第9ターン(十一月)

 第九回:個別マスターより

「今月も『Drハルマゲの危険な世界』に参加してくれてありがとうございます。今回も私信をありがとうございました。

 動画を見せてもらいましたが、ボブカットの素敵な笑顔ですね。

 抱いている犬はポメラニアンですか。とても人懐こそうで可愛いです。

 ゲーム内の最終決戦はこの様になりましたが、あなたの感想はどんなものでしょう。

 あなたのPCは生き残った側に入れましたが多くの同胞が宇宙の星となりました。

 これからは彼らの代わりにも生きなければなりません。それともあなたのPCも亡くなった者の後を敢えて追うでしょうか。

 決意のほどは最終回にアクションとしてお知らせください。

 今回は、アクションは難産だったが、〆切間際になって自分にPCが乗り移った様になり、突然アクションがスラスラと一気に書き上げられたとか。

 それは私にもPL時代に経験があります。

 まるで自分がそのPC自身になったみたいに一気に書けるんです。PCの考えが奥底まで解って「こう思いついたんだから仕方ないだろ」的にどんどん筆が進むんです。アクションを書いたのがPLの私ではなく、PC自身だと言ってもいい。まるで自動書記です。

 しかし、この状態はある危険をはらむのです。

 これが悪い結果を生んで他PLを不快にする様な状況を生んでしまうと、責任は全てPCにあると言ってしまいたくなる。

 でも違うのです。

 幾らPCになりきってアクションを書いたとしてもそれに『GO』サインを出すのPLでなくてはならないのです。それがPBMにおける安全装置なのです。アクションの書き込みを終わった後、最後に運営への『送信』ボタンを押すのは『会員規約』を読んで参加したPL当人でなくてはならないのです。

 誰だって多かれ少なかれPCに感情移入します。

 しかし最後に責任を取るのはPLです。

 それが『ゲーム』なのです。

 ところで私個人と直接面会したいというあなたの申し出ですが、残念ながらお断りさせていただきます。

 いつもならばPBM終了時に運営がオフィシャルイベントを開き、PLとMSの直接交流の機会もあるのですが、やはり今回は世情からそれは不可能だそうです。

 勘違いならば申し訳ありませんが、私はあなたの想いを受け止めるのにふさわしい人間だとは思えません。

 私があなたを完全に理解しているかと問われれば、そうだとは言い切れません。

 たとえば、私は今回、あなたから打ち明けられるまで女性PLである事を知りませんでした。私信の送り主名もずっとPC名でしたし。MSへ渡されるPLデータとはその様に微微たるものなのです。

 送られてきた動画を、そして今までのアクションを見る限り、あなたはとても素敵な人だと思います。

 実際にPBMの参加者同士が結婚した例も確かにあります。

 しかし、私はあなたと直接会えば、幻滅させてしまうでしょう。

 PLとMSは近すぎてはいけない。

 ただ、あなたとは『ゲーマー』同士の間柄でいたいのです。

 あなたのアイテム称号欄に『勝利者のトロフィー』『地球艦隊生存者』が出力されていると思います。

 では、最終回もあなたにPBMの守護精霊の御加護がありますように。

 十一月某日 百円アイスMS拝」

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