旅立つ
今、私は遠い異国の地を歩いている。
言葉も文化も歴史も知らない土地。
隣を歩く姉が指差す。海が見えてきたよ、と。
遠くに青が見えた。煌めく青。眩しい青。
ヤシの木を見上げながら進めば、砂浜の感覚が靴裏から伝わる。そう、海へ来たのだ。
もしかしたら、どこかにカニも居るかもしれない。私は期待に満ち溢れていた。
私の就職が決まり、姉も有給休暇を消化しなければならなかったため、最後の自由と称して、私たちは異国の海、あの異邦のお菓子、その包みに描かれた光景を実際に見に行くことにした。
初めての海外旅行で震える私を尻目に、姉はテキパキと準備を終わらせると、既に飛行機のチケットも用意していた。
耳がキーンとしながらやって来た海外はとにかく暑く、ジメジメとしている。早速帰りたくなったが、姉がほとんどの手続きと通訳をしてくれているので、一人では帰れない。それに最後の自由と思うと、満喫しないのが損に思えてきた。ホテルのチェックインを済ませた私たちはこうして海へと至ったのだった。
一匹のカニが波打ち際を歩いている。写真を撮ろうとピントを合わせる度に動くカニに気を取られていると、波が来て、私の靴を濡らしていく。それを見て笑う姉は、パラソルの下でジュースを飲んでいる。
色々あったが、今こうしてここに居られることが楽しい。だが、この時間は長くは続かない。だからこそ、目一杯楽しもうと私は決めた。
大きな夕日が海へと落ちていく。こんなに綺麗な光景は初めて見た。写真を何枚も撮っていると、姉が近付いて来て、そろそろ戻ろうか、と告げてくる。今日のディナーは何だろう、海の幸かしら、明日は何をしようか、等と他愛も無い話をしながらホテルへと帰る。
自由時間は確実に減っていく。けれど、その分思い出は増えていく。そんな当たり前のことに気付けた旅だったと思う。
帰りの飛行機の中で写真を見ながら思う。
ありがとう、ヤシとカニ。
今回の自由時間は終わりを告げたが、まだまだ人生は長いのだ。この先もあるであろう自由時間に思いを馳せて、私は布団へと入った。
ああ、明日は初出社か……。
けれど、私の心はどこか晴れやかだった。
その夜、ヤシとカニ、そして遠くに浮かぶヨットの夢を見た。
ヤシとカニ、時々ヨット 紅茶党のフゥミィ @KitunegasaKiriri
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