file12 望まぬ再開



2026年5月24日 PM19:51

太平洋上空

VTOL内部

エックスレイ140らはユナイテッドリベレーターズと接触、空母天照へ輸送中



「ん!なんだ!?」


機体が何かにぶつかるような衝撃で目を覚ました信二は体を起こしハニーバジャーを取って周囲を見渡す。そしてコクピットから笑い声が聞こえた。


「ガハハハッ!VTOLは初めてだったか傭兵?こいつは着陸する時ちょいと揺れてな、まあ曲者だが米国海兵隊からのお墨付きも貰ってるから安心しな」


陽気な笑い声が響く中信二は修二にアイコンタクトを送った。

VTOLの船尾部分のハッチが徐々に開き、開き切るとスロープになったハッチを渡って全身が黒で統一されバイザーヘルメットを被った警備兵4,5人がUMP45を持ったまま船内に足を踏み入れる。


「お前たちが協力者だな」


黒ずくめの男がそう聞いてくる。


「想像力が豊かな奴が来たぜ修二、協力者だとよ」


「立派なモンだ、戦争が無ければ作家にでもなれたな。俺らはそんなんじゃねえ勘違いすんな!」


「まあ良い、負傷者はこちらで治療する、構わないな?」


「拒否権は無いんだろ?妙な真似しないなら目瞑っててやるよ」


信二はそう伝えると黒ずくめの警備兵は過労により気絶した尚人と脳震盪で意識が朦朧としたままの恵一を担架に乗せ運び出し、外で待機している医療班に身柄を渡した。


「武器はこちらで預かる、そのまま待て」


警備兵のうち一人がそう言って信二のハニーバジャーのスリングに手をかけた。


「手つきが引っ手繰り犯と同じだ、軍隊より刑務所の方が似合ってると思うけど」


信二はあえて笑みをこぼしながら警備兵をからかい始めた、得意の冗談で敵の冷静さを欠こうとしているのだ、実際彼はこれと同じ方法で隙を作り修羅場をくぐり抜けた事が何度かあった。


「それに高そうな時計だ、それも引っ手繰ったのか?」


ハニーバジャーを渡す一瞬の隙でその警備兵を観察する、視界から得られる情報を整理し敵対意志の有無を観察していた。


「ハンドガンも」


「一点ものだ、無くすなよ?あー違う、盗むなよ?」


信二はそう言って5-7のマガジンを抜いて警備兵に渡した。


「責任を持って管理する」


「わお、お前そのアホ面に似合わずそんなに器用な言葉が使えるのか。今日で一番の発見だ」


信二は更に煽りを続けた。


「ボディーチェックを」


警備兵はそう言って信二の体を触る、彼は内心苛立っていたがそれを気にしても仕方が無い、また彼も素人では無い為無駄に感情を露出させると足元をすくわれると知っていた。


「触り方がプロだ、風呂屋で働いてた経験でもあんのか?」


「煩い奴だ」


警備兵はいい加減信二の冗談をスルーするのに耐えがたくなりそう零す。


「じゃあ小声で話してやるよ、第一これでうるせぇってお前耳がかなり敏感みたいだな、性感帯なのか?」


「いい加減にしろ」


「お、怒った怒った」


「異常無し」


警備兵はそう言うと修二の体に触れ始めた。


「おい、お触り禁止だぜ?」


修二はそう言ってMEUピストル2丁を彼の元に差し出した。


「こちらで預かる」


警備兵は信二から受けた侮蔑の腹いせとして2丁のMEUを奪い取るように取り上げてからマガジンを床に落とす、当然修二は立腹した。


「おい扱いが雑だぞ!クソガキ」


修二の罵声を裏に彼は背後の兵士に渡した。


「ガキはどっち?」


「お前!?」


二人はその聞き覚えのある声に動揺した。


「雛姫!?お前なのか?」


信二が聞くと警備兵の背後から修二のMEUを受け取りそれを眺めていた雛姫がいた。


「お前、一体どういう...?」


信二は震える手を雛姫の肩に置いた。


「おやおやワガママお姫様の登場だ」


修二は視線をずらしながら鬱陶しそうに呟く。

雛姫は信二の手を払いのけると空母の艦橋の方を親指で指さす。


「触らないで。司令があなたに話があるそうよ、ついてきて」


「分かった」


信二はそう言って歩き出した、大成学会の情報を引き出すチャンスと踏んだのだ。


「話が早いわね」


「ああ、お前の頭の回転には負けるがな」


「フン」


信二は嫌味ったらしく言うと雛姫は鼻を鳴らして修二の正面に立った。


「それで、いつ俺の得物を返してくれんだ?」


修二は腕を組み雛姫に問いかけてみた、どうしても気がかりだった。


「私たちに協力するならいつでも」


「冗談被りたいね、兵隊の頭数だけが取り柄の素人に振り回されるなんて」


雛姫は自身が所属する組織を侮蔑されたことに立腹しmMEUのスライドを強く握った。


「おい、そんなに強く握んなよ!痛がってんだろ」


「たかがチャカ一つに何ムキなってるの?」


雛姫は目を細め修二を睨み付ける。


「たかが?肌身離さず持ち歩いて何千回も俺の命を守ってくれた物をたかがだって!?」


「銃なんて消耗品よ、一点物に拘る必要があって?」


修二は思う事を思うまま話そうと口を開いた、しかし彼の加虐欲がそれにストップをかけ代わりの言葉を用意した。


「まあ、たかがチャカ一つを大事にできない奴なら、チームメイトも大事に出来ないよな!」


修二はほくそ笑みながら、可笑しな物を馬鹿にする小学生のように大声で言った。


「なんですって?」


背を向けていた雛姫の長髪が振り乱れた、こちらを睨み付ける。


「なあ諜報員さんよ、味方は全滅した理由なーんだ?」


修二は無邪気な子供の目で雛姫に問いかける。


「その話、どこで聞いたの!」


「質問に質問で返すな!答えはチームメイトを消耗品扱いしたからさ、銃みたいに」


修二は雛姫の髪を掴み嘲笑するように言う。


「やめて」


「どんなに取り繕っても無駄だよ、結局お前は自分の心の奥底に仕舞い込んだ物に触れてくれる人間以外には対した興味も持てないし、大事にしようとも思えないんだろ?」


雛姫の核心をつく、修二は彼女と過ごしたほんのわずかな時間で彼女の本質に迫る事が出来ていた、仕草、話し方、あらゆる行動を息をするように分析していたのだ。


「やめて」


「お前に取って大切な物は三つ、或いは二つ、それ以外には興味が無いんだ」


「違う」


「なら反論しろよ、どう違うのか教えてくれよ。答え合わせを始めようぜ?」


「うるさい!!」


ついに雛姫は叫び両手に握ったMEUを勢いよく地面に叩きつけた。MEUは衝撃で分解され部品や破片をその場に散らせる、気がつけば周囲は緊張した雰囲気に包まれていた。


「チッ、てめぇ流石にやっていい事と悪い事があるだろうよ」


修二はそれまでの態度とは一転して獲物を狙う虎のように雛姫を睨む。


「それはアタシに言ってんの?それとも自分に?」


「てめぇだよ、そこのサイコパスの雌犬に言ってんだよ」


修二と雛姫は一触即発の状態となり互いに睨み合っていた。


「伍長、その辺にしておけ」


後ろから雛姫と同じ格好の警備兵が雛姫の肩を叩いた、一方修二を静止させたのは背後から向けられたUMPの銃口だった。


「全身ぶつ切りにして犬に食わせてやる、クソ女!」


「へぇ楽しみね」


修二は怒りを堪えるのに必死だった、遮蔽物も無く全方向から銃口を向けられている状況では戦えない。


「そこの二人は医務室へ、検査の後司令と面会させる」


雛姫はそう言ってその場を去ろうとしたがまたもや先ほどの警備兵に肩を掴まれる。


「あの男とは訳アリか?」


「ええ、深い関係では無いですが」


「そうか、でもあの態度は頂けないな、軍人ならいかなる時でも冷静でいなければ」


雛姫はその一言で我に戻り途端に自責の念に襲われる。


「それに、いくら銃とは言え他人のものだ、別にこの件を処分する気は無いがこれからどうするかは自分で決めろ、これは組織どうこうでは無く人としての問題だ」


「はい、中佐」


隊長と呼ばれるその男性は右手を雛姫の肩に乗せて諭すように言った、雛姫はこくりと頷き敬礼をしその場を立ち去った。


「ほら歩け、宿舎で待機してもらうからな」


修二の背後の警備兵はそう言って彼の肩に触れた。次の瞬間修二は八つ当たりと言わんばかりに即座に振り向いて膝で金的を食らわせて肘で首元を打った。


「何をしている!」


周囲の警備兵は10人がかりで暴れる修二を取り押さえてスタンバトンで彼を押さえつけると手錠をかけ複数人で信二が向かっている兵舎へと連行していった。

道中彼は延々と叫んでいた。








2026年5月24日 PM20:34

太平洋上空

空母天照居住区第二ブロック

エックスレイ140らはユナイテッドリベレーターズ空母天照へ到着、居住区自室にて待機中



「クソったれが!」


修二は獣の咆哮にも似た怒声を発しながら部屋の壁を殴った。


「馬鹿野郎!馬鹿野郎!」


修二は怒声と拳を壁に打ち付け続ける、信二はその横で雑誌を読んでいたが修二の怒声に遂に耐えきれなくなり部屋の角に設置されたデスクへ向かいそこに置いてあった封がされた耳栓を取りだす。


「ハァ、ハァ、わりぃ」


信二が耳栓をしようとしたタイミングで修二は壁殴りをやめて息を切らしながら一言謝罪した。


「もう気が済んだか?」


信二は耳栓をデスクにおいて壁にもたれかかってまた読書を再開して言った。


「いや、その時が来たら殺してやる、全員だ!」


「少しだけ我慢してくれ、もう少しすればどうなるか分かるさ」


信二がそう返すと居住区の扉が開いた、そこに立っていたのは雛姫と複数の重装備の警備兵だった。


「一緒に来てもらうわ」


雛姫はそう言うと右手の親指を右側に倒しこっちへ来いと言わんばかりに首を右に傾ける。


「やけに丁重なお迎えだな」


信二は雑誌をデスクの上に投げて腕を組み言った。


「誰かさんがうちの兵士を傷つけたみたいでね、あと一歩遅ければ全身麻痺だったそうよ、タマも二つ潰れてたってさ」


「やるな」


信二苦笑いの表情で修二を見てそう言う。


「ああ、バカの遺伝子を残せないようにしてやったんだ、人類全体への貢献さ」


修二は腕を組んで誇らしげに顎を上げた。


「アンタらのタマを切った方が、よほど貢献できると思うけど?」


壁にもたれかかり腕を組む雛姫が言う。


「てめぇの子宮一つ潰した方が余程有益だと思うけどな」


修二はそう呟いて彼女の後に続く。信二も共に部屋を出た。

宿舎エリアから一本の横幅のある通路をひたすら歩く、5分ほどしてから雛姫はリフトを指差した、上階へ上がる為のリフトだ。


「乗れ、と?」


信二は腕を組んでそう言った。


「そう、ここが一番の近道だし」


「出来れば帰り道の近道に案内してほしいね」


信二はそんな小言を言うとリフトに入りフェンスに手をかけた。


35秒の後に艦橋付近に到着する、艦橋付近は小さな娯楽スペースのようになっており多くの兵士たちが映画や麻雀、ビリヤードに興じていた。


「へぇ、楽しそ」


修二はそんな彼らを見つめてそんなことを零す。

雛姫はそんな兵士たちを横目に艦橋へ続く重い扉の前に立ちインターフォンとして機能するタッチパネルに手をかけた。


「藍沢雛姫伍長、只今参りました」


艦橋へ続く扉のロックが解除された、彼女は扉のレバーを下げて扉を開く、彼女から見えるのは数えきれないほどのモニターと、艦長席に座る壮年が一人だ。

艦橋内部へ入室した雛姫は一度敬礼をすると艦長席へ向かった。艦長席は吹き抜けになっており下の階には多くのコンピューターとそれを制御するオペレーターであふれかえっていた、多くの作戦をここで指揮することになるのだろう。


「大島艦長、残りのメンバーを連れてきました」


雛姫はそう艦長席に座る大島に耳打ちした、大島はゆっくりと椅子を回転させ何も言わずにその場から立ち上がり入り口前で待つ信二と修二の元へ歩み寄っていった。


「君が古瀧信二君か、随分と立派になったものだね、こちらへ」


大島はそう言うと入り口の真右に位置する海洋扉のレバーを引いて扉を開きそこへ入るよう信二らを手招きする。


「お前の知り合いか?」


「さあ、恐らく古瀧信二っていう同姓同名の親戚がいるだけだよ」


信二は修二の問いに冗談混じりで返すとその一室へと足を踏み込む、そこはモダン調で落ち着いた雰囲気の10畳ほどの会議室だった。


「やはり話し合いというものはこう言った雰囲気の部屋で行った方が良いと思ってね、かけてくれ」


大島がテーブルを手で示すと信二は長方形の会議用のテーブルを視界に入れる、そこには顔半分を包帯で覆った恵一と、疲労が全身に表れている尚人が不貞腐れたような顔で座っていた。


「お前ら無事だったか」


信二が言うと恵一は顔を伏せて一度鼻で笑った。信二と修二は椅子に腰掛け会議用のテーブルに体重を乗せると大島はテーブルに座った信二らに資料を渡していく。資料を受け取った面々は軽く資料を数ページめくって軽く文章を目で流し大島を見た。


「話を始めよう、とその前に自己紹介を。私はユナイテッドリベレーターズ第6艦隊司令官兼旗艦天照艦長の大島宗次郎だ、そして実はそこの古瀧信二くんとは深い関りがある」


大島は資料を配り終えると彼らのテーブルの脇に立って話を始めた。


「深い関り?」


「カマ掘りあった関係ってことじゃね?俺は心当たり皆無だけど」


修二が信二に耳打ちすると信二は下品な冗談で返した。


「まさか忘れた訳じゃないだろう信二くん、僕は君の命の恩人なんだぞ?」


大島は何か面白おかしく隠し事をする子供のような口調で信二の目を見た、信二はその一言を聞きとある情景が脳内に浮かんできた。


「4年前の皇国ホテルで俺を助けてくれた人か?」


信二は少しの間顎に手を当てた後何か閃いたように勢いよく椅子から立ち上がり大島を見た。


「いいや、だが私はあの作戦の時指揮を担当していた」


大島の回答は意外なものだった、それだけのことで知り合いの面構えで話してくるのだから。この瞬間信二はこの大島という男に不信感を抱いた。


「あの時我々は黒田とシナプスの暗殺及び大成学会の研究レポート入手を目的としていた、そこで偶然彼を見つけてな」


「シナプス?」


大島がそう続けると信二が手を挙げた。


「ああ、君を撃った少女のことだ、正式名称は試作型戦略統括GMHだ」


「GMH?一体何の事だ?」


信二はまたもや手を挙げた、一つ謎が解消されてはまた一つと謎が湧いて出てくる。


「うむ、それは資料の12ページに記載がある。そこまで飛ばしてくれ」


信二たちはページを12ページまで飛ばすとそこには凄惨たる写真が何枚かプリントされていた、内容としては信二と同年代程の女性が全裸のまま男に犯される写真、5歳ほどの少年の遺体が積み重なっている写真といった物だ。


「ちょ、これは!?」


尚人が口を押えて大島を見ると大島は一度頷いてから口を開いた。


「うむ、これは全て大成学会の実験だ、GMH計画...人間の遺伝子組み替え技術の軍事転用を目的とした計画だ。元々遺伝子組み換え技術は2018年に確立された人間の治療法だ、人間の遺伝子の一部を組み替える事で先天的若しくは後天的に欠損した手足の回復、重度の障がいや末期癌、難病等への治療に期待されていたのだが...」


大島はGMHの説明を続けながら壁際に寄り壁の戸棚に置いてあった煙草を一本取り口に加えた。


「皮肉なもんスよね、人を治す技術が人を殺すために使われるとか。ところでそれ一本良いスか?」


次に口を開いたのは恵一だった、恵一は煙草を指さすと大島は煙草を箱ごと恵一の目の前に置いた。


「構わんよ、我々と共に戦うというのであればね。友好の印として渡そう」


恵一は満面の笑み煙草の箱まで手を伸ばしたが大島のその一言を聞くと真顔に戻り手をそっと引いた。


「賢いな、得体の知れない軍隊とやらに協力するくらいなら煙草一本我慢したほうがマシってことを弁えてやがる」


信二は恵一にそう言って大島を見た。


「得体が知れないなら君に知ってもらおう」


大島はそう言って机に手をついた。


「我々ユナイテッドリベレーターズは人類の文明や社会そのものが脅かされた際、それら脅威を対処することを目的に設立されたいかなる国家組織にも属さない軍隊だ、それゆえに我々は国家間の関係や問題などを無視して任務に集中できるという訳だ。現在は打倒URFのために世界各国で活動している」


「簡単に言えばテロリストとかヒーロー集団みたいな物か、そこまでして戦う理由なんてあんのかよ?」


テーブルに肘をついてつまらなそうに話を聞いていた信二は一度鼻で笑ってそう言った。


「全く別物だ、我々を卑劣なテロリスト共と一緒にされたくないね。戦う理由はあるとも、我々は脅威そのものを取り除くために戦う。分かるだろう?」


「わかんねぇ、つか帰りてぇ」


信二はポケットに入れていたチューインガムを探しながらそんな風に答える。


「今現在あらゆる国家はURFに侵略され続け世界の地図が赤色に塗り替わっているんだぞ、それなのに国際保安連合という名ばかりの組織に加入している国々は何も手を打たず自国を守ることばかりに夢中になっている、頼りになるのは我々のみだ、我々は人類の尊厳と権利を守る最後の砦なんだよ」


大島は信二の瞳を真っ直ぐに見つめてそう言った。


「我々が奴らを打ち滅ぼさずにこのまま時が経ったらどうなる?今の日本を見ていれば分かるだろ?大多数の人間は一部の人間の独善的なエゴと思想の奴隷になる事なんて目に見えているだろう?」


大島はそう続けた。


「そうなんだな、でもお前がいくら綺麗ごとを並べてもまだテロリストにしか見えないな、多分軍隊ってのは国家に所属して然るべきっていう俺の先入観のせいだと思うけどさ」


信二が言うと大島は一度大きくため息を吐いてから目を瞑って深く息を吸った。


「まあ無理もない、それより大きく話が逸れてしまったね、本題に入ろう」


大島は椅子を引いてテーブルの貫の方に座ると手を顔の前で組んだ。


「今の話から察するに、無理だとは思うが単刀直入に言うと君たちに我々ユナイテッドリベレーターズに加入してもらいたい」


その大島の一言に恵一は動揺した、しかし信二は何食わぬ顔でテーブルに肘を付いていた、一方尚人は席から立ちあがり大島の反対側の貫の方へ回り深々と頭を下げた。


「その一言を待っていました、喜んで加入します」


「ちょ、お前勝手過ぎだろ!」


修二が焦り口調で机を叩いて尚人に言う。


「勝手でも構わない、だけど君たちといるよりは良いさ。大成学会と戦いたい、でもこれ以上一線は超えたくない」


「勝手にしろ。そうやって中途半端にやって、勝手に死んで行け」


尚人の眼は決意に満ち溢れていたが修二は彼の思想が薄っぺらいと感じて手を引っ込めた。


「でもよそれで良いのかよ信二?」


恵一も焦りを見せて信二を見た。


信二は少しの間目を瞑り下を向いた。


「俺は断るね、でもここにいたい奴はここで戦えば良い」


信二は目を開いて他3人を見て言った後にゆっくりと立ち上がり海洋扉に向かって歩き出した。


「おいそれで良いのかよ信二!」


恵一は信二の腕を掴み半分怒鳴り口調で信二に聞いた。


「良い損切だ、口だけの奴は要らない。お前はどうする?」


信二が言うと恵一は立ち上がり下を向き口を閉じた。


「俺は信二と行くぜ、これ以上信用できる奴も馬が合う奴もいないしな」


修二はそう言って席を立った。


「では君の戦う理由とやらを聞かせてもらいたいね、信二君」


大島の一言で信二は扉の前で足を止めた。


「俺は大成学会を壊滅させたい、それだけだよ」


信二はそう言うと扉のレバーに手をかけた。


「ならなぜ私と来ない?倒すべき敵は同じはずだろうに」


大島は部屋一杯に声を響かせて怒号に近い声で信二に聞く。


「うるさい」


信二は小声で言ってレバーをひねろうとした。


「なぜお前は一人で戦おうとする?相手はお前一人くらいの力じゃ倒す事なんてできないんだぞ!」


「黙れ」


「一人で戦うことこそバカげているとは思わないのか!そう言ってお前は4年前みたいに一人で死んでいくのか?」


「そうかもな!」


信二はついに大島の怒号にも似た問いかけに耐えかねて怒鳴り返した。


「ああそうかもな!俺は一人で戦って一人で死ぬかもな、それでもアンタに従って犬死するよりはよっぽどマシだね」


「俺の部下が犬死したっていうのか!」


大島は信二の怒声に怒りを覚えて更に声を響かせる。


「あぁそうさ、たかだかドームを襲った程度で大成学会に反撃出来たとでも思ってるのか?」


「得た物は...」


大島はそれだけ言うと下を向いて黙り込んだ。


「何も無いな...行くぞ修二、」


信二はそう言ってレバーを下げた。


「得た物はある!」


またもや大島の一言が信二の足を止めた。


「名古屋を攻撃を公表してから我々の軍に志願する者は数え切れないほど増えている、それだけ我々は期待されている、それだけ今の世の中を変えたいという人間がいたんだ!そして勇気を持って一歩踏み出したんだ。それだけだ、だが数は力だ。大成学会は勝てる相手だ」


「勝てる相手?」


「そうだ、我々なら大成学会を倒す事ができる。我々だけが大成学会を倒せる」


大島は席から立ちあがり信二の元へ歩きながら自信に満ち溢れた様子で言う。


「俺には倒せないと?」


信二は振り返って大島に聞いた。


「たった数人では無理だ。我々と共に戦わない限りは不可能に近いだろう、そして君がいなければ大成学会は倒せない。我々は君のような強い志を持つ人間を欲しているんだ!頼む、一度だけで良い、信用してくれないか?その後はどうしてくれたって構わないさ」


大島は信二の正面に立って右手を出した。


「俺が必要?」


「そうだ、君はこの国で唯一黒田に間近まで接近できた男だ、その執念は誰よりも強く、憧れる」


信二は鼻で笑い数秒考えたのち右腕を出した。


「分かったよ、口車に乗ってやる。一度だけだ、裏切るなよ大島」


「ありがとう、信二君」


「言っておくが俺はお前の駒に成り下がる気はないぜ?」


「構わんよ、私も君のような人間を手懐けれるほどのスキルは無いからね」


二人は互いに目を見て手を離した。恵一はそれを見て安堵したのかその場に座り込んで大きく息を吐く。


「では君たちの所属を決めよう、明日までに参謀本部から所属先の部隊が決定するはずだ」


「なら意見させてもらう、俺たち全員は固めるべきだ。このメンバーで生き残ってきたしな」


「一部例外はいるけどな」


修二は信二の横に出てそう補足した。


「なぜだ?」


「二人ほど問題児を抱えているが連携力は抜群だ。訓練抜きで即戦力になれる」


信二はそう言って部屋の隅で壁にもたれかかっている雛姫を親指で指さした、大島は大きく頷いた。


「それに戦場で育まれた友情ってのは中々切れないもんだぜ?」


信二のあとに恵一がそう続ける。


「分かった、君たちの意見を飲むこととしよう。ちょうど一つ、君たち向けの部隊があるものでね」


大島は渋々言って信二を見る。


「小隊?どういう事だ?」


信二が問うと大島はテーブルに両手をついた。


「第5独立工作部隊、通称ウォーアッシュだ。古瀧信二、君にこの隊を任せる。今は君が適任だろう。元々君にはこの部隊が最も適所だと思っていたしな」


大島は本棚にしまってあったサンプルブックから一枚ウォーアッシュのワッペンを取り出し信二に渡した、髑髏の右半面が灰になって吹かれているようなそのワッペンを受け取り何度か頷いた。


「部隊の規模は?」


「15人3分隊編成だ。荷が重いか?」


「中学のクラス委員長の時よりは楽できそうだ」


信二は皮肉を言って海洋扉へと歩き出した。


「コンバットギアの採寸とIVASの訓練時間は追って通達する」


「戦争はVRゲームとは違うからな、カンが頼りなんだよ、だろ信二?」


修二は率先して拒否する。


「機械任せは三流、機械を使いこなすなら一流。俺らには不要だ」


信二は誰かの言葉を引用し4人でブリッジを出た。

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