第15話 Goodbye Happiness

15.

" Feelings 気持ち"


 私は師走に入り、後2週間でイブを迎えるという日に

息子を授かった。


 前日の午後辺りから痛みが出始め、夕方からずっと、痛みが続く腰を

母親がさすり続けてくれた。そして陣痛からくる呻きと脂汗、息を吸ったり吐いたりと、暗い夜を潜り抜け、ようやく我が子は明け方産まれ落ちた。


 待ちわびた瞬間を迎えた時の、何ともいえない気持ちが分かるだろうか。

 知らなかった感情。

こんな気持ちを経験できるなんて・・ほんとに素晴らしい瞬間だった。


翌日の午後から父親と姉が面会に来てくれ『よかったね、よく頑張った。おめでとう』と労い、祝ってくれた。


 名前は『亮』と決めていた。諸葛(亮)孔明にあやかって。

 その日から3人は交代ごうたいで毎日のように面会に来て

顔を見せてくれた。


 夫のいない子を産んだ心細い私だったけれど、3人が心細さを

埋めてくれた。


 4日めに来た時、母が言った。



 「景子、てっちゃんがね、亮が戸籍の上で非嫡出子にならないよう

認知だけじゃなくて、てっちゃんと婚姻届けを出さないかって。


 形だけでいいからって。もうてっちゃんもややこしい病気になっちゃったし、この先結婚も考えてないから、自分の戸籍使って子供を嫡出子にしたらどうかって言ってくれてるのよ。ただ景子が再婚する時に×がひとつ

増えるから、よく考えて決めろって。いろいろてっちゃんが景子や

亮のこと考えてくれて有難いわね」



 「おかあさん、てっちゃんにありがとうって言っといて。

 もう少し考えてみるね」


 「認知だけにするか、入籍するか、景子の気持ち次第だね」


 「うん」



 

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