File4 危険運転


2026年4月30日 AM10:52

首都東京

旧東京都新宿区

政府専用第二東名高速高速道路付近


「お前、嘘だろ?」


信二は雛姫の右腕をしっかりと掴む、どうやら本当に生きている人間の様だ。


「とりあえず仕事の邪魔したなら謝るよ、でも私にもやることがあるんでね」


「ちょい待てよ雛姫!」


雛姫は信二と再会して間もないというのに雛姫は信二の手を押し退けてコンテナから降りる、コンテナを降りた雛姫は運転席へ移動しようとする。


「動くなよ」


恵一は雛姫にスパス12の銃口を向けるが雛姫は目もくべずに運転席へ向かう。


「おい、言う事聞け!マジで撃つぞ!」


恵一が威圧すると雛姫は一度足を止めて後ろを振り向いて身体を大の字にしてみせた。


「怒られるよ?」


恵一をあおる雛姫、恵一は照準を雛姫の胸に合わせてトリガーに指をかけようとしたその瞬間だった。


「撃つな!撃つなー!」


トラックの中から信二の叫び声が聞こえる、重い積み荷を運ぼうとしていたのか少し声がくたびれている。


「おいお前も運ぶの手伝ってくれよ、コイツ馬鹿みたいに重たいんだよ」


尚人もトラックから顔を出して二人に積み荷を運ぶように訴えた、恵一は銃口を下ろして積み荷の元へ走り3人で積み荷をトラックから下ろす。一方の雛姫はトラックを運転しようと運転席に回るがハンドルが吹き飛び肉片が散乱した座席を見て運転を断念した。他の4人はリフトに荷物を載せてスイッチを起動して荷物を下ろし始める、その時後方のトラックのコンテナのドアが激しく蹴り開けられる音がした。ここまで警備部隊の展開が遅かったのは、彼らが油断していたからだろう。


「なんだ!?」


尚人はスカ―Lの銃口をトラックに向けて臨戦態勢を整えた、トラックから展開されたのは20名の大成学会歩兵だった。


「コンタクト!敵部隊」


恵一が叫ぶと尚人はコンテナを遮蔽物にして発砲を始める、それが銃撃戦開始の合図だった。雨の様に飛び交う銃弾を避けるために信二はシールドを展開した恵一の後ろに張り付く。

修二だけはそんな銃撃戦の中平常心を保ちつつトラックの運転席前まで走る、そこには先程銃を向けた雛姫が体育座りをしていた。


「お前ここで何してんだよ!」


トラックの前に隠れた修二は雛姫と再び顔を合わせた。


「何してるって、銃撃戦止むの待ってるの」


雛姫はBDUのダンプポーチから手鏡を取り出して前髪を整えながら言う。


「やめさせたいならお前も戦え」


「あんたも戦ってないじゃん!」


「スライドの嚙み合わせが変なんだ!ごちゃごちゃ言ってないで援護したらどうだ?」



二人の雰囲気は悪化する一方で下手をすれば戦闘中に口論という最悪な結果を招きかねない状態になった。


「修二、スパスを貸すからその女に渡せ!」


口論を止めたのは信二だった、信二は恵一の背部に担いだスパスを修二の足元に届くよう地面を滑らせて恵一の肩を軽く二回叩いた。


「包囲するぞ!俺と恵一は左から、修二と雛姫は右から、尚人は援護しろ、スモークを頼む!」


信二は無線で呼びかけると首元に被っていた髑髏の口元がペイントされたフェイスマスクを上げて鼻と口を覆い隠しトラックに向かって前進を始める、銃弾がコンテナに何度も被弾し火花を散らしている中尚人は被弾覚悟で身体を遮蔽物から出してスカ―のアンダーバレルグレネードランチャーからスモークグレネードを二つ発射する。


「聞いたか?俺とお前は右からだ」


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


雛姫の声など聞かずに修二は雛姫にスパスを押し付けてMEUをホルスターから取り出すと大成学会の歩兵の方へ向かって走り出した、右左とジグザグに走り猛スピードで接近し煙幕をかき分け運転席をジャンプ台にして宙を舞い右側に展開していた9人のうち4人の歩兵の頭を撃ち抜く、歩兵集団の背後に着地した後はすかさず振り向いて二丁拳銃で残りの5人とコンテナ内部で待機していた3名を全員排除して右のMEUからリロードを始める。


「恵一援護頼む、前に出る!」


「任せろ!」


恵一はしゃがんでシールドからM249の銃口を出して発砲し信二は煙幕を上手く使い敵の射線を切りながら左側に抜けてトラックの後ろに回り込み修二と共にコンテナに張り付く。


「よぉ相棒、女はどうした?」


信二が修二と合流してから雛姫の安否を伺う。


「ああアイツか、向こうのトラックに隠れてビビッて小便漏らしてるぜ」


修二がいつものように冗談で返す。


「分かった、なら代えの下着を届けないとな!」


信二が言って二人は一度目を合わせてから左側に展開している敵を排除するために敵の背後から銃撃を開始し信二はしゃがみ込み修二は立った状態で発砲して一瞬で残りの兵士全員を排除する。

全ての銃撃が止みスモークグレネードが晴れてからもう一度積み荷の前に集合する。


「これで全滅か?」


尚人が聞く。


「ああ多分な、積み荷を運ぼう」


信二が答えると4人でコンテナを持ち上げリフトに乗りこみ橋下まで降りていく。


「おい急いだほうがいいぞ、増援が動き出した」


恵一が左手に装備したモニターを確認すると敵の増援部隊が動き出していた、装甲車4台の接近が確認できた。


「このままじゃヤバいわよ」


雛姫が言うと信二は背部に収納していたハッキング用のパソコンであるマジックキー Ver2.0を取り出してキーボードを叩き始める。


「シコる時間か?」


「ああ、さっきからビンビンなんだ!」


修二が焦り口調で冗談を飛ばすが信二は落ち着いてまた冗談で返す。


「信号をハッキングした、交通を混乱させる」


信二は高速道路へ続く信号を乗っ取り得意げに指を鳴らす。リフトが地面擦れ擦れで停止すると雛姫を除く4人は4隅を持ってクライアントが用意した防弾加工済みのバンの後部まで運ぶ、4人で運んだとしても一人60kg当たりの負荷がかかっている為腕が破裂しそうな感覚を覚える。


「雛姫ドア開けて!」


信二は雛姫に向けて叫ぶと雛姫は仕方ないという顔をして後部のドアを開ける。


「よし開いたぞ押し込め!」


ドアが開くのと同時に積み荷を奥まで押し込む、後部スペースの半分が埋まる程だった。


「ほら乗り込め撤収するぞ」


信二は運転席に乗り他の3人は後部の荷台に乗り込むと車内の武装を確認した。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」


そして流されるように雛姫も助手席に乗り込む、扉を閉めた後信二はクラッチを踏みエンジンをかけハンドブレーキを下げた、ギアを一速に入れるとクラッチを離しながらアクセルを目一杯踏み込んで車を発進させる。


「銃撃戦に備えろ!」


信二が言うと恵一はシールドを後部座席に立てかけてから窓に向かってM249を構え尚人はスカ―Lのチャージングハンドルを開いてドア前に伏せる。


「信二、MP7を貸せ」


修二が言うと信二はMP7を後ろに投げるように置いてからアクセルを踏み込んでギアを二速に切り替えた。


「早速お出ましだぜ、ぶっ殺してやる!」


敵影を捉えた恵一はガラス越しに敵の装甲車を目視し報告した、それとほぼ同時に向こう側からも機銃掃射を受ける。車内が防弾ガラスの粉塵で舞う中信二は平常心を保ちながら運転を続ける、2つ目の交差点を抜けた時に正面左右から一台ずつバイクに乗った機動歩兵が接近するのが見えた、機動歩兵はレバーアクション式のショットガンを装備し信二はショットガンに装填された弾薬をスラグ弾と見切り排除を第一に考えた。


「正面、カバーしろ!」


「任せろ!」


信二が叫ぶと修二が後部座席の窓を下げ腕を出してMP7で正面のバイクに乗った兵士を排除する。


「次は左右よ!」


雛姫が叫ぶと信二はすぐに右を見て左腿のホルスターからFN5-7を抜き出して歩兵の接近を待った、歩兵はレバーアクション式のショットガンを片手で構え信二に向けて数発発砲する、信二は何度も体をかがめつつ接近してきた瞬間に割れた窓の向こう側に数発発砲し一人を排除、左サイドの歩兵は窓越しに雛姫の顔面に銃を突きつけようとしたが雛姫はスパス12の12ゲージ弾を2発顔面に向けて発砲し無力化した。ザクロのように分裂した頭部から吹き出す返り血とガラス片をゴーグルに浴びた為吐き気を覚えるがそれを堪えゴーグルを外しながら周囲を確認した。


「左右装甲車、挟まれた!」


雛姫はサイドミラーを確認してそう伝える。


「後ろからももう一台来やがった!」


恵一も続けて叫ぶ。信二はハンドルを切り大通りに出ると別の装甲車も合流し信二達のバンは完全に包囲された。


「飛ばすぞ!」


信二はそう言ってギアを切り替えた。


「うぐぁ!」


後ろで銃弾が跳ねる音と恵一の悲鳴が聞こえる、装甲車の機銃から放たれた銃弾が防弾ガラスを撃ち破ったのだ。


「恵一がやられた!」


「俺は大丈夫だ、LMGで応戦しろ!撃ちまくれ!」


尚人が恵一を治療しようとするが恵一は出血する右目を抑えながら治療を拒んで尚人にLMGを使うように促す。


「クソ!これでも食らえ!」


尚人が闇雲に装甲車に向かって発砲すると運よく弾が装甲車のタイヤに当たり一台はそのまま減速、停止した。


装甲車の機銃は絶大な威力を持っている、機銃掃射を受け続ければ無事ではすまないのは目に見えている。

信二はこの最悪な状態から抜け出すために思考を巡らせて一つの決断をする。


「皆掴まれ!」


信二はそう叫ぶとギアを落とし大道路の交差点をドリフト左折して直進する、見えたのは信二が高速道路に向かう途中に目撃した停車中のタンクローリーだ、信二はギリギリまでタンクローリーに幅寄せしてC4を設置、そして後を追ってきた左右の装甲車が丁度タンクローリーの横を通った瞬間に信二は左手に握ったスイッチでC4を起爆させた、爆炎と煙が空高く巻き上がり爆発時の小さな破片などが爆発音の耳鳴りと共にそれらはバンの内部に飛んでくる。後方2台のうち一台は爆散して炎上しそれに続いた2台目も緊急停止した。


「クソッタレ!ざまあねぇぜ!」


信二は即興で考案した作戦が成功し気持ちが高ぶり、ハンドルに拳を打ち付けた。

アドレナリンの過剰分泌によって異常なほどに興奮して爽快感に包まれていた。


「おいしっかりしろ恵一!」


尚人は後方の2台の沈黙を確認すると恵一の治療に移った。しかし前方からもう一台の装甲車が接近する。


「あいつを頼むぞ雛姫!」


別の道路から正面に回り込み一般市民が乗った乗用車を踏みつぶしながら進む装甲車の破壊を雛姫に託して装甲車に向かって直進する。


「ええ!」


雛姫は一言だけ呟くと後ろを向いて尚人のスカ―を拾い上げ窓から上半身を出すと左目を閉じて右目だけでホロサイトを除く、そして単発で4発発砲し全てタイヤに命中させる。バランスを失った装甲車は減速しながら信二のバンへと突進してくるが信二は衝突する寸前にハンドルを切って別の道に出るとクライアントが指定した配達場所に進路を定める。


「全員報告しろ!」


信二が叫ぶ。


「恵一がヤバい、出血が止まらない」


修二はそう返答する。


「俺は平気だ!気にすんな」


恵一は震え声で叫ぶが彼の顔面の半分は大量の鮮血で染まっていた。


「いいやダメだ、よく見せてくれ。修二は頭を上げてくれ」


「ああ」


修二は恵一の頭を抱えて天井を向かせ目を開けさせた。

尚人はガーゼで彼の顔面の血液を拭いながら出血している眼球にライトを当てる。


「弾じゃない!多分ガラス片だ!」


尚人は眼球に突き刺さった破片を見つけると信二に伝えた。


「分かった、急ぐから安静に」


信二はそう伝えると制限速度内で加速し目的地へ急ぐ、数分車両を走らせ配達地点のコインパーキングへ立ち入った。


「よしここでokだ!急いで帰ろう」


信二は指定された駐車場にバンを止めて車を降りた、プロテクターやプレートキャリア等戦闘に必要な道具を全てゴミ袋に入れて同駐車場に待機させておいたセダンの運転席に乗り込む。すると雛姫が運転席に顔を出して信二を見た。


「なんだ?」


「アタシも一緒に行く」


雛姫は半ば強引に後部座席に乗り込む。次に後部座席に乗り込んだのは恵一と尚人だった。


「おいなんでコイツがいるんだよ?」


尚人は恵一を後部座席に乗せる手伝いをしながら信二に聞く。


「とりあえず逃げるぞ、質問はそっからだ」


最後に修二が駐車場内の自販機で買ったエナジードリンクを飲みながら助手席に乗り込むとそう言った。

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