彷徨う
やってしまいました。衝動的に降りちゃいました。パニックで改札も出ちゃいました。
もう、さっきまでのちょっと格好つけた脳内会話をする余裕もありません。
電車で通過するだけ。やって来たことのない土地。途中下車した私を待っていたのは未開の地でした。とりあえず暑いので、駅前の自動販売機で炭酸飲料を買います。
軽いゲップを伴って胃からアイディアが浮かんで来ました。
「よし、食欲を満たそう」
私は歩き始めました、宛も無く。
幸いなことに食事処はすぐに見つかりました。町に古くからある定食屋さんといった佇まいをしております。
さて、ここで問題です。私のような人間は定食屋さんに入れるでしょうか?
答えはバツ、否です!!
人見知りな私にはハードルが高過ぎました。常連客ばかりの店に入ることは出来ません。ましてや話しかけられたら……。
定食屋を諦めて、さらに歩きます。
おっと、コンビニ発見!! 見慣れないマイナーな名前ですが、コンビニには違いありません。
コンビニは素敵です。何時でも何処にでもあります。真夜中でも人が居ます。私が真夜中に散歩出来るのもコンビニエンスストアさんのおかげです。ここは……深夜には閉まってそうですが。
メロンパンとカフェオレを買いました。栄養価なんて気にしません。食べたいものを食べたい時に食べる、それが私のポリシーです。体重計? 健康診断? あーあー聞こえない。
お行儀なんて知りません。食べ歩きながら辺りを散策します。しかし、あるのは民家や空き地のみで特にめぼしいところはありません。仕方無く、小さな公園へと足を踏み入れました。
この公園、なんと遊具がありません。ベンチしかありません。とりあえずベンチに座ります。木のベンチ、ちょっと朽ちてきています。
空を見上げると、雲一つありません。快晴。スズメたちが元気に飛んでいます。私もあんな風に空を飛びたいです。そうしたら、海にだって簡単に行けるのに――って、海! 私は海に行くんでした。すっかり失念しておりました。
さあ、急ぎましょう。さっさと来た道を戻ろうとしたその時、悲劇に見舞われました。
落ち着け。まだ慌てる時じゃない。そう、よく確認すれば大丈夫なはず。気のせい、そうに違いない。
頭にハトのフンが落ちてきました。
頭上を見やれば、電線。ちょうど飛び立とうとしたハトの落とし物が私の頭を直撃したのです。
叫べば注目の的になるので、グッと堪えて、水道を探しました。このオンボロ公園にはベンチ以外何も無いので、仕方なくコンビニまで戻ります。幸いなことに誰ともすれ違うことはなく、商品を並べ直していたコンビニの店員にも頭のことは気付かれずに済みました。トイレで用を足すフリをして、水道で思い切り頭を洗います。涙もフンと一緒に流れていきました。
びしょ濡れの頭でコンビニを出て、駅へ向かって再び歩き始めます。もうテンションだだ下がりです。早く海が見たい、その一心で歩き続けます。
駅が見えてきました。そして、ちょうどタイミングよく電車がやって来るのが見えました。この電車に乗れば海――ではなく、家へと帰ることが出来ます。
私は改札を通り、駅構内へと入って行きました。さあ、悩みどころです。
行くべきか、帰るべきか……。
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