バスルームからデッド!?

揣 仁希(低浮上)

バスルームからデッド!?


 俺の名前は木森 林。

 木に森に林だ。


 正直、両親のネーミングセンス意味わからん。

 冗談でつけた訳じゃない事を願うばかり、今度機会があれば聞いてみよう。


 さて、バリバリの一流商社マンだった俺はすこーし調子に乗りすぎて地方に左遷された訳だ。

 で、とりあえず住むところを確保したのだが、そこにはリコちゃんという可愛い幽霊が住んでいたんだ。


 まぁ可愛いって言っても黒い靄がかかっていて顔ははっきり見えないんだけど、なんていうか、こう、雰囲気がめっちゃ可愛い。


 ふわふわしててほわほわした感じ?


 そんなこんなで俺は幽霊のリコちゃんと暮らし始めたんだけど……幽霊はリコちゃんだけじゃなかったんだ。



 という訳で我が家のリビング。

 リコちゃんの友達幽霊はお風呂場にいるらしく、ムフフな想像をしつつ覗きに行ったんだけど。


「なぁリコちゃん、なんか風呂場にゴツいのがいたんだけど?アレが友達?」


「はい、佐々倉五郎左衛門寿治郎さんです」


「あー、そういうやつね、なるほどねー、あー、うん、はいはい」


 風呂場で鼻唄歌いながらシャンプーしてたのはガチムチのおっさん、頭には矢が刺さってるオプション付き。


 そりゃあ前の入居者も逃げるわ、納得した。

 間違いなく逃げる。

 100パー逃げるわ。


 因みに鼻唄はオフィシャルな髭のプリテンなやつだった……


「あのおっさんていつも風呂場にいるわけ?」


「そうですね。お風呂好きって言ってましたから、大体お風呂場にいますよ」


「……あ、そう」


 とりあえず俺が風呂入るときは出てってもらおう。

 いくら幽霊だとはいえ、ガチムチのおっさん(落武者)と一緒に風呂入って何が楽しいねん。


「コトさんは地縛霊だそうで、お風呂場から出れないそうですけど……」


「除霊決定っ!!!」


「はわわわ、じ、しょれいはんたいですぅ〜」


 はわわわってなるリコちゃん可愛ゆし。

 まぁ俺に除霊なんて出来るわけないし、とりあえず保留で。


「拙者、佐々倉五郎左衛門寿治郎と申す。以後お見知りおきを」


「うわぉっ!顔だけ出すなっ!怖えよっ!」


 風呂場からニョキって落武者の顔ってホラー以外の何者でもないわっ!

 ってか、よく見たらヘッドホンしてるし?

 え?前の入居者が置いていったから貰ったって?


 あれ?幽霊って触れるわけ?


 そこのとこリコちゃんに尋ねてみる。


「えと、それはですね……」


 リコちゃん曰く、無機物には触れるそうだ。ポルターガイストも皿やコップを飛ばしたりするけど、人間自体に何かするわけじゃない、みたいな感じらしい。


 あー、だからおっさんシャワー浴びてたのか。納得。


 って納得出来るっ!ボケェ!


「コトさん若しくはコトちゃん♡と呼んでくれてかまわんでござる」


「死んでも呼ばねぇよ!!」


「ふふっ、拙者既に死んでおる故、問題なしでござる」


 くそぅ、変にドヤ顔のオッさん非常にウザい。

 ん?あれ?そういやなんでオッさんはこんなにはっきり見えるんだ?


 俺はリビングではわはわなってるリコちゃんを振り返ってみる。


 うん。やっぱり黒い靄がかかっててはっきり見えない。

 辛うじてメガネをかけてるのが分かるくらいで多分、きっと間違いなく可愛いことしか分からない(願望)


 それに引き換え……バスルームから頭だけ出てるオッさんはクッキリばっちりだ。


 やけに堀の深い顔にサリーちゃんのパパみたいな髭、ザンバラ頭に突き刺さる矢にヘッドホン。


 ウゼェ。


 まぁオッさんは放っておいて、そこのとこをリコちゃんに聞いてみた。

 結論から言えばよく分からないらしい。

 リコちゃんがここに来た時には、オッさんはもうあの状態だったそうで、入居者はみんなあのリアルなオッさんを見て逃げたんだって。


 そりゃそうだろうよ、俺だってリコちゃんがいなかったらこの部屋やめてたかも知れんし。


「って言っても私が来たのもつい最近ですので、ホントによく知らないんです」


「ふぅん?リコちゃんっていつここに?」


「えーと、半年くらい前だと思います。バスルームから……コトさんがあの状態で出迎えてくれて、心臓が止まりそうなくらいびっくりしました」


 リコちゃんが指す方には、壁から頭だけだしてヘッドバンキングする落武者が。


 ノリノリだなっ!?

 ……何聴いてやがんだ?


「あー、じゃあ入居者さんも?」


「はい、えと、あの感じで……歓迎したそうです」


 歓迎?


 なぁオッさんよ、壁から頭だけだしてガッタガッタにバンキングしてたら普通逃げるぞ?

 タチの悪いB級ホラー並みだぞ。


「あれって何聴いてああなってんだろな?」


「でぃーぷぱーぷる?って言ってましたけど」


「渋いとこきたな!?ってか中々いいセンス!?」



 こうしてノリノリでヘッドバンキングする落武者を横目に引越し2日目の夜は更けていった。


 因みにリビングの電気を消してみたら、廊下にボウッと髪を振り乱す頭が見えてマジでホラーだった。


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バスルームからデッド!? 揣 仁希(低浮上) @hakariniki

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