第4話 シウと休日
『Mia、1年ぶりの復活、新曲を公開』
その日、ずっと止まっていた時間は動き出した。
流れるままに気づけば4年生となっていた。春だった。桜はとうに満開で、あいつの歌だけがそこには無かった。それなのに神経を逆撫でするニュースに虫唾が走った。ふざけるな。あいつはもう居ないのに。あいつはもう死んだのに。あいつはもう歌わないのに。歌えないのに。
ずっとずっと繰り返している自分がいた。自分だけがここにいた。
「なあ、シュウ。」
「んー?」
大学が休みの今日俺はバイトばかりしているアキをとっ捕まえて連れ回していた。色々なところへ。服や雑貨を買いにデパートへ、いま流行りのカフェや気になっていたパフェのあった喫茶店。部屋に新しく飾ろうと思っていた花を探しに花屋にも行った。そして今は噴水のある公園へ。
「俺は今日何を付き合わされているんだ?...お前が『やばい』なんて文字だけ送ってくるからバイトを急遽休んで駆けつけたんだぞ!?」
「ああ、本当に助かったよ。朝ごはん作りに来てくれてありがとう♡」
俺はあの日ミントに再開してから3日間、大学へ行かず仕事ばかりしていた。寝ることも忘れた。そして今日までの3日間、水以外取っていないことに気づき気絶寸前でアキにメッセージを残した。近所に住んでいるアキは直ぐに駆けつけてくれたんだ。
「朝からバイトだなんてご苦労様、アキ。」
弟と妹が居て、両親が忙しいアキはいつも弟と妹の為に料理を作っている。そしてめちゃくちゃ美味しい。そんなアキの作った朝ごはんは実に質素だった。お粥と水のみ。3日間もご飯を食べなかった事を俺はめちゃくちゃに怒られた。
「全く、シュウったら、、」
彼女みたいな言い方をするアキがなんともおかしくって
「ふふ、へんなの、アキ」
笑みが零れてしまった。今日が晴れである事が、アキと肩を並べていることが当たり前だったのにどこかきゅっとした。幸せだな〜、俺は。
「へんなのはシュウだからな!?おまえ、ほんっとあと少し遅かったら!まったく!シュウは___」
〜♪
「…!」
遠くで歌が聞こえた。聞き覚えのある声だった。しかし聞き覚えのない歌だった。公園の周りをキョロキョロと見回す。
「シュウ、これ」
「あぁ、やっぱりアキも聞こえるか?」
「あぁ、お前が制作中はずっと家で流しているからな。イヤでも覚えるよ。」
「うっ...それはごめん。と、とにかくこの歌を歌っているのは誰だ?」
俺は歌の主を必死で探した。キョロキョロしているうちにパタリと歌が聞こえなくなった。誰だ、誰が歌っている?この声は.....もしかして.....?
「えっ」
休みで人通りの多い公園で見覚えのある姿があった。ミント色の髪色。あたたかい日光に照らされてキラキラしていた。...ミント色の髪色をしているやつだなんて俺はひとりしか知らない。
「ミント!」
「え、ミント?ミントってあの?どこに?」
呼んでも振り向かないミント色の髪色の男。聞こえてなかった?人が多いから?それともこのあだ名、本人には馴染みがないのか?えっと、あいつの名前、えっと.....あ
「ミシオ!」
名を呼んだ直後、ミント色の男が振り返り綺麗な瞳を驚きで見開いていた。
「シウ?.....シウじゃないか!!!」
「シウ?あぁ、ミオが話してたやつ?」
ミントの隣から声がした。ミントらが俺らの元へ駆け寄ってきた。
「おまえ、ひとりじゃなかったのか。」
「え、シウったらひどーい!僕はそんな寂しいやつに見える?ったくもう!こいつはミサ!僕の保護者みたいな大切な友人さ。」
「はじめまして、シウくんとアキラくん。結城 岬(ゆいじょう みさき)っていいます。」
「あっ、インシュタのmisa?」
「あ!俺のインシュタ、チェックしてくれてるの〜!うれしいな、ありがとう!」
「あ、いや、うん、アキが教えてくれて。」
「俺はシュウの友人兼保護者の洞木 暁(うつろぎあきら)だ、よろしく。」
「よろしくー!ミサキです!アキラくん!ねえ、俺もシュウくんとアキくんって呼んでいいかな?」
「えっ、あ、どうぞ。」
「俺も大丈夫。俺はミサキって呼ぶよ。」
結城 岬、なかなかの癖の強い美男子って感じだ。
「ねえ、ミサばっかり自己紹介しちゃってさ、僕の名前も聞いてよ!」
「はいはい、ごめんねミオ。」
「僕は栗花落美潮(つゆりみしお)です、よろしく。シウ、アキくん。」
「つゆ、り...って読むのか。ミント。」
「えー!シウ、さっきはミシオって呼んでくれたのに!」
「えっ、いやそれはお前が...」
「ミシオって呼んでよ!!!」
「わ、分かった、ミシオ。」
「ふふっ、よろしくー!シウ!」
「あぁ、よろしく。」
ミントこと改め、ミシオ。思った以上の、いやそれ以上になんだか掴めないやつだった。
「シウ、友人が出来て良かったな!」
「.....アキ!うざい、、!」
変なことを言うアキの胸にかるくグーパンした。
「痛っ」
でも、否定は出来ないな、俺の親しい友人って多分アキと幼なじみのハナちゃんぐらいだし。
「ふふ、何だかアキくんは俺みたいだね〜。」
なんてニコニコしているミサキ。ミシオは何も言わずにその光景を寂しそうに愛おしそうに眺めていた。ここにいるのに居ない、俺らを捉えているはずのミシオの綺麗な瞳はずっと違う何かを見ている、上手く言えないけどそんな感じがする。確かな理由なんてない。
「ねえ!シウ、アキくん、これから時間はあるかい?僕らに二人の時間をくれない?」
噴水のある公園のベンチに座りながら俺らは話をしていた。長らく外に居たから今はもう自分の部屋に帰りたくて仕方なかった。もちろんアキも道ずれだ。今日の俺の夜ご飯は保証される。
「嫌だけど。」
俺の間髪入れない返答にミシオは綺麗な瞳をまた見開いた。
「ひ、ひどい!シウ!君はひどすぎる!友達が少ないタイプだな!?」
「な!?ほっといてくれ!だいたい、まだ出逢って間もないやつにそんなこと言われたくない!」
図星をつかれた俺。言い合いを聞いて笑いを堪えているアキ。ニコニコと、不気味なほどニコニコしているミサキ。
「じゃ、それじゃあ。」
アキを連れてミシオとミサキに別れを告げようとしたそのとき
「きゃー!雨よ!」
「わっ!雨かよ!予報にはなかったはずなのに!」
なんて声と共に突如土砂降りの雨が降った。
「わ〜濡れちゃったね!」
「ここで1番家が近いのって...」
なんてミシオとミサキが話をしている。そしてうるうると二人ともの視線を感じた。
「................俺の家へどうぞ。」
先程の歌声が雨音をよそに今もずっと俺の耳に響いていた。
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