閑話 ご当地鴨熊フェアが終わって……②


 同時刻。

 オステリカ・オスタリカ・フランチェスカのホール内。

 乾杯の音頭が終わり、それぞれが話し合っている中──



「……んで、なんであんたがここにおんねん。吸血鬼ぐらとにぃ



 ジョッキの中の麦酒をぐびぐび飲んでいたサキガケが、たまたま近くに座っていたグラトニーを睨みつけた。



「貴様こそ、さっさと山の中へ戻ればよかろう。この田舎忍者風情が」


「田舎は余計やろ! 千都はええとこや! 親切な人が多い、飯が美味い、魔物も出ぇへんし、安全や!」


「魔物も出んのに魔物殺しやっとるとか、あれか? ネタか? 笑ってやったほうがよいのか? わっはっは、バーカ」


「じゃかしい! あんまうだうだ言っとると、もっかい封印するで!」


「はっはっは。妾を封印するよりも先に、まずはその田舎訛りを封印することじゃな!」


「あんたこそ、人間の言葉ばっか喋っとらんと、はよ同族の所でのびのび暮らしてたらええやろ」


「よ、余計なお世話じゃ」


「……それかあれか? あんた、同族に友達おらんのか?」


「なぁ!?」


「かっわいそーぅ。迷子の迷子のぐらとにぃちゃん、あなたの住む時代はここですか? ……なぁ~んて、わっはっはっは!」



 そう言って、気持ちよさそうに麦酒を呷るサキガケ。



「ふ、ふん……まぁ、妾も言い過ぎたからの」


「な、なんやの、いきなり……」


「なに、故郷を田舎だの、いきなり田舎へ帰れは、ちと言い過ぎたと思っての」


「そ、そんなん、言い過ぎた内には入らんよ……うちかて、さっきはなんか色々言うてごめ──」


「じゃっておぬし、救えんほどの方向音痴じゃったからな。失敬失敬」


「はあ!?」


「田舎に帰ったら、もうここへは来れんからの! ……いや、まず田舎までひとりで帰ることも無理か!」


「なんやてぇ……!」


「道端でカピカピに乾いたミミズの如く、絶命しとるかもしれんの! わーっはっはっはっは!」


「ぐぬぬ……言わせておけば、このアホ吸血鬼ィ!」



 サキガケの手が、グラトニーの頬へ伸びる。



「ひだだだだ……!? めよめよ! 引っるへない!」


「へん! 謝るんやったら今のうちやで。舐めた口きいてすんません──あいだっ!?」



 今度は逆に、グラトニーの手がサキガケの頬へと伸びた。



「ほ、ほの程度へいほ苦痛ふふうで、はらははひるわけなかろう!」


「は、涙目はひはへになっとるんは、どこの吸血鬼ひゅうへっひかなぁ……?」


「はにをー!?」

「はんはほー!?」


「──グラトニーちゃん、私に何か用……?」



 突然、どこからともなくブリギットが現れる。



ほう!? ほうなどない! 引っんでおれ!」


「でも、ガレイトさんが……」


今取ひはほひゅうじゃ。小娘ほむふめのところにっておけ!」


「モニモニは今、忙しいみたいだし……」


「……そういえば、この五日間いふははん、もにか殿ほの姿ふははをお見掛ひはけしなかったが……どこへいったのござる?」


「え? ずっといましたよ……?」


「へ?」



 グラトニーとサキガケの声が重なる。



「ほら、あそこ。いま、リカルドさんと話してるんだけど……」



 ブリギットがそう言って指をさす。

 モニカもそれに気が付いたのか、ブリギットに向かって手を振って見せた。



「へ!?」



 バチィン!!

 グラトニーとサキガケ。お互いの手が同時に離れ、頬がゴムのように収縮する。



「あの小娘が……」

「もにか殿だったでござる……!?」



 二人が呆けた顔で、示し合わせたように続けて言う。



「……ふふ、やっぱり二人って仲いいね」


「誰がじゃ!」

「誰がやねん!」



 店内にシンクロした二人のツッコミがこだました。

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