閑話 吸血鬼の昔話
昔々、今よりも人と亜人との境界線が曖昧な、そんな時代──あるところに目も眩むほどの黄金の髪に、吸い込まれるほど深く、紅い目をした、それはそれは美しい吸血鬼がいました。
吸血鬼はその美しさ故、数えきれないほどの男から求婚されていました。
ヒト、エルフ、ドワーフ、リザードマン……様々な種族が毎日、たくさんの贈り物を手に、吸血鬼の元を訪れましたが、吸血鬼はその誰とも結婚しようとはしませんでした。
そんなある日、一人のエルフの男が言います。
『おまえがいるせいで吸血鬼さんが気味悪がっている。俺の顔を見ろ、こんなにも美しい。おまえの顔は吸血鬼さんには不釣り合いだ』
それに反論するように、リザードマンの男も言います。
『おまえの贈り物が貧相なせいで吸血鬼さんが心を閉ざしている。俺の贈り物を見ろ、色々な動物の肉がこんなにある。おまえの力では吸血鬼さんを満足させられない』
お互いの
吸血鬼は驚き、その争いを止めようとしましたが、吸血鬼はこれを収める術を知りません。
暫くして、騒ぎを聞きつけた王様がやって来ます。
その王様の名はセブン。
セブンはこの争いを治めるべく、数人の兵士を引き連れて、やって来ていました。
けれども、争いを治めに来たはずのセブン王は、吸血鬼に一目惚れしてしまいます。
『争いを治めるので、私の妻となってください』
吸血鬼は、争いの原因が自分である事の負い目もあり、これを受諾。
こうして争いは収束し、吸血鬼はセブン王の妃となりました。
しかし、今度はお城へついてびっくり。
吸血鬼の他に、セブン王の妻は六人もいたのです。
つまり、吸血鬼はセブン王の七番目の妻。
でも、吸血鬼はこのことについて怒らず、むしろ喜びました。
自分の他に六人も妻がいるのなら、気にせず、放っておかれるだろう、と。
ところが、セブン王は吸血鬼を、とても七番目の妻とは思えないほど深く愛しました。
吸血鬼もなるべく応えようとしましたが、長くは続かず、吸血鬼はセブン王と会う時以外は、まるで魂の抜けた人形のように、日がな一日、空を眺めていました。
けれどもそれは、他の妻たちにとって、面白い事ではありません。
王に無視された妻たちの不満は、やがて恨みとなって、吸血鬼へと向けられます。
そんなある日、妻たちはついに、吸血鬼が人ではない事を突き止めます。
そして王に内緒で、吸血鬼を亡き者にするため、退治屋を雇いました。
その者の名はリョウ。
リョウは皆が寝静まった後、吸血鬼の寝室へと忍び込むと、速やかに仕事を遂行しようとしました。
静かに寝息を立てる吸血鬼。
リョウはゆっくりと近づき、吸血鬼の喉元に刃を突き立てようとしましたが、そこへ一筋の月光が差し込み、吸血鬼の顔を照らし出しました。
リョウはそこで息を吞み、吸血鬼もそこで異変を察知し、起きてしまいます。
逃げる吸血鬼に、それを追うリョウ。
しかし、吸血鬼もやがて追い詰められてしまいます。
リョウは手に持った刃を振り上げると──そのまま床に放り捨てました。
それからというもの、リョウは毎日お城へ通い、吸血鬼と他愛ない話をするようになりました。
最初は怖がっていた吸血鬼も、次第にリョウと打ち解けていき、やがて二人は恋に落ちました。
ですが、リョウはセブン王の他の妻から、吸血鬼の退治を依頼されている身。
自分が失敗しても、また他の退治屋が現れる。
そう考えたリョウは、決心し、吸血鬼を城から連れ出そうとしましたが、運悪くセブン王に見つかってしまいます。
激怒した王は吸血鬼をリョウ共々殺そうとしましたが、吸血鬼はそれをかばい、逆に重傷を負ってしまいました。
『逃げてください。妾は不死身です。死ぬことはありません』
『死なないとはいえ、捕まってしまうとひどい目に遭ってしまいます。貴女を置いていくことなど出来ない』
『それが妾の運命なら、妾はそれを受け入れます』
『……自分さえ、来なければこんなことにはならなかった』
リョウはひどく後悔しました。
『いいえ、あなたのお陰で、ほんの少しの間でしたが、素敵な時間を過ごすことが出来ました』
そんなリョウに、吸血鬼は優しく語りかけます。
『ならば、せめて最期はあなたの手で──』
『……わかりました。ですが、その代わりに自分に呪いをかけてください』
『呪い、ですか?』
『はい。我が国では一度役目を終えた命は、輪廻の環に戻り、また自分の子どもの子どもとして生まれてくると信じられています。だから、もう一度生まれ変わっても、あなたを愛せない罰を──』
こうして吸血鬼は封印され、リョウ一族は女しか産めない家系となりました。
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