相対す

 翌日は雨。土砂降り。まるで私の心を……

「飲み行こう、あんたに拒否権無いから」

……姉がやって来ました。

 私の姉は才色兼備な人で、雑誌の編集者をしています。忙しそうにしていますが、今日のように休みが出来ると、私の所へやって来て……私は拉致されます。

 雨が降る中、近所のコインパーキングへと向かい、姉の車に乗せられました。姉の車には乗りたくありません。だって――

「よし、行くわよっ!!」

――運転が荒いから。

 店に着いて早々、便器とにらめっこした私は、嫌々ながら姉の隣の席へと戻りました。

「シャーリー・テンプル。――あんたは運転しないんだからサマー・ファンで良いわよね」

 拒否権は無いので頷くと、バーテンダーがカクテルを作り始めます。飲みに誘うのに、姉はアルコールが飲めません。私ばかりが飲まされて、翌日酷い目に合うのです。

 静かに乾杯し、姉が口を湿らせてから訊いてきます。

「あんたさ、最近どうなの?」

 いきなりの質問で、飲もうとしたカクテルに挿してある、小さなパラソルの先端が思い切り鼻の穴に刺さりました。仕事のことなんて説明すれば良いのか。私が無言でカクテルをチビチビ飲んでいると、姉は気付いたように頷きました。

「そう、あんたまだ居ないのね、良い人」

 そっちじゃない! 思わずツッコミを入れてしまってから、ハッとなって再びカクテルをチビチビします。

「仕事のこと言われるとでも思った? あそこ私の同級生も働いているから、あんたのことバレバレよ。あ、お父さんとお母さんにはまだ伝えてないから」

 筒抜けでした。やはり姉には勝てません。項垂れていると、姉がガシっと私の肩を掴みました。

「もっと自由を謳歌しなさい、若者よ!」

 姉よ、私たち三歳しか離れてませぬ。ですが、姉なりに励ましてくれていることはよく分かります。

「じゃ、お先に!!」

 颯爽と姉は帰って行きました。あれ、お会計と私の帰りの足は……? 諦めてお会計をしようとしたら、バーテンダーさんに言われました。先にお支払いいただいております、と。流石は姉です。一瞬でも疑った私がバカでした。店を出ると、すぐに姉の車が現れました。

「乗りな、次行くよ!」

 こうして、私は数軒の店を姉と共にはしごすることとなり、ベロベロに酔って帰宅することになりました。もう何も考えられません、おやすみなさい。

 翌朝、いや正確にはギリギリ午前中に私は目覚めました。頭がズキズキします。枕元に置いてあるミネラルウォーターを飲みます。頭痛も落ち着いてきたので、改めて現状を確認してみました。無職の私が居ます。どこか心は晴れやかです。パジャマを着ています。どうやら姉が着替えさせてくれたみたいです。机の上にはメモ書き。読むに、姉は朝食やらなんやら色々と用意してくれているみたいです。ありがとう、姉。

 冷蔵庫を開ければコンビニ弁当が一つ、私の大好きなのり弁。それにデザートのプリン。

 ブランチを食べながら、今後のことを考えました。とりあえず、当分は自由を満喫して、英気を養ってから何とかしようと思います。


 メモ書きを裏返したら、ヤシの木とカニが描かれていました。 

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