閑話 定例会、その続報


「──ああ、そういえば……」



 ガレイトが思い出したように、サキガケの顔を見る。



「サキガケさん、今日はどうでしたか?」


「ニン?」


「その、ギルドの定例会は……」


「……とりあえず、ひととおりの成果は報告しておいたでござる」


「熊の……ですよね?」


「ニン。それと、どらごん・もひぃとの事もでござるな。血で変異してしまった熊を見るに、今後、他にもまだ被害は出てそうでござるから」


「す、すみません……」


「へ? なにが?」


「俺が考えなしに倒してしまったせいで、こんな大事になってしまって……」


「いやいや、なにを言っているのでござる! むしろ、大事で済んでよかったくらいでござるよ!」


「え?」


「『え?』じゃないでござるよ! ……本当に自覚してないのでござるか?」


「いえ、でも、もう少し利口なやり方はあったんじゃないかって……常々……」


「謙遜……ではないのでござるよね? はぁ~、すげえな、がれいと殿」


「でも、サキガケさんの言うとおりですよ! ……あの、改めて、ありがとうございました、ガレイトさん。グランティを守ってくれて……」



 ブリギットがそう言って、頭を下げる。



「いえ、感謝されるようなことは……俺はただ食材を探していただけでしたし……」


「ニン。あそこでがれいと殿がどらごん・もひぃとを狩っていなければ、おそらくぐらんてぃの街は……うーん、考えただけでも恐ろしい。……本当は、このことでギルドから、多額の報奨金なりが支払われるのでござるが……」


「す、すみません、そういうのはちょっと……。ただでさえ、最近はあまり評判のよくない偽名が、また広まってしまいますから」


「まぁ、偽名どうこうは置いといて……がれいと殿ならそう言うと思って、拙者、どらごん・もひぃとの死因は適当にでっち上げておいたでござる」


「ありがとうございます。……ちなみに、なんと報告したんですか?」


「自然死」


「うーん……苦しい……」



 ガレイトが腕組みをして、唸る。



「そりゃ苦しいでござる。『何百何千年と生きた伝説の竜が自然死って……』みたいな雰囲気でござった」


「そ、そうですよね……」


「しかしそこは、もおせ殿が上手く口裏を合わせてくれていると思うでござるよ」


「モーセさんが……」



 その名を聞いた途端、表情が暗くなるガレイト。



「拙者、あまり詳しくなかったでござるが、どうやらなかなかのやり手のようでござるよ、あの方は」


「たしかに、仕事はできるのでしょうが……あの方は苦手というか……」


「あ、そうだ。竜の血で復活した、グラトニーちゃんのことも報告したんですか?」



 ブリギットがサキガケに尋ねる。



「いいや、それはさすがに報告していないでござる」


「そ、そうなんですね……よかった……」



 ほっと胸をなでおろすブリギット。

 それを尻目に、ガレイトがサキガケに尋ねる。



「ですが、報告しなくてよかったんですか?」


「今のところ害にはならなそうでござるし、なにより、ぶりぎっと殿はあのへんてこ吸血鬼のこと、気に入ってるのでござろう?」


「はい。グラトニーちゃんは私のものです」


「あ、あはは……いちおうあれでも危険度〝Aえい〟の魔物でござるから、気を付けるのでござるぞ……」


「はい。気を付けて飼います」


「本当にわかってるのでござるか……?」


「……なんだか、すみませんサキガケさん」


「いやいや、がれいと殿が謝る必要はないでござるよ。それに、そんなことをぎるどに報告しても、余計な混乱を招くだけでござるからな」


「混乱?」


「ニン。本当ならこのまま本腰を上げて、ぐらんてぃ周辺の調査と変異種の討伐もやらなければならないでござる。そこへ伝説(笑)の吸血鬼なんて現れたら……」


「なるほど……」


「だから当面、あの吸血鬼はぐらんてぃ支部・・の管理下に置かれることになると思うでござる」


「グランティ支部の……」


「それも、本部には内緒で」


「……それ、いいんですか……?」


「ダメでござる」


「ですよね……」


「けどこの場合、緊急事態というわけでもござらんから、現場の判断に委ねられるのでござる。現場、すなわち拙者が言わなくてよいと判断したので……たぶんいけると思う」


「物は言いようですね……」


「まあ、監視といっても、あくまで悪い事をしていないか見張るだけでござる。雑用としてこき使ってる限りは全然構わないでござるよ」


「そ、そうなんですね……なにからなにまですみません……」



 ガレイトが申し訳なさそうに言うと、サキガケがニコッと微笑んでみせた。



「散々世話になってるでござるし、せめてこれくらいは役に立たせてほしいでござる」


「……よし、帰ったら、きちんといい子にするよう、言い聞かせておかないと……!」



 そう言って握りこぶしを固めるブリギット。



「……うん。何度も言うようでござるが、いちおう伝説の吸血鬼でござるからな?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る