎士団長が慌てて止めるが、領主息子であるカイルは眺めているだけだ。

 実はこのやりとりは昨日騎士団内でも行われており、騎士団長から直接領主まで伝えられていた。そしてカイルは、シリルが勝手な行動を取った場合ひとまず見守れと言われている。なので、あえて何もしない。


 女性とはいえ鎧に身を包み武器を装備した騎士団に凄まれているにもかかわらず、ゆるゆると口角を上げる湊に萎縮したというのもあるのだが、そのことに気づいているのはファウストのみだ。


「貴女様の雇用主である辺境伯様が人手が足りないと判断し私達に依頼をくださったのですが、その判断が間違っているとおっしゃるならどうぞそのように貴女様からカイル様に進言なさってください」

「なっ……」

「これが貴女様の独断での発言だった場合、私達に直接依頼をした辺境伯様の顔に泥を塗るということになりますが……まさかそんなことはないですよね?」

「ぐ、う」

「それにしても、相手の力量の確認すらせずに力不足と決めつけるなんて……余程自分の目に自信があるのですね。きっと、力を貸して欲しいと言った辺境伯様よりもいい目をお持ちなんでしょう」

「…………」


 敬語で話してはいる。とても丁寧な言葉で話してはいるのだが、オブラートが透明すぎて何を言いたいかは全て筒抜けになっていた。

 名前を聞いたにも関わらず嫌味なほどに繰り返される「貴女様」からも、湊の怒りはひしひしと伝わることだろう。

 要するに、「お前より上が決めたことに文句言ってんじゃねぇよ」と湊は言いたいのである。


「わー……お姉に喧嘩売るから。ごしゅーそーさまでした」

「プギプギィ……」

「御愁傷様、ですよ真琴さん。しかしお見事ですね、お相手はもう何も言えないことでしょう」


 ファウストの言う通り、シリルは顔を真っ赤にさせて口を引き結んでいた。昨日騎士団長であるアレクサンドに進言した時はそこまで言われておらず、領主であるシリウスの体面まで考えられていなかったのである。


 実力でこの地位に着いた彼女だが、実は頭の方はあまりよくはない。伯爵家の娘と貴族だったこともありプライドがちょびっとある彼女は、憧れているカイルにいい格好をしたかった。そして平民は守る対象だろうと決めつけ独断で動いてしまった結果がこれである。


「カイル様も同じようにお考えであれば私達は喜んで帰りますが?」

「い、いや。副団長がすまなかった。僕、そして父としては君達の協力は必須だと考えている。不快な思いをさせてしまい申し訳ないのだが、引き続きオーク殲滅完了までご助力願えないだろうか」

「かしこまりました」


 にーこりと笑顔を貼り付けた湊に一歩後ずさったカイルは、しかししっかり踏みとどまる。慌てるアレクサンドと、平然としすぎているカイルの様子からシリルの考え自体は共有されていたと予想した湊は、カイルを止めたのは父だろうと当たりをつけた。

 それを今追求しても仕方ないので、ため息を飲み込み頭を下げる。ただ、もう一度試されるような何かあれば遠慮なく出て行ってやろうと表情に出していたので、カイルにはその意思は伝わっていた。


「では早速、具体的な作戦について確認を。領主様には伝えましたが、妹とトントンが前衛。新しく加わったファウストも前衛ですが、二人とも遊撃タイプなので好きに動かす予定です。騎士団にいきなり加わって連携が取れるとも思えませんのでそれでよろしいでしょうか?」

「君は?」

「私は遠距離支援タイプです。回復魔法も使えますので、妹達に指示をしつつ回復を受け持ちます」

「わかった。光属性の適性を持つ魔導士は少ないから助かる。戦闘開始の合図などは……」

「では、それは俺から」


 サクッと切り替えた湊はオーク討伐戦に話を移し、騎士団長も加わって内容が詰められていく。湊の要望通り真琴達三人は自由行動が認められ、騎士団に所属する魔導士達の攻撃がオーク集落襲撃の合図と決まった。

 ちなみにこの間、副騎士団長シリルは放置である。


 作戦も決まったので、あとは騎獣に乗って移動するだけ。だったのだが、ここで湊が重要なことに気づく。


「あ、ファウストの騎獣は……」

「部分獣化をすれば、速度には問題ありませんのでご安心ください」


 ファウスト用の機銃を用意するのを忘れていたのである。

 トントンに乗れるのは最大でも二人。鞍も購入してつけており、湊と真琴で定員オーバーだ。しかし、ファウストは問題ないという。


「戦闘前に疲れない?」

「はい。湊様のためでしたら何時間でも動き続けられますので」

「そういうのはいらんて。無理なようならちゃんと言うこと、約束ね」

「……かしこまりました」


 獣人は、各々が宿す獣の姿に完全に変わることができる。ファウストは半分はエルフの血を引いているので完全獣化はできないのだが、部分的に変えることは可能だ。

 変えた部分は獣以上の力が出せるので、手足を変化させれば彼の宿す獣、黒豹以上のスピードで黒豹より長く走れるのである。


 心配されて嬉しいファウストに、トントンが近寄った。どこか似たものを感じたのか、一緒に喜ぶように身を寄せる。

 ファウストも何か感じたのだろうか、トントンの頭に手を乗せ、優しく撫でた。


「ファウスト、幸せそだね」

「いつもの変態発言が今の素晴らしい絵を邪魔するんだけどどうしたら良いかな」

「とりあえず、お姉が一番台無しにしてると思う」


 オーク討伐前で騎士団がピリつきながら馬形の騎獣にまたがる中、パーティーアメは今日も平常運転だ。

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