閑話 嘘と方便


「──なんでウソついたの」



 カミールがガレイトを見上げて言う。

 ガレイトは困ったように頭を掻いた。



「なんでウソついたの、おじさん」


「……聞いてくれ、カミール」


「きいてるよ」


「カミールにイヤな思いをさせたのは悪いと思ってる。だが、それは決してカミールを騙そうとしているわけじゃないんだ」


「じゃあ、どういうこと?」


「ど、どういう……? ……そうだな、もし本当のことを話せば、悪戯にカミールを混乱させてしまかもしれない、と思ったんだ」


「……なにいってるか、わからないんだけど」


「──だよな。私もさっぱりだ。どういうことなんですか、ガレイトさん」



 イルザードはカミールの両肩に手を置くと、ニヤニヤと楽しそうにガレイト見た。



「くっ、覚えておけよ……! いいか、カミール。仮にもし、俺が騎士団の団長だと打ち明けたら、カミールはどう思う?」


「どうも思わないよな? カミール少年?」


「どうもおもわないけど……」


「う、嘘をつけ! 嘘を! イルザードも余計なことを言うんじゃない!」


「ガレイトさんじゃないんですから、少年が嘘をつくわけないじゃないですか。なあ? カミール少年?」


「……ウソじゃないし」



 ガレイトは無言でイルザードを指さす。

 イルザードは「ははは……」と笑うと、そのままカミールから離れていった。

 ガレイトはため息をつくと、その場にしゃがみ込み、カミールと視線の高さを合わせる。



「……さっきの、カミールの言葉の真偽はともかく、あの時の俺は、カミールに余計な情報は与えるべきじゃないと思ったんだ」


「どういうこと?」


「あの時、俺たちはイカダを一生懸命作っていただろう?」


「うん」


「つまり、島を出られるかどうか、大事な時だったんだ。……だから俺は、カミールにはイカダ作りに集中してほしかったんだよ」


「イカダに……」


「そう。イルザードが騎士であると知ったとき、カミールの顔には少なからず、動揺の色が浮かんでいた……ように見えた」


「ぼくが……」


「そのうえ、俺の正体を知ってしまったら、とてもじゃないけど集中できなくなる……と、俺は考えたんだ。だから、あえて言わなかった」


「じゃあ、ぼくのために……?」


「いいや、みんなのために、だ。カミール」


「そうなんだ……だから、ウソをついたんだね……」


「いや、俺は、嘘はついていないぞ」


「え?」


「もう何度か聞いていると思うが、俺の今の肩書きは料理人だ」


「ほんとうに……?」


「ああ、まだ見習いだがな。騎士だったのは過去の俺だ」


「りょうりにん……」


「だから……カミール。騎士だった・・・ことを、隠していたことについては、あやま──」


「ううん、いい。……なんとなく、そのりゆうも、わかったきがする」


「カミール……」


「だから、はやくつくれるといいね、おいしいりょうり!」


「……ああ。ありがと──」


「だって、おじさんのりょうり、すごくまずいし!」


「……そっか。だよな……まずいよな……」

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