File7 単独行動
2026年4月31日 PM23:02
首都東京
旧東京都 池袋
国営経済振興センター地下駐車場
24時を回っても騒がしいショッピングセンターの地下駐車場で、修二は車内のスピーカーから車両が震えるほどの爆音でパンクロックを流しバタフライナイフを回していた。
「おい、おいお前」
高級そうなスーツで着飾った男が86のドアガラスを叩き修二を呼ぶ、修二は舌打ちをしながらプレーヤーを閉じウィンドウを下げて男を見る、それも温厚そうな顔で。
「はい。なんでしょう?」
「そんなに大音量で音楽を鳴らすな貧乏人が!お前のような奴が国をダメにしてるんだ、少しは会員としての自覚を持ちなさい!」
修二は老人の妄言と唾を顔面に受けながら座席の下に隠したピストルを抜きたい衝動を必死に抑えていた。
「すみません、以後気をつけます」
「分かれば良い」
男はそう言って高級な外車に乗り込み駐車場を後にした。
「ガタガタガタガタうっせぇな。少なくとも俺はてめぇより稼いでんだよバカ死ね」
修二はぶつぶつと暴言を零しながらウィンドウを閉めて大きく息をついた。
「それにしてもきったねぇ車だな」
修二は先ほどの男の愚痴を吐き出し座席にもたれかかった。沈黙が少し続いた後に携帯が振動する、信二からの合図だ。
「はいよ俺だ、どうした?」
修二は怠そうに着信に答える。
「作戦開始だ、頼んだぞ」
「任せろ。俺を誰だと思ってんだ、じゃあ後でな」
修二は言って電話を切るとサイドレバーを下げシフトレバーをDに入れた。
軽く微笑みウィンドウを下げパンクロックをもう一度爆音で響かせると駐車場の出口へと向かっていた、一度精算機前で停車し偽の会員証を機械にスキャンさせた、レバーが上がり86はスロープを駆け上がっていく、時速80キロで車道に飛び出し一直線にターゲットの元へと走り出して行った。
夜風を感じようとウィンドウを少し開けて首と目を覆うほどの髪をしばらくなびかせる。
「恵一俺だ、聞こえてっか?」
「ああ、感度良好。サポートするぜ、よろしくな!」
「じゃあ早速だがドローンオペレーターに連絡、ターゲットを追尾させろ。お前は敵の検問情報を調べろ」
「もうやってるぜ」
「仕事が早いねぇ、お前が女だったら惚れ込んでるぜ。じゃあ後でな」
修二は言ってアクセルを踏み込んで街を突っ切ってから目標地点手前の路上に停車し腕を手前に伸ばしてかから助手席の足元に隠した折りたたみ式ストックが装着されたKeltec P50を取り出して弾薬を確認した、そしてもう一度座席の下に隠すとシフトレバーの横に吊るしていたガスマスクを取り出してガスフィルターを交換した。
「安物だったしな、フィルター汚れてんのも無理ねぇか」
修二がそんな風に零していると左耳のインカムに雑音が混じった、無線が入ったのだ。
「修二、動き出したぞ。護衛車両4、軽装甲車輌だ。」
「オッケーだ、空爆は高速道路まで待て。追跡を開始する」
修二は徐行して発進し相手に勘繰られぬよう車間距離を十分に取ってターゲットが乗っているロビーカーとその周囲の車列を追った。
「恵一、あのキャンピングカー擬の武装は?」
「セントリーガンとアクティブディフェンスシステムだ、まあEMPで止めりゃ問題無いだろ」
「まあ、そうだな」
修二はそんな風に言いながら車両の追尾を続けようやく高速道路に入った、しかし不穏そうな恵一の息遣いが左耳から入ってくる。
「マズいぞ修二、敵の動きがおかしい。東京方面の治安維持部隊と即応部隊が大量に展開してる。ヤバい、検問の数も増えてきた」
「クソ、シクったか。でもなんで?」
「修二、信二の方もマズいことになってる。アイツら囲まれてるぞ!」
「信二がミスったのか?」
修二は事の重大さを悟ってカーオーディオを切ると戦闘に備えた、しかし修二は気取られてるとは思えなかった。
「信二がミスるなんて考えらんねぇ、多分尚人かあの女だ」
「考えるのは後だ修二、とりあえず引き上げるか?」
「馬鹿野郎クライアントはテロリストだぞ、シクったら何されっか分かんねぇ。敵増やすのはごめんだ」
その回答に恵一は固唾を飲んだ。テロリスト、その見解は大成学会と彼らの間で一致していた。
「それに信二はどんな時でも諦めねぇ。アイツはそう言うタマだろ」
「分かった、なら続行する。あと検問の数がやたら増えてやがる。大体のインターチェンジに張ってやがる」
恵一から連絡が入った次の瞬間車列の軽装甲車がサイレンを鳴らしパトランプを光らせて速度を上げていった。警戒態勢に移行したのだろう。
「畜生」
「修二引き離されんな!」
「分かってる!ドローンオペレーターに連絡、攻撃態勢に移行!俺の合図で撃てと伝えろ!」
修二はアクセルを踏み込んで車列を追う。
「こちらは大成学会治安維持部隊、現在警戒態勢に移行中につきこれより警備車両50m以内に接近する車両は攻撃対象とします。至急路肩に寄せて停車してください」
大成学会の軽装甲車がスピーカー越しに警告を流した、勝ち目が無いことを確信した修二は一度停車し怒りに任せて拳をハンドルに叩きつける。
「畜生!」
「ドローンはいつでも行ける、どうする?」
「今攻撃すれば民間人による混乱で逃げられる!俺に手がある。こっからはアドリブで行くしかねぇが着いて来れるよな?」
「やるしかねぇならやるだけだ!」
恵一が気合を入れたのかテーブルを叩く音が聞こえる、修二も自身に喝を入れるため髪を止めていたヘアピンを全て取り外しもう一度アクセルを踏み込んだ。
「ちょいちょい!どこ行くのさ!?」
「次のインターで降りる!オペレーターのファイアコントロールを俺に投るように伝えろ!」
修二は無線でそう呼びかけると右の車線を高速で走り抜ける、その間恵一は修二の車内に設置されたタブレット端末から自身のコンピュータをリモート操作できるように回線を繋いだ。
「リモート接続完了!」
「ご苦労さん」
修二はタブレットから地形情報を開いて位置をマークした、そして右下の(fire)と書かれた枠をタップする、次の瞬間空を切る轟音と共に空対地爆弾の1発が検問所で爆発し破片と肉片の雨を降らせた。
「おいおいおい正気かよ!」
「ンな訳あるか!」
炎の中を突っ切る修二を視認していた恵一はその大胆な行動に肝を冷やす、しかし修二は至って冷静でそれが最善策であると踏んでいた、彼は臨機応変の対応に自信があった。
炎を纏った車両は別の道路に出るとさらに加速を続けている。
「恵一、俺は良いからターゲットの動向を監視しろ!」
「了解」
「ターゲットの場所は?」
「お台場方面に移動中!おそらく緊急高速道路を使っている」
緊急高速道路は大成学会の軍事作戦や要人護送の為に使用される簡単な高速道路だ、一般人が立ち入ることはできないがそこは爆撃にも耐える外壁に覆われて一本のパイプのようになっているだけで無く電波妨害も行われている。
「出口付近を見張ってろ」
修二はターゲットと併走することを目的としていた為緊急高速道路の天井のようになった作りの道路の路肩に停止し銃撃戦用の装備を確認していた。
「修二、下道に出たぞ」
恵一の報告を聞くと即座に発進し速度計を右に振り切った、体が座席に叩きつけられるような感覚が来る、ハンドルが小刻みに左右に震える。
「爆撃地点セット!EMP、巡行ミサイル準備よし」
修二は震えるハンドルを右手だけで押さえつけながらカーブ手前の道路の路肩と車両付近にポインターを合わせた。また攻撃用のドローンが正確に爆弾を投下するとコンクリート片と爆炎が空を待って地上に降り注ぐ。
「ターゲットの位置は!?」
「爆撃地点にはいた、でもお前が狙ってたのは一個上の道路だぞ!」
「それが狙いだ!」
修二は爆発によって生まれた穴に車両ごと突っ込み宙を待った、真下の道路にロビーカーが見えたその時彼は勝利を確信する。
「やったぞ!」
「自殺する気か!」
修二はEMPを起爆させガスマスクを装着し助手席のP50のストックを構えるとフロントガラスに向けて発砲した、そしてガラスを撃ち破ると破片の逆方向に向けて飛び出しボンネットを踏み台にしてロビーカーに飛び乗った、車列は停車している、電子制御で動いていた車両だった為EMPにより停車したのだ。またこれならセントリーガンから攻撃を受けることもない。
「チェックメイト」
腰に携えたブリーチングチャージを排気口に設置、起爆し突破口を開くと車内に降り立った。
「こんばんわ〜」
修二はMEUを両手に構え不敵に笑った、警備部隊は手練れなのか即座に状況を把握、ターゲットの夫妻を後方に避難させ車両内部のソファをバリケードにして迎撃態勢を整える、しかし修二はそれよりも早く銃撃と格闘を組み合わせた独自の戦法で警備兵に食らいつく、MEUをホルスターに収めサブマシンガンの銃口を下げさせて腕にナイフを突き刺す、そのままその一人を盾にして後方の二人を射殺。
「あと11発」
そして地面を滑り銃撃を回避しながら後方に展開していた兵たちに接近、右のMEUをホルスターに収めて警備兵の股間を殴打、一瞬姿勢を崩した隙を見てバタフライナイフで喉元から口内を貫通させるとその兵士の首元に両足を絡め地面に倒れ込みながら左右に展開していた警備兵の眉間をヘルメット越しに撃ち抜き最後に支柱にしていた兵士の頭部を破壊しナイフを引き抜いた。
「左1発、右6発」
残弾を数えながらテーブルを遮蔽にして銃弾を避ける、兵士の方から接近してくるのが分かった為包囲される寸前まで待つ、足音が段々と大きく響くようになる。未だ。そう修二は確信するとテーブルから身を乗り上げる、と同時に一人の警備兵の胸を強く蹴り一時的に無力化する、もう一人の兵士がナイフを取り出して接近戦を挑んできたのが分かった為ナイフを受け止め首を掴んだ。
「あッグッ...」
呼吸は奪っていない、喉仏を強く握り絞めてへし折るとそのまま喉を平手で打った。
「ギキャッ」
砕けた喉仏が喉の気道や血管を切り裂いた、そのまま先ほど蹴り上げた兵士を左のMEUで止めを刺す、MEUピストルスライドが後方で止まるとホルスターに収めて左手でバタフライナイフを構えて喉を潰した兵士にとどめを刺すと走りながらさらに奥へと急ぐ。
そしてついに夫妻に接近する。妻の方が悲鳴を上げたのが分かった。
護衛はあと4人、修二は銃撃を壁蹴りで避けて接近し2発発砲、しかしその2発のうち1発は護衛の片腕に当たりもう1発は外れた、後方にターゲットがいるため集中して射撃しなければ無かったが土壇場に集中するのが苦手な彼は安定して照準を定められなくなっていた。
「あと3発」
銃撃をひとまず柱で避ける。次は接近してこない、更に相手は機銃で発砲してくる。
「修二!聞こえるか?」
無線が回復し恵一からの連絡が入る。
「ああ!今取り込み中だ!あとで折り返す!」
「修二、護衛部隊が突入準備をしている!特殊部隊もそっちに向かってるぞ」
「クソったれ!」
修二はそう叫ぶと足元に転がっていたシャンパンの瓶を警備兵の元に蹴った。
LMG持ちのヘルメットに当たりシャンパンが一体にぶち撒けられた。
それを目眩しにした修二は体を乗り出して伏せようとしていた二人を殺害、他の二人にも発砲したが防弾ベストに防がれた。
「残り1発」
修二はバタフライナイフを投げて相手のうち一人の腕を無力化する。そして最後の1発で奥の方でうずくまっている夫妻の頭上にある電灯に発砲、また目眩しを試みて身一つで飛び込んだ。
「後ろだ!」
警備兵の一人が叫ぶ、後方に向いた瞬間修二は夫を羽交い締めし肉の盾のようにしたため警備兵らは夫の方に銃を構えていた、そしてその奥で修二が不敵に笑い手榴弾のピンを見せる、次の瞬間強烈な閃光と鼓膜が破れそうな程の金切り音が車両全体に響いた。
「ウッ」
警備兵二人が次に目を開けた時には目の前には赤一色が広がり視界が黒く縁取られていた。修二が閃光弾の爆破と同時に彼の喉を切り裂いていたのだ。
「フゥ」
修二は息をついてリロードすると夫妻に簡易手錠を後ろ手ではめると足の裏で地面に伏せさせた。
「一緒に来てもらうぜ?」
二人はひどく怯えていた、夫に関しては失禁するほどだった。
「修二、脱出は不可能だ。完全に包囲されている」
「ドローンは?」
「撃ち落とされた...」
「報告遅いぞ!」
「ごめん!でも...」
「まあ良いさ、全員ぶっ殺してやるよ。こういう展開の方がアツいだろ...」
修二は夫妻を気絶させると総攻撃に備えて機銃を構えて突入してきた方向を睨んだ、しかし救出部隊が突入してくるタイミングと同時に激しく車両が揺れた、間違いなく爆撃だ。
「VIPごと殺す気か!?」
修二は耐衝撃姿勢を取り脱出口を探した、そして3回の連続した爆撃が止むとインカムからまた声が聞こえる、しかし恵一では無い。
「よう、これは追加料金だ」
「誰だてめえ、押し売りか?」
「レイダークロウ231、或いはダノとでも言っておくよ。友達を守っただけさ」
彼の名前には聞き覚えがあった、懐かしい響きだと修二は感じた。
「ッ!?ちょ待てよ、おい!」
また無線が切れると次は恵一から無線が入る。
「恵一?今の無線を特定しろ、信二から貰ったオートプログラムで発信源をっ!」
「お前何言ってんだ?無線なんて無かったぜ?」
「あ?ああ、そうか。とりあえずミッション達成だ、目的地へ向かう」
修二は夫妻を引きずり外へ出た、周辺は生き地獄と化しており原型が無くなった骸や引千切れた手足が瓦礫と一緒にそこら中に散乱していた、また肉を焦したような異臭がそこら中に漂っている。
「さっきのアイツ、いや良いや」
修二は無線のことを不審に思いながらも野次馬を避けるようにビルとビルの間に入り別のブロックへ出た、適当な車両のドアを破り夫妻を後部座席に投げると回路を繋いでエンジンをかけると集合場所へと向かう。途中スマートフォンが鳴った、信二だ。
「よう」
気力のない信二の声が聞こえた。
「よう、大丈夫か?」
「こっちは最悪だよ、そっちは?」
「無事成功だ、んで何があったんだ?」
「雛姫と尚人がバカやらかした、それで今俺の脇腹に5.56m弾の破片が住み着いてる」
「あのクソガキども!」
修二はその一言に怒りを抑えきれなくなった、自身を危険な身に晒しただけでなく長年の相棒すら危険に晒した、それだけで二人を罰したい気分で一杯だった。
「お前は平気なのか?」
「ああ元気だ、詳しい治療は恵一が来てからにする。それよりお前は平気か?」
「なんとかな、でも86はぶっ壊れた、わり」
「気にすんな、集合場所で待ってる」
「ああ、あともう一つお前に話したいことがあるんだ、あとで詳しく伝えるよ」
「オーケーだ、寄り道すんなよ?」
「分かってるよ、ん?わお2時間ヤり放題の風俗がある、ちょっとだけ行っちゃおうかな」
修二はわざとらしく途中目に写った国営売春宿の看板を横目に見てわざとらしく言うと電話を切った。
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