第22話 どこでなにを間違えたのか……

 首輪の解除も終わり、マリアンさんに連れられ、店の裏口に案内された。


「それじゃあ、気を付けて帰ってね」


「……はい、お世話になりました」


「カフェのお客さんとしての来店なら、いつでも歓迎するからね」


「そうですか……、それでは」


 心にもないことを言う笑顔に背を向けて、店をあとにした。

 

 外に出ると、いつの間にか空には暗雲が立ちこめて、海も灰色になっていた。



 なんだか雨が降りそ――



  ポツッ、ポツッ



 ――うわ、降ってきた。



 雨具なんて持ってないし、どうしよう。ああ、そうだ、カフェの隣のサーフショップに、寄ってみようかな。傘くらいなら、売ってるかもしれない。




「そのリーダーと他の中も最近ダンジョン探索者を辞めてこっちに来たんで、今度は俺が何か役に立てたらなーって」



 ……あの話だと、あの人って絶対にヒューゴさんだよね。

 なら、店に寄るのはやめておこう。ベルムさんを連れ戻そうとしていたなんて知られたら、きっとまた酷い目にあうから。さっきみたいに。



  パラパラ



「下らない見栄のために、ベルムをまた酷い目にあわせようとしてることは分かった」

「お前みたいなヤツらのせいで、ベルムがどれだけ苦しんだか……」



  パラパラ



「名を上げようとしたり、ベルムに認められようとしたりで、無茶な戦い方をして規則を破るやつも多かったそうじゃない?」

「ちょうど、君みたいにね」


 

  パラパラ



 雨の音に混じって、ルクスさんとマリアンさんの言葉がどこかから聞こえてくる。

 ……だって、仕方ないじゃないか。


 見栄なんかじゃなくて、僕の固有スキルは有能なんだ。

 他の奴が僕に合せて戦っていさえれば、どんなモンスターだって倒せるんだ。



  バラバラ



「そのおかげで、ターゲットの大型モンスターどころか、少し離れた場所にいた中型モンスターまでこちらに向かってきた」



  バラバラ



「同じ班になったとき、酷い目にあったもんな……」

「勝手に強い魔法使ったおかげで、さばききれないくらいモンスターがわらわら来たしさ」

「そのおかげで、回復もギリギリになってしまい、危うく全員命を落とすところでしたものね」



  バラバラ



 強くなった雨の音に、ベルムさんと、マルスたちの言葉が混じる。

 ……うるさい。

 上手くいかないのは、僕以外のヤツらが弱すぎるからだ。



  ザアザア



「……全部俺のせいだ。すまなかった」

  


  ザアザア



 ……ほら、ベルムさんだって、自分が悪かったって認めたじゃないか。

 だから、間違ってたのは、みんな周りのヤツらの方で、僕は全然悪くなかったんだ!

 

 でも、それなら、なんで……。



 僕の隣には、傘を貸してくれる人すらいないんだろう?




 

 雨に濡れたせいで、ローブが体中にまとわりついてくる。

 重い、寒い、足下がフラフラする。


  ガッ


「うわぁ!?」


  バシャッ!


 痛た……、ああ、石につまずいたのか……。

 さっさと、起き上がって駅に向かわないと。ここにはもう、用はないんだから。

 

 でも……、王都に戻ったところで、どうすればいいんだろう?

 

 パーティーに戻ってベルムさんは見つからなかったと言えば、きっとソベリさんに交渉の担当を任される。


 でも、他のパーティーの入隊試験を受けたって――


「ベルムのところをクビぃ? そんなやつ、雇えるわけねぇだろ!」

「周りとの連携が全く取れていない」

「うちではちょっと……」


 ――きっと、また落とされるに決まってる。


 周りと連携を取る戦い方なんて、いまさらできるわけない。



  ぐぅぅぅぅ



 ああ、そういえば、昨夜から何も食べてなかった。

 でも、身体が重いし、なんだかすごく眠い。


 目を閉じたら、身体がますます重く感じた。

 もう立ち上がるのも面倒だ。

 いっそのこと、このまま消えてしまいたい。

 

 どうせ、僕のことなんて、誰も心配しないんだから。



  ザァァァァァ 



「お父ちゃん、お母ちゃん、見て! 誰か倒れてるよ!」


「あら、本当じゃない! アンタ、うちまで運んでいくよ!」


「ああ、分かった!」



  ザァァァァァ


 雨の音に混じって、誰かの声が聞こえた気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る