視る者と除霊師

月夜桜

プロローグ

「きゃーっ!」


 私の隣にいる愛しの彼にぎゅーっと抱きつく。

 私達が今いるのは、お化け屋敷。それも、日本でいちばん怖いと噂されているお化け屋敷に。

 一説によれば、本物のお化けが出るそうだ。


 曰く、白装束を着た長髪黒髪の女性に「わたし、きれい……?」と話し掛けられた。

 曰く、血塗れの子供に追い掛けられた。

 曰く、頭に矢の刺さった武士が立っていた。


 などなど、怪しい噂が絶えない場所だ。

 そんな場所に、私は彼氏である羽柴かおると共に訪れていた。


「……あのなぁ、由希。怖がってるように見えて、全然怖がってないだろ?」

「……てへっ☆ バレた?」

「バレバレだ。何年付き合ってると思ってんだ。抱きつきたいなら普通に抱きつけばいいだろ?」

「ほぅ。そして私の胸の感触を楽しみたいと?」

「ちがっ、そうは言ってねぇだろ!!」

「ふふ~ん♪」


 機嫌よく歩いていると、角を右に曲がった先に白装束を着た長髪黒髪の女性が。

 ……これ、マジもんじゃん。


「かおるくぅ~ん」

「ん~? どした~?」


 私の声を聞き、かおるくんが近寄ってくる。

 そして私と同じように、ソレを見る。


「おお、三級だなぁ。噂、本当だったんだ」


 彼はそう言いながら御札を取り出す。


「ねぇ……わたし……きれi──」

「三級なら、これで十分っと。《安らぎを》」

「うぎゃぁぁぁぁああああっ」


 そうして目の前の女性が消える。

 そう、彼は除霊師。そして、私は〝視る者〟。

 本来は見えないスピリチュアルな存在を認識し、具現化することが出来るのが私。

 さっきの御札は、取り憑いた者からスピリチュアルな存在を除霊する力を持つ。

 つまり、対象が何かに取り憑いていないと効果を発揮しないのだ。

 スピリチュアル──主に幽霊やゴーストと呼ばれる存在は、認識され、具現化していなければ、いくら除霊師と言えど手出し出来ないのだ。

 だから、私みたいな存在が必要なのである。

 しかし、私の能力は子に受け継がれない。

 その点を思えば、かおるくんは運が良かったのだろう。

 幼馴染という身近に私がいたのだから。


「うーん、これがいたって事は他の噂も真実味を帯びてきたな」

「そうだね。例えば──あそこにいるのとか、完全に落武者だよね?」

「……おいおい、ここ、マジでやばい所かもしれないぞ。あの落武者、二級はある。由希、具現化したか?」

「してるよ~」

「なら──」


 彼はそのまま大幣を取り出す。

 除霊に大幣とは、これ如何に。

 その大幣は、特級用除霊札と白木の棒で作られている。

 そして、持ち手の先端は尖っており、突き刺さるようになっている。

 勿論、持ち手にも特級札が貼られている。


「やっぱり気付かれていない相手には投げ物に限るよな!」


 とてもイキイキした様子で、それはもう楽しそうに大幣を投げ付ける。

 ふふ、可愛い。


「うがぁぁぁぁぁ!! ヤメロ! ヤメロォォオォォォオォォ!!!!」

「いーや、やめないね! 《羽柴の末裔が冀い奉る・羽柴の名の下に・彼の者に安らぎを与え給え》」


 大幣を起点に眩くも暖かさを感じさせる極光が落武者を包み、浄化する。

 塵となった落武者は、何処か満足したかのような顔をしていた。


「ふぅ……それじゃあ、先に進むぞ」

「うんっ!」

「それと、いつもありがと。これからもよろしくな」

「!!!! ふふ──うんっ!! かおるくん、だぁーい好き!!」

「うわっ!? ちょっ──」


 そう、これは私と彼の人生を記したたった一つの物語である。

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視る者と除霊師 月夜桜 @sakura_tuskiyo

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